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Prologue


 1975年 氷結界ひょうけつかい


 世界の果てから果てまで、氷で覆われた絶対零度の世界――日夜吹雪が吹き荒れる白夜山びゃくやざんという雪山の山頂にて……



「――白蓮華はくれんかつららっ! 俺は貴方に惚れ申したああ〜っ!!」



 声高にそう叫んだ紅蓮魔ぐれんまヒバチは、想い人に対してラブレターと……()()()()を大量に詰めたいくつもの()()()を投げ付ける。


 宙を舞う瓶には導火線が紐付いており、ちょうど想い人の頭上で爆発するよう緻密に計算されていた。



 ――BONG!!



 ヒバチの愛の告白は止まらない。

 追い打ちをかける。腰に付けていた酒器瓢箪を手に取り、中の酒をグイッと口に含んでの火吹き芸――口から出るは、山をも覆うほどの数千度の巨大な炎の龍!


「さぁ今日こそオーケーを出してくれなぁ!」


 全身炎熱帯、炎を自由自在に操れるヒバチは、懐から取り出したキセルを振りかざすと、龍はまるで意思を持ったようにキセルの向きに合わせて畝る――まさに龍の舞のようであった。


「これがっ! 俺のっ! 愛の証明だああぁぁっ!!」


 キセルが指す先は想い人へ。咆哮上げる龍はヒバチの想いを乗せて猛進し、山頂で大爆発を巻き起こす。


 山をも揺らす爆音と衝撃にひっくり返るが、ヒバチはやんやと手を叩いて喜んだ。


「は、ハハハ……! ハハハハハッ!! あ〜! やったやったぁぁ!! 三日寝ずに考えた俺の記念すべき『どんな女もこれでオチるよ告白大作戦』が遂に999回目で達成しましたよ皆さーん!!」


 傍から見て観衆が居るわけでもないのに、この喜びっぷりは狂気と言うほかない。しかし彼にとっては長年の悲願達成の瞬間に、歓喜せずにはいられないのだ。


「ガハハハ……絶景かな絶景かな! そんじゃ、どデカイ花火も上げたことだし今日もキミを出迎えに参った俺様の名を名乗るとしようかねぇ!!」


 派手に決まったところで、今日もヒバチは日課である大見得を切るのであった。


「神妙に神妙にぃ!! この俺こそが、広大な創造世界そうぞうせかい一の傾奇者! その身その魂は燃え尽きることない無敵の炎熱っ!!」


 ヒバチの姿は異様も異様。黒い炭の下駄を履き、背中には「紅」という達筆で描かれた白い道着とさらしに身を包む。逞しい筋肉をこれ見よがしに曝け出し、肌は顔から手、胸や足にかけて全てが橙色。


炎獄界えんごくかいの大英雄!」


 額の黄色い鉢巻からボサボサに伸びた乱れ髪は、汚れ一つ無く真紅に染まっている。


 まずは1カメ。


「絶世の益荒男っ!」


 手を雄々しく突き出し、脚を広げ――2カメ。


「炎獄界の大英雄っ! 炎天下無双っ!!」


 下駄を鳴らし、全身を荒ぶらせ――3カメ。


「泣く子も黙る、燃え盛る紅蓮の鉄砲玉あぁっ――」


 飛び六方で跳ねに跳ね、盛大に名乗りを上げる――


「あ、紅蓮魔ぁヒバチ様よおぉぉっ!!」


 ペンペンッ!


「さあ、つららちゃん! 今日こそ俺と正式にお付き合いくださんな〜!!」


 彼は今日まで998回、白蓮華つららに告白しては振られている。今日で999回目、これまでとは嗜好を凝らした新たな芸で、今度こそ彼女を振り向かせようとした。


 返答に胸を高鳴らし、黒煙が晴れるのを息を呑んで待つヒバチ。これで振られたら、今日までの苦労が全て水の泡になる……。


 男のプライドを懸けた一世一代の大勝負に、つららの返答は……



「――ダメだね」


「いっ!?」



 ヒバチを絶望へと叩き落とす一言と共に、銃声が雪空に響き渡る。炎の中からは弾丸が飛んできて、ヒバチの額に直撃。


「うっ……うっそぉぉぉぉぉん……!!?」


 銃で貫通した傷口からは大量の血が溢れ出る。それを手で抑えながら、せめてつららの姿を拝もうと近付くヒバチ。常人なら即死だが、水に沈まない限り不老不死のヒバチには、999回目の失恋の方が精神的ダメージが大きかった。


 煙の中からは、何事もなかったように黒い煤をはたいて現れる白蓮華つらら。水色のショートヘアに、茶色のブーツとデニムショートのジーパン、黒のビキニと白いマフラー、太股に二挺拳銃のホルスターを備え付けている。暑苦しいヒバチの道着姿とは真逆で、瑞々しい白肌の露出が多い。その姿を見ただけでも、ヒバチは少し心が救われた。


「まぁ前回よりちょっと蒸し暑かったけどさ、熱けりゃ良いってもんじゃないと思うよ?」


 常人なら焼死を免れないであろうヒバチの炎など、つららには脅威にもならなかった。


 何故ならつららも不老不死――絶対零度の彼女も、燃え溶けてしまいそうな炎を浴びない限り、その身は何度でも蘇るのだ。


「じゃあ……どぼじだらいいんだよぉ!?!? 俺ぁごんなにギミを愛じでるのにぃぃぃぃっっ!!」

「アタシに聞かないでよ……」


 こんなやり取りを999回も付き合わされてるつららも流石に呆れを通り越して、日課と受け入れている。泣き噦るヒバチにハンカチを渡し、今日も彼女の勝利で締めくくるのだ。


「まぁアタシとアンタの付き合いだ。もう来んなとは言わないからさ……。また次回、頑張りな」

「えぐっ……えぐっ……! づららぢゃあぁぁん……!!」

「泣き寝入りはきかないよ。それは238回目だ。男なんだからシャキッとしな――」


 別れの銃撃――ヒバチにありったけの弾丸を見舞い、血飛沫が雪を染める。


「あんぐ……! 俺ぁ……絶対諦めないぜ……!! 次こそは……記念すべき1000回目! お楽しみにだぜ……!!」


「うん♩ 楽しみに待ってる」


 優しく微笑む彼女の笑顔で満足したヒバチは、後退りしながら、そのまま白夜山から転落していった……。



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