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俺、ゾンビの能力で最強になります。  作者: 雨流 丁亜
第一章 俺、ゾンビになります。
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第6話 ゾンビ、刺される。

 今あった出来事を文字に起こすとこうだ。


 強盗犯がコンビニで強盗をする。変な動きをされないように店の方を見ながらナイフを構えたまま走って逃げ去ろうとする。


「それでちょうど考え事してた俺とぶつかってナイフがぐっさりと……ってありえるかぁ!」


 今俺の腹にはナイフがしっかり刺さってる。床に俺の血が流れていく。紛れもない、これは現実なのだ。


「き、救急車を呼ばないと!」


 店員が救急車を呼んでくれるそうだ。良かった……いや、良くねえ。これって漫画とかでよくある死ぬレベルの奴だよね?


「ははは……なんだ、俺の人生こんな所で終わりか……呆気なさすぎる……」


 その場で力無く座り込む。

 柿田 紀行死す。享年18歳。

 そういえばデザイアの奴、能力者同士の干渉はしないって言ってたけどそれ以外の奴に関しては何も言ってなかったわ……まさか能力とかじゃなくてナイフに刺されて死ぬって考えてもいなかった。


「考え事してたとはいえこんな事ありえないだろ……」


 というか刺されて気付かない俺も俺じゃないか? 普通痛みで気付くはずじゃ……


「えっ……?」


 痛みが無い。刺された近くをさすったり頬をつねったりしても痛みを感じられないのだ。


「どうなってる……? それにいつになったら俺は死ぬんだ……?」


 時間と共に血は流れ続けているのでもう普通に失血死で死ぬと思っていたのだが……まだ意識もはっきりしているし、生きている。


 そして俺が刺されてから約10分後に救急車が来た。とりあえず俺の命は助かった……のか?




 そして次の日の夕方。


 俺はその後病院に運ばれ少しの間入院する事になった。


 医者によると普通に死ぬレベルの出血、生きているのがおかしいって言われた。


 そりゃそうだ、今の俺はもう普通じゃないんだから。ああ、俺の愛しき普通よ、帰ってきておくれ。


「ゾンビ……ねえ。普通ゾンビでも結構ダメージ食らったら死ぬと思うんだけど」


 そう呟いてこの事件で分かった……というか気づいた事を考えてみる。


 1、痛みを感じない。


 2、多分普通の人なら死ぬような怪我でも死なない。これは要検証。いやごめん、検証したくない。


 3、これは後で分かったのだが……


「紀行、架純ちゃんがお見舞いに来てくれたわよ」


 病室の外から母さんの声がする。そういえば母さん、俺が刺されたって聞いて真っ先に来てくれて凄い顔してたっけ……当の本人は元気だったのだが。


「…………紀行」

「おう、架純。今日学校一緒に行けなくてすまんな」

「…………そんな事はどうでもいい。……ううん、本当は寂しかったけど…………それよりも心配した」


 こいつは隣の幼馴染、渡良瀬(わたらせ) 架純(かすみ)。165cm、黒髪のロングで小顔。ちょっとたれ目の普通に可愛い奴。スタイルも良く一挙一動も可愛らしい。小さい頃からずっと一緒で今も毎日学校にも一緒に行ってる。


 ただ、俺といる時でも割と無口なのだが他の人とはほぼ喋りもしない。極度の人見知りなのである。まあ、俺が他の人と喋っている時に少し喋る事はあるが。それに加え、あまり感情を顔に出さないのだが……俺には分かる。長年の付き合いって奴だ。


「刺した奴は許さない…………地獄の業火で焼かれてもらう」

「どこぞのスケルトンだお前は」


 たまに過激な事を言ったりするが俺の安否を心配してくれる普通に優しくて良い奴なのだ。わざわざ俺のお見舞いに来てくれてるし。


「そうだ…………これ、お見舞いの品」


 そう言って俺にアロマオイルを渡してくれた。


「私が好きなやつを持ってきた…………気分が優れない時はそれを使って……」

「サンキュ架純。助かるわ〜」


 正直今の俺は気分が優れない時も食い物があればなんとかなるのだが。だがこういうのは気持ちが大事なのだ。相手を思いやる気持ちがこもってるだけで俺は十分満足だ。


 食い物と言えば運ばれてきた時飴が無くなって発狂しかけてたっけ……刺された事よりこっちの方が辛かった。今は母さんが買ってきた飴があるから大丈夫だけど。


「早く退院してまた一緒に学校行こう……ね」

「おう、任せとけ」


 なんて可愛らしさだ。よし、俺を気遣ってくれた架純の為にもいち早く退院せねば。


 その後もなんやかんや楽しく談笑し、面会時間も終わって俺は一人寂しくテレビでニュースを見る。ただ、今日のニュースは異様だ。


「デザイア……お前さ、能力者同士もともかく、一般人の事も気遣えよ……本当に自分の事しか考えない奴だな!」


 ニュースでは明らかに能力絡みであろう事件が何件も勃発していた。


 あいつが言った通り能力者同士はやり合えないようになっているのだろう。だが、それ以外の一般人は別だ。実際俺も刺されたしな。ちなみに俺の事件もニュースになったがそれ以外のニュースのインパクトが大きくそこまで話題になっていない。


「公園にいた男女2人の手足がねじれ回っている姿で目撃……とある一軒家が一晩のうちにぺしゃんこに……こんなの完全に能力絡みじゃねーか」


 ニュースを見ると実感する。俺はこんな奴らから生き延びないといけないのか、って。実験の開始が1日でも延びる事を祈るばかりだ。


「デザイア……お前はもう既に俺含めて何十人の普通を奪い去ったんだ……絶対許さないからな」


 夜になっても眠気は来ない。この身体になってから睡眠を必要としていないのだ。だが今日は心を休める為に貰ったアロマを嗅いで目をつぶる。次目を覚ました時は今までの出来事は全て夢であったらいいのにな。






 少し時間が戻って昨日の夜。

 強盗はコンビニから離れた所の公園のベンチに座っていた。

 

「畜生……強盗ならともかく殺人なんてしちまったらシャレになんねえ……!」


 割と遠くまで走って来た男は息を切らし、ちょうどあった公園でひと休憩をする事にしたのだった。


「強盗は成功したのはいいが殺人犯になったら捜索の規模も違って来る……くそ!」


 大分呼吸が落ち着いた所で立ち上がる。その時、公園の近くの入口に女が1人立っているのが見えた。


「ようやく追い詰めたぞ……コンビニの強盗犯」


 月を背にした少女は凛とした声で言い放った。

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