3
壱希のクラス、2年A組の人数は25人。
成績優秀者のクラスだと聞いている。
そのうち、女子は壱希を入れて2人。
なぜ女子が少ないかというと、近くに山吹学園と同レベルの、由緒ある全寮制の女子校があるためだ。
御令嬢達の親からすれば、共学の全寮制の学園で、大切な娘が万が一にも男子生徒と過ちを犯す危険を回避でき、なおかつ令嬢教育に強い女子校の方が魅力的なのだろう。
なので、山吹学園はほとんど男子校のような状態だが、それは令息達の親からしても、同じような理由で都合がいいところではあるようだ。
そして山吹学園は、中等部からのエスカレーター式となっている。
クラス分けはシビアに成績分けになっていることから、ほとんどメンバーが変わることなく6年間を過ごすことになる。
そんな中、高等部のこんな時期外れの編入生。
しかも女子。
興味を引かない理由はなく、クラスメイトの好奇心に満ちた視線が壱希に突き刺さる。
(慣れてるつもりだったけど…こう大勢に一気に注目されるのは初めてだな)
明らかにキラキラとした視線を受け、戸惑う。
この類の関心を向けられるのは初めてだった。
好奇の目であることには違いないが、そこに嫌なものはほとんど含まれていない気がする。
想像していない反応だった。
けれど。
(ーーーーーっ!?)
ざわり、と。
肌が泡立った。
好意的な中に混じる、鋭い視線。
探るような、測るような、暴く者の目だ。
(これは……あいつ?)
視線の主はすぐにわかった。
教室の窓側、一番後ろの席。
ゆるやかな癖のある黒髪。長目の前髪、黒縁眼鏡の男子生徒。
壱希が「気づいた」ことに気づいたのか、ふ、と鋭い空気が消える。
(何だったんだ…?)
嘘みたいに軽くなる空気。
件の男子生徒はもう壱希から興味を失ったのか、窓の外を眺めていた。
「神屋の席はあそこだ。花枝」
「はい」
青木の言葉に、花枝と呼ばれた生徒が手を挙げる。
このクラスのもう一人の女子生徒だった。
その後ろの席……そしてあの男子生徒の隣の席が空いていた。そこが壱希の席らしい。
何という偶然か。
促され、ゆっくりと席につく。
「いろいろとわからないこともあるだろうから、みんなでなるべく教えてやってくれ。ホームルームは以上」
あっさりした青木の締めと鐘の音が重なる。
こうして、壱希の学園生活がスタートしたのだった。