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ひらひらと膝の上で揺れるスカート。
体にぴったりと合うシャツ。
(まだ変な感じ…)
和服を着慣れている壱希にとって、制服の着心地は窮屈なような心許ないような、とにかく落ち着かない。
これから毎日これを着るのかと思えば、不思議な気分になる。
「神屋さん。緊張してる?」
難しい顔をしていたのか、隣を歩く担任ーー青山がそう声をかけてきた。
壱希は首を振って否定する。
「いえ…緊張はしていません。ただ…」
「ただ?」
緊張はしていない。
たとえ壱希にとって、今日が人生で初めて「学校」という所に通う日であったとしても。
初めてこんな距離感で初対面の人と歩き、会話しているのだとしても。
仕事以外で屋敷の者以外と関わるのが初めてなのだとしても。
ーーー好奇の目で見られるのは慣れている。
そして、自分には仕事以外では何も期待はされていないのだと知っていた。
だから、不安だとかよく思われたいとかいう気負いはない。
緊張のしようはない。ただ。
「どういうものなのか、わからないだけです」
話しているうちに、教室の前まで来た。
まずは青木が入り、生徒たちに話をしたあと、壱希を促す。
一歩、二歩。
青木の横に立つと、生徒たちに向き合い、その視線を落ち着いて受け止める。
「神屋壱希です。よろしくお願いします」
春を過ぎた時期外れのこの日に、壱希の学園生活が始まった。