第8話 実験開始
「じゃじゃーん、デザイアちゃんです!」
「急に眠気がしたと思ったらお前のせいか」
俺は今夢の中にいる。明日の朝退院と決まって心無しか喜んでいた矢先に強烈な眠気が襲って来て今の現状に至る。
「何しに俺を呼んだ?まさかもう始まるのか?」
「ピンポーン! 当たりです。実験開始のお知らせに参りました〜!」
両手で何かを振るようなポーズを取り口でシャカシャカ言っている。
「実験を始めるからってそのネタは色々危ないからやめろ」
「え〜? ダメですか〜?」
デザイアはしゅんとした顔でこちらを見つめる。
「ダメなものはダメだ。つーかついに始まっちまうか……」
「はい、明日の昼12時からスタートです」
「そうか……あ、そうだ」
「ん?どうしました?」
俺は怒りを含めながら問いかける。
「どうせお前の事だ……一般人を巻き込むな、なんて言ってもどうせ実験には関係無いから必要無いなんて言って何もしてくれないだろうからそれはいい」
「私の事よくわかってるじゃないですか! 流石私の認めた紀行君ですね〜」
こいつに認められても何にも嬉しくないんだが。
「俺がナイフで刺されたの、あれお前の仕業だろ?」
「……どうしてそう思うんですか?」
否定はしない。どうやら予想は合っているみたいだ。
「冷静になって考えたらぶつかっただけであそこまで刺さるなんて絶対に無いって分かるだろ。せめて通り魔とか使えば良かったのに」
「ふふ、流石にバレちゃいましたか。いや、流石の私でも通り魔なんて作り出す事は出来ませんよ。私は世の中の出来事にちょっとしたスパイスを加える事しか出来ませんから」
「そのちょっとしたスパイスのせいで俺は刺されたのか……」
自分のお腹をさすっていたわってやる。
「でも、ああでもしないとあなたの能力は分からなかったでしょう?これは私からのプレゼントです」
「えらい物騒なプレゼントだな……確かに能力は少しは把握する事が出来たが絶対に礼は言わねえ」
「お礼が出来ない子は実験を生き抜いても社会で生きていけませんよ?」
「お前に言われたくねえよ」
俺が的確なツッコミを入れると不満げな顔をしてこっちを睨んできた。
「せっかく私が好意でプレゼントをあげた上にそんなことを言うなんて……もう二度と助けてあげませんからねっ」
「正直お前の助けは怖そうだからむしろ嫌なんだが」
「むかーっ!あなたに【ゾンビ】なんてあげるべきじゃなかったですね!もっと【バカ】とか【アホ】とかそんな能力にすれば良かったです!」
「そんな能力あるのか?」
「無いです」
真顔でキッパリと言い放った。表情がコロコロ変わる奴だ。
「とりあえず伝えるべき事は伝え……あ、行方不明になった人達は戻しておきましたよ」
「そうか、ありがとな」
「どういたしまして!ちゃんとお礼言えるじゃないですか〜」
ん?ちょっと待て、行方不明になったのって元を言えばこいつのせいじゃないか。つい礼を言ってしまったがこいつはして当然の事をしただけだったわ。
「という事で近いうちにまた会いましょう、【ゾンビ】君」
そこで俺の意識は現実へと引き戻されていった。
◇
「……退院おめでとう、紀行」
「わざわざ病院まで来てくれなくても良かったんだぞ?」
「……紀行と学校へ行くのは私のルーティーン」
母さんに着替えを持ってきてもらって退院と共に学校へ登校する事にしたのだが、まさか架純が来てくれるとは思っていなかった。
「……それに最近何かと物騒。病み上がりの紀行1人で登校は危ない」
「そうだな……ありがとな、架純」
「……どういたしまして」
正直今のこの街、病み上がりじゃなくても危ないんだけど。割と某世紀末アニメ並に命が危険です。
そして色んな事を喋りながら学校へ到着。クラスが違う架純とは別れて自分の教室へ入ると俺の周りに野次馬が集まる集まる。
「紀行くん、大丈夫だった?」
「強盗ってどんな奴だった?」
「紀行、腹刺されたんだって?何も食えないだろうから俺に弁当よこせ」
「おいよせ、斬られるぞ、ははは」
やっぱり強盗に会った上に病院で入院していた事もあって俺はクラスの人気者だ。適当にあしらいつつもうすぐHRという事で自分の席に座る。
「久しぶり紀行、元気だったか?……って聞くのはおかしいか」
親友の篤志がいつもと変わらず話しかけてきた。
「いや、ピンピンしてたぞ。正直刺された次の日からでも学校に行こうと思えば行けたわ」
「流石紀行、やっぱりあの噂になるだけあるな」
「あの噂?」
聞き返すと篤志は目を輝かせ、
「お前を刺した強盗、あれお前に復讐されたんじゃないかって噂になってんだよ。お前が刺された恨みで呪って強盗は全身切り刻まれたってな」
だからやけに男子の反応が不自然だったのか。全く、なんて噂を流してくれたんだ。
「俺はそんな呪い使えないしそもそも俺はその時救急車の中だ」
「そうか……ま、そりゃそうだよなぁ」
篤志は心底ガッカリしたような顔で落ち込む。
「お前は俺をなんだと思ってるんだよ……」
苦笑しつつようやくいつものの日常が戻ってきたなぁ……って実感する。なるべく長くこの日常が続いて欲しいものだ。
そういえば行方不明になっていた2人は学校の近くで発見されていたらしい。2人ともいなくなっていた時の記憶が無くただの熱中症という事で処理されたらしい。あまり騒ぎになってない事から多分デザイアがまた色々やったのだろう。
そして何事も無く(色々クラスの男子からからかわれたりしたが)4時限目に入る。そう、4時限目の途中に12:00を過ぎるのだ。
「とにかく何事も無い事を祈る……いきなり首が飛んだり爆発したりすんなよ……」
俺が小声で呟いてる時も時間は刻々と過ぎていく。そして___
「(12時……!)」
時計の針が重なった瞬間、頭の中でぴこーんと鳴った気がした。
「(この感覚……近くに能力者がいる……!?)」
俺の頭の中のセンサーが間違い無く能力者を捕らえていた。