2段目 『守り人』シリーズ 上橋菜穂子 著
前回からのハイファンタジーで続けます。そうなると、もう数は限られます。その中からまたも超有名作品を。でも好きなのでいいかな。
上橋菜穂子先生の作品は映像化されたものがあるので、ご存知かと思います。『獣の奏者エリン』もアニメになってるし、素敵です。でも、アニメと実写化ということで、こちらが代表作かな……と選択。
精霊の守り人シリーズです。最初の話。
精霊の卵を宿した一国の皇子。その皇子を暗殺せんと父である帝が追手を放ちます。妃である母は我が子を守ろうと偶然出会った一匹狼の女用心棒を雇い皇子を託します。訳ありで凄腕の女用心棒は幼馴染みの呪術師と、皇子を守りながら謎を解いていきます。何故皇子は卵を宿したか。父である帝は何故我が子を無き者にしようとするのか。そこには建国からの隠された歴史が……というあらすじ。これでいいかな?詳しくは読んでみてください。大河ファンタジーです。ただ、実写は全シリーズをコンパクトにし過ぎた為にやや違う話になってます。そこは作者も断りを入れてるので、ここに注釈しときます。小説とドラマは大きく違います。まぁ、あんだけ長い話をまとめていくのは、無理がありますから、あの結末でしょうがない。むしろ、よくまとめあげてくれたと1ファンとして思います。
とにかく、こちらも設定だけで面白い。
世界に広がる国々の特徴が豊か。大陸内部の山岳に囲まれた国から、大海原を縦横無尽に行き来する国、侵略を広げる国、宗教や文化で二分された国。特色が豊かなのはもちろん、その特色を活かしきる登場人物達の活躍。そこで張られた伏線はきれいに世界を包んで結末に向かって結上げられる。全て、世界の設定に沿った理屈で納得なんだなぁ。
非常に理屈が通ってるんです。山岳地帯だから、耕作地が無く貧しい。船による貿易で経済が回っているから、交渉ごとが上手い。そういう設定がリアルで、作品の色を鮮やかにしてます。面白い。
そしてさらに、その国々が色々な駆け引きをする。その様子がとても面白いし、大きな特徴。先の十二国記は、国を創り上げていく物語。守り人は国々が蠢く話。協力したり、侵略したり。登場人物が自分の信条を胸に世界に飛び込み、もがく。そんな生き様の物語と言える。
とても美しいです。
豊かな文化背景があればこそ、人物1人づつの生き様、信条が鮮やかに描かれていく。
これは上橋先生が学者だから出来る、という点も大きいだろうなと思う。文化というものを、非常に大事に考えているのが分かる。そして文化を育むのは、ある一定の落ち着いた内政。衣食住が落ち着いた人々の暮らし。だから私達読み手は、文章の向こう側で道を駆け抜け、屋台の香ばしい煙を、そこで生活する人々の息遣いまで感じられるんだと思う。本当に、これほど作中の大衆人々の生活するニオイを感じさせる作家さんは、なかなかいないんじゃないかな……。
国の動きも特徴ですが、国を失った人々も描かれてる点を強調したい。
大国小国の蠢く様、と反転してです。
国を失った、もしくは国から保護を得られない民。難民や少数民族、あるいは異宗教で階層外とされた民。そんな人々が、どうやって生きているかまで、書かれている。
本当に世界を描こうとすれば、そういう生き方をせざるえない人々は生じるはず。そこにも光を当てて描かれるのが、本当に凄い。確かに、世界の陰に当たる部分まで描けば人物たちの動きはよりリアルにダイナミックになります。
それは『守り人』も『獣の奏者』『狐笛のかなた』『鹿の王』と各作品にも出てきます。
特に『鹿の王』でのダブル主人公の1人の出身地、失われた大国の描き方に震えた。もう、ここでネタバレはいけないと思うので詳細は書きませんが……。こう、人が犯してしまった罪を背負うと言うか。国を、王都から去る場面がね、凄みある。
日本という国で国民してると実感が湧きにくいですが、国民は所属する国に保護されてるんですよね。日本なら独自通貨を持ってるから経済的にも資産は守られてるし、医療保険制度は充実して健康を守られてるし。海外行く時に持ってるパスポートだって、日本国の国民ですっていう身分保証。海に囲まれてる地理的条件も古すぎて建国の感覚が薄れてるとことかあり、あまり意識しないけど、国に所属する、守られるというのは、本当に大事な事であり守っていかなければならない。
ケネディ大統領の就任演説だっけ?「国があなたに何をするかを問うのではなく、あなたが国に何ができるかを自問してください」
いつもは国と国民の関係を意識しないけど、上橋先生の作品を読むと、この演説を思い出す。
これは、これからの日本人に対して持つべき大切な言葉になる。
話題を変えて。
あとは大きな特徴といったら料理の記述ですよね。
その風土で育まれた料理をも、最高の題材にしてしまう。料理自体も美味しそうで、架空の作中料理をつくる本すら出ている。『バルサの食卓』。すごくいいんですよ。守り人以外のシリーズの作中料理も紹介されてて、よだれ必須!!見るだけでも満腹必須!!
きっと食べる事もつくる事も大好きな方なんでしょうね〜。はぁ……一度甘辛鳥のお弁当だ食べてみたい。絶対美味しいやつですよ、間違いない!
この方の作品は多く映像化されてます。『鹿の王』もアニメ化に動いてるそうです。たくさんの人に、知られてほしいな。そう心から思える大事な作品達です。まだの方、児童書ですが、是非読んでほしい。私個人的には、世界的ベストセラー『ハリーポッター』より断然の推し!
日本語でせっかく描かれた素晴らしい作品があるんだから、まず読んでほしい。母国語でこんな素晴らしい世界に浸れるのは、幸せでしかない。漂う湿気味を帯びた森の緑の空気を。光を反射して首元に迫る刃のきらめきを。口元を噛み締め、漆黒の海に飛び込む覚悟を。その全てを見届けて下さい。世界が変わるから。
いきなり長い文で2日続いたので、明日はラフにしようかな。やっぱり文章の体力が落ちてるなぁ……