クラスメイト
「今週のAKB見た?」
「見た見た、やっぱ可愛いよな」
「いや、ブスばっかでしょ」
「そんなこと言ってっから、彼女できねぇんだよ」
「否定はしない」
「しねぇのかよ」
いつも通りに騒がしいこのクラスには、まだ馴染めていない人間が2人いた。
だが、入学から1ヶ月もすると、クラスはそんな子も強引に飲み込み、日常とかした。
窓側の一番後ろ席と窓側から3列目の3番目の席で常に何かの本を開いては、黙々と読んでいた。
当初は、話しかける子もいたが、無難にタイトルだけをあげて話を広げようとしない態度は、
当然のごとくそんな子らも遠ざけた。2人の彼と彼女は、ただ席に座り、息を吸う如く本を読み、
一日の学校生活を終える。
「はぁ、最後に最難関だ」
「どうしたの?」
目の前の背の高い男--高瀬貴明は、いつもの人なつっこい笑顔を歪め、眉間に手をやった。
それが何を指すのか、は幼稚園からの腐れ縁である高田和明は百も承知で、問うてやった。
“俺には無理で、お前にしか頼めないし、やり遂られないこと”を彼は口にするのが恥ずかしかったのか、
態度で自分へと示すようになったのは、いつからのことだったか。
「今、クラスのメルアドを集めてるんだけど、あと残すとこ2つなんだ」
「よかったじゃん、たった2つだよ、がんば」
「口だけとは、このことだな。まず、そのにやにや顔をどうにかしてくれ」
「元来、こんな顔なんだ。許してくれ」
「目を開けてこっち見ろよ、おい。開けゴマ」
「え!?今なっつった?え? 開けゴマ?今時の小学生でも言わねぇよ」
肩をふるわせ始めた彼がとる行動は、次に自分の肩を殴ることだと、腐った縁からたやすく想像できる。
生憎野郎の拳を嬉々として受け止める気概も肩もないので、どうどうと手を前にかざした。
牛をあやすかのごとく、というより彼は牛ではないか、と思う自分がいることを否定はできない。
そんな手慣れた手の親指をぎゅっと彼は握った。このパターンはこの13年で初めてだ、と彼の
成長を喜ぶきにはなれなかった。彼の3年間にも及ぶバスケ、小学校に通っていた空手、と挙げていけば、私の顔がゆがみ始めるのに時間はいらない。
「調子にのりました。すいません」
「いや、許さないよ、甘いよそんな考え」
「いやいや、私根っこからの文化人なんで、貴方様の握力には耐えることができません」
「いや、いける」
「うわっ、でた。体育人の根拠のない根性論。これだからね」
「まだ握ってる最中なのに、よくそんなこと言えるな」
「と、優希が言ってた」
和明の隣の席に座る、現在はおっとりとした顔で和明と貴明の話を聞く本田優希。
和明の言葉にゆっくりと頷いた。
「頷くのか、予想外だわ」
「だな、自分もだ」
貴明と和明は優希の顔を凝視した後、お互いに顔を見合わせた。ゆっくりと、貴明は和明の親指を離した。
優希はその行為を見届けると、かばんの中から湿布を取りだし和明へと渡す。湿布を受け取り、和明は親指にはった。その一連の行動に淀みや違和感はない。
「いやいや、待って。おかしいよね」
そんな貴明の言葉に二人は首をかしげた。
「もうお前らが俺をどう思ってるかはよくわかったよ」
「わかってくれた?」
「なんで偉そうなんだよ。おかしいだろ」
「で、二人は結局何を話してたの?」
優希がこのまま迷走するのに耐えきれなかったのか、口をはさむ。
そんな優希を再び二人で凝視した。優希は優希で凝視をものともせず、穏やか笑顔をうかべた。
「優希ものったきがしたんだが、気のせいだったみたいだな」
「狐にばかされた気分だよ」
ふぅ、と二人して溜め息に似た息を吐くと、和明は携帯を取り出した。
「聞いてくればいいんだろ?」
「あぁ、頼むわ、俺苦手なんだよ、ああいうの」
優希はその言葉を聞いて顔をしかめた。そんな優希の肩を和明が笑って小突く。
「得手不得手ってもんだ、咎めないでやってくれ」
釈然としない微妙な顔をうかべたが、わりきったのか、和明へといつもの笑顔をうかべた。