第一話 物語の始まり
小鳥の鳴き声が聞こえる。朝日が昇り、薄暗かった寝室がほのかに明るくなる。
妾はゆっくりと目を開けた、何故か目の縁が濡れている気がした、触れてみてそれが涙だとすぐには気づかなかった。
外からカンカン カンカンと騒がしく鳴る鐘の音が耳に入ってきた。
そろそろ支度をしなければ面倒だ。そう考え妾は着ていた寝間着を脱ぎ、枕元に用意されていた黒色の着物に着替え、姿見の前に立つ。
そこには妾が映っていた。
雪のように真っ白な髪を腰の辺りまで伸ばしており
目は快晴の空のように透き通った紺碧色
幼い娘のような小さく華奢な身体
そして髪と同じく真っ白で先っぽが青い狐の耳と尻尾がある。
そう妾は人ではない、妖怪なのだ。それも妖術を使い人を騙す邪悪なものとして恐れられている妖怪
『化け狐』だ。
「…妾は妖怪、人と妖怪は決して分かち合えない…か」
あの者が口癖にしている言葉を噛みしめるように呟く。
「そんな事分かるはずも無い事を何故言い切るのじゃ?」
あの者はまだ幼かった妾を拾いここまで育ててくれた。妾にとって恩人であり親でもある。だから妾はあの者を嫌ったことなどなかった。ただあの者の考えは極端すぎる。
「昔はもっとましだったのじゃがな…」
ため息を漏らし、少し憂鬱な気分で妾は寝室を出た。
「おはようございます。御狐様。」
寝室を出てすぐ左から聞きなれた声がする。またか。と思いながら声のするほうに目を向ける。
そこには、いつも妾の世話をしてくれる犬のお面をつけた巫女装束の少女、『犬巫女』が頭を下げていた。『犬巫女』はあの者の配下で普段は妾達の食事を用意したりこの場所『イヌカミ神社』の掃除や警備を行っている。
「今日はお早いですね。御狐様。」
いつも世話になっているから『犬巫女』には感謝をしているのだが…
「…?どうかなさいましたか?御狐様。何やら顔色悪そうですが…」
『犬巫女』が心配そうにしている。
「…はあ いつもいつも御狐様、御狐様と堅苦しい。妾にはコックリという名前があるのじゃからコックリと呼んでほしいのじゃが?」
堅苦しい空気に耐え切れなかった妾は『犬巫女』を茶化した。
この者はいつも真面目過ぎて疲れるのでいつも妾がこうやって冗談を言ったり悪戯をしたりするのだが…
「申し訳ありません私にはできません。」
と礼儀正しくけど感情がこもっていない言葉が返ってくる。
「なぜじゃ!?」
妾が尋ねると、
「宮司様の命ですので。」
としか答えてくれないのでまともに会話が続かない。
「はあ じゃあせめて今日一日妾に付き添ってほしいのじゃ!お主はいつもしっかり役目を果たしておるのじゃから一日くらい休んでもよいじゃろ!?な?」
妾は上目遣いで『犬巫女』に懇願する。
「お願いなのじゃ…」
上目遣いで頼んだのが効いたのか『犬巫女』は沈黙し、
「…。…今日だけですよ。」
妾にしか聞こえないように小さく答えてくれた。
「-っ!ありがとうなのじゃ!」
歓喜のあまり妾は興奮して尻尾を激しく振った。
気のせいかもしれないが『犬巫女』も少し嬉しそうだった。
「そうと決まれば妾についてくるのじゃ!」
妾の気分が最高潮に達している今なら何でもできる。そんな気がした。
「さて…何をしようかの…」
今日一日のことを考えるだけで足取りが軽くなる。
今日は素敵な日になりそうだ。