第9話 初めての能力者
「どうしたの紀行……元気無い」
「そうか? いつも通りだと思うぞ?」
「ううん……今日はいつもより元気が無い」
4時間目が終わり、俺は今架純と一緒に屋上で昼飯を食べている。これはいつもの事なんだが正直今はここ以外学校で気が休まらない気がする。
というのも、ここは死角はなく特に人も来る事もない場所であるから。周りを網目の細かいネットで囲まれているから外から見られる心配も無い。まあこのネットがあって外の景色も見れないから誰も屋上来ないんだろうけどな……
それと、学校で気が休まらない理由……それは多分能力者がこの学校に何人もいるからである。
多分と付け加えたのは一応、同じ奴に反応した可能性もあるからだ。このセンサー、不便な物で本当に範囲内に能力者が何人いるかどうかしか分からない。場所とか能力とか一切教えてくれないのである。
それでも4時間目からここに移動するまでに少なくとも10回は反応し、何回かは2人以上の反応が出た。短時間でこれだからもっといると考えた方が良いだろう。
「ほら……今日は紀行の好きなチーズハンバーグ作ってきたよ……あーん」
「お、サンキュ架純、あーん……やっぱり美味いなこれ!」
「良かった……また作ってくる……」
言い忘れてたが架純は料理も上手い。ただ、ゾンビになってしまった俺にとって肉料理はいつものより何倍も美味い。肉が身体に入ってくる喜び。これ以上の幸せを他のもので味わう事は出来ないだろう。
架純にハンバーグを貰いつつ自分の弁当(ちなみに母に頼んで肉だらけ)を完食。
「……退院してから食欲増した?お腹刺されて……胃が底無しになったの……?」
「いやいや、そんな事無いから安心してくれ」
上手く食欲の事ははぐらかしつつ弁当を片付けて教室へ帰ろうとした時。
「な……!?なんでこんな所に……!?」
「……紀行?どうしたの?」
反応だ。この屋上で感じたという事は間違い無くこっちに向かってきているだろう。どうする、出口は1つしか無いから逃げられない。
「(やばい……! こんな所に人が来るなんて想定して無かった! どこか隠れる所は……!)」
探しても屋上にそんな場所は無い。その間に出入口の扉が開かれその反応の主が姿を現す。
「やぁやぁ、まさかこんな所におるなんてな〜。ウチの勘が働かなきゃ見落としてたわ〜!流石ウチや!」
その正体は女だった。架純と同じ位の身長ながら雰囲気は全く違う。こう、上手く言えないけどとにかく活発系のオーラを出している。
「紀行……この人知り合い?」
「いや……全然知らん奴だ」
全く知らない奴だ。ただ、能力者って事は分かっている。
「そう言わんといて紀行くん……いや、ゾンビ君と言った方が良かったか?」
思わず動揺が顔に出る。この女、何故俺の事を……!
「……紀行はゾンビなんかじゃない。立派な人間。失礼な事言う人は帰って」
「冗談や冗談! ほら、刺されても生きてたって噂の紀行君やろ? そんなのどう考えてもゾンビやん! それで、私はゾンビ君に大事な用事があってな〜? ちょっと二人きりにしてもらえる?」
どうやら攻撃の意思は無さそうだ。警戒しつつもとりあえず話を……
「……嫌。紀行の事をゾンビって言う失礼な女と紀行を二人きりにさせたくない」
ちょっと待て。やばい。架純がマジで不機嫌な顔になってる。こんな顔俺でも見た事無いぞ。
「……すまん、架純。お前の気持ちは嬉しいんだが一応本当に大事な話かもしれないから先に帰っておいてくれないか?」
「そうそう!大事な話!どえりゃー大事な話やけん、二人きりにさせて欲しいな〜?」
こいつ滅茶苦茶方言混じってんな。それでいてなんかどれもエセっぽいし。
「頼む架純、後でお前の好きなもん買ってやるから!」
「……紀行がそこまで言うなら……仕方ない……」
俺が必死に頼んだのもあってなんとか架純も折れてくれたようだ。ため息をついた後女に近付いて何かを耳打ちした後屋上から立ち去っていった。
「……なあ紀行君。ほんまにあの嬢ちゃん人間か?」
「何言ってる? 俺の大事な幼馴染を侮辱したら流石の俺でもキレるぞ?」
「いや、そういう意味じゃなくて……まあええわ。ようやくこれで本題に入れるわ〜」
俺は警戒を続けながらこいつの話を聞く。
「そういえばウチの名前言ってなかったな。ウチの名前は小川 有栖。みんなからはあーりんって呼ばれとるから紀行君もウチの事そうやって呼んでほしいな」
「……それで?何の用だ、能力者。俺を探してたんだろ?」
「あー、いきなり本題に入る?もうちょい与太話しよかと思ってたのに」
有栖は1つ咳払いをしてから話を続ける。
「別に紀行君だけを探していたわけじゃ無いよ。ウチは能力者を探しとったんや」
「能力者を?わざわざ?」
「もちろん!なぁアンタ、ウチとチーム組まへん?」
「チームだと……?」
「うん、チーム!正直ウチの能力じゃ生き残るのも大変でな〜。紀行君の能力と一緒なら行けるやろと思って」
「……そういえばなぜ俺の能力を知ってる。俺は誰にも話した事は無いはずだが」
「手を組むなら教えてあげる。当然でしょう?」
まあ当然と言えば当然だ。俺の能力がもっと強力なら力づくでねじ伏せられただろうが、あいにくそういう能力じゃない。
「……分かった。手を組むよ」
「おおきに! ふぅ、これでウチも生き残れる可能性出てきたで〜!」
正直、俺も仲間は欲しかった所だ。だがこいつの事は全く信用していない。隙を見せないにせねば。
「んじゃ、ウチの能力教えてあげる。ウチの能力は【分析】や」
「【分析】……?」
「せや。相手の顔を3秒以上見続けることによって名前と能力の名前とその強さが分かる。あと、半径30m以内の能力者なら位置まで丸わかりや。そんな能力やで!」
「……それは本当か?」
「もちろん!ウチは嘘つかへんで!」
もしこいつの言ってる事が本当ならこいつは本当に馬鹿だ。こんな初めて会った奴にチームを組んだからって馬鹿正直に喋るなんて……
「……お前、俺が裏切ったらどうするんだ?」
「そんな事せーへんって信じとるよ?ウチは」
「どうして初めて会った奴をそこまで信じる事が出来るんだ?」
すると有栖は自信たっぷりに言い返して来た。
「そんなん女の勘よ! 勘は馬鹿に出来へんで〜?」
……俺はヤバい奴とチームを組んでしまったのかもしれない。
本当に遅れて申し訳ございませんでした……




