ユウマとパートナー達の暗がりハロウィンパーティ
暗闇の中、ろうそくの明かりだけが部屋を照らしていた。
「パトリシア、お皿落とすからつつかないでほしいんだけど」
僕の腕を鼻先でつつく仔馬姿の相棒を制して、テーブルにカボチャのパイを置く。ケイカから貰ったものだ。僕は手芸は得意だけど、料理は彼女ほど上手ではないから、こうして神獣郷内でも頼りにしている。あっちはあっちでハロウィンの限定配信を行なっているようだから、配信画面のウィンドウを開いておきながら、自分達のハロウィンパーティの準備を進めている。
「あうん、ろうそく増やして。うん、そこでいいよありがとう。タイガーは肉とサラダどっちがいい? ……そう、今日は肉の気分なんだね、分かった」
影九尾のあうんに影を使ってろうそくを広範囲に設置してもらい、炎を灯すように頼みながらタイガーのリクエストにも答えて肉料理を追加する。タイガーは窮奇だから、牛の姿と虎の姿がある。今日は虎の姿で肉を食べたい気分だったらしい。こういう特別なパーティの日は雑食状態で美味しいものを食べたくなるものなんだろう。サラダは普段から食べることもできるし、それはそうか。
「カルマ……カルマは?」
「こぉん」
あうんに尋ねると、ある一点を見つめられる。部屋の隅でアメミットのカルマがぐうぐうと寝ている姿が目に入った。リンゴと肉が好きな彼のために、さっぱりめの肉料理は多めに作ってもらっている。パートナー達のアイシングクッキーのために8割ケイカが作ってくれたものだけど、残りの2割は僕が一緒に隣で作った料理だ。ケイカは『罪』がないから、カルマが食べる料理を作るには向かない。アメミットは罪人を食べる伝承を持つ聖獣だから。罪人を狩る僕もまた、罪人として彼の餌になる素質がある。部屋でカルマが眠っているのは、実は僕のためかもしれないと知ったのはいつだったろうか。
「分かった、そっとしておくよ。あとでハロウィンにはしゃぐ罪人どもを食べに行こうね」
「……」
カルマの尻尾だけがびたんと床を打ちつけて返事をする。
それまでは、リンゴと肉料理を彼の前に置いておくのが吉だ。
「……ところでアビスは?」
パトリシアに尋ねる。
ガルムのアビスは不定形のタールが狼の形をした存在だ。どう頑張って見ても聖獣というより魔獣という見た目をしているけれど、しっかりとした僕のパートナーの一匹。前に惚れ込んでスカウト成功させた日のことがもうすでに遠い気がしてくるな。
アビスはイタズラ好きなので、いつも姿を隠している。大抵こんなときは……。
「っと」
パトリシア達がそっと僕から離れたので、僕も二、三歩横に逸れる。すると、さっきまで僕が立っていた場所に黒いタールのようなものが床から滲み出してきて、巨大な口が閉じていく。凶悪な設置罠かと思うくらいの挙動だ。まあ、あれが『愛情表現の抱き締め行為』だと分かっていないと捕食にしか見えないが、僕はそれを知っているので気にしない。ただ、持っている食べ物類は消化されてしまうのと、装備がどろどろになってしまうので避けただけだ。
「てぃりり〜♪」
「ご機嫌だね」
アビスのいるタール溜まりにリンゴを丸ごと一個落とすと、真っ赤な舌が伸びてきてべろんとすくいとって口の中に消えていく。普通にホラーだけど、それがなんだか癖になる可愛さがあると思うほど、僕はもうすでに慣れていた。
「そうだ、みんな集まって。ケイカと一緒に僕らのアイシングクッキー作ったんだけど……」
言いながらお皿に僕ら全員のデフォルメキャラクター化したクッキーを並べる。全員分の絵柄を十枚分作ってあるので、どれをとっても食べられるし、全員一枚ずつ食べることもできる。
そうして見せたパートナー達は喜んでいたけれど、彼らが真っ先に口にしたのは僕をキャラクター化したクッキーだった。
「うちの子に愛されすぎて嬉しい……ってこういうことかな。あとで食事後の運動でPKKしに遊びに行こう」
全員の元気な声が暗闇の中で響いていた。
「……それと、サタソ様がこっちのサーバー戻ってきたら殺しに行こう」
返事の鳴き声があがる。
開きっぱなしのウィンドウの中には、ケイカが『デート』と称されて連れ回される光景が映されていた。