第4話 美少女の実験(後編)
ピッタリとか言っているがこんな1つ目から殺したら勝ち!みたいな小学生みたいなルールを思い付くこいつには何にも期待出来ない。
「ふた〜つ、能力者同士でチームを組んでも良い。ただし人数は5人までとする」
「チームだと?」
「はい、一見弱い能力も他の能力と組み合わせたら強いかもしれないからね〜。私はそういうのも知りたいんです」
「これがどうして俺にとってピッタリなんだ?」
「ほら、強そうな方で集まれば敵も寄ってこないんじゃないですか? そうしたら今まで通りの生活が出来るじゃないですか〜」
「まずゾンビにされて今まで通りの生活が出来るわけ無いだろ」
そう言いつつも確かにこのルールの可能性を考える。確かに強そうな奴らで集まれば殺される可能性は減るだろうし、ゾンビの能力次第では今まで通りに近い生活は出来るかもしれない。
だが結局こんな実験に参加させられてしまった以上、チームを組んだっていつでも殺される可能性はあるのだ。そんな状況で今まで通りの生活なんて出来るはずが無いという結論に至る。
「それに能力者なんてどうやって分かるんだ?見た目も普通で能力も使わなきゃどいつが能力者なんて分からないだろ。チームなんて組めやしない」
「ああ、それなら半径10m以内に能力者同士が入ったら自然と感覚で分かりますよ。能力者同士で通じるレーダーみたいなものです」
なるほど、それなら一応頑張れば逃げ隠れは出来なくもなさそうだ。むしろこれなら1人でいた方が良さそうか…?俺の頭をフル回転させて生き残る方法を模索していく。
「それで?ルールはそれだけか?」
「あ、次が最後の1つです!」
顔がぱぁぁと輝いて見えたような気がした。やばい、この顔はろくな事が……
「み〜っつ、最後に残ったチーム全員の願い事を何でも叶えましょう」
「えっ?」
身構えていた俺にとって拍子抜けするようなルールだった。この悪魔が俺らにこんな甘い事を言うなんて頭でもおかしくなったのか?
「どうせ私の事悪魔かなんかだと思ってるのでしょう?私は優しいですし実験に最後まで付き合ってくれた方にはご褒美をあげましょう」
「死ぬ可能性のある実験に強制参加させる時点で優しくないし十分に悪魔だよお前は」
それに今の俺には願い事なんて無い。いや、確かに普通の生活が送りたいってささやかな願いはあるがそれは願い事までして頼むようなものか?
とりあえず全てのルールを自分の中で再確認する。
1つ、殺されるか能力を消されたら負け。
2つ、能力者同士でチームを組んでも良い(最大5人)
3つ、最後まで残ったチーム全員の願い事を何でも叶えてくれる。
………完全に聖〇戦争もどきじゃねーか。
「おい、願い事はちゃんと叶えてくれるんだよな?歪曲して叶えるとかは無いよな?」
「もちろんですよ?何か心配事でも?」
「……いや、ちゃんとしてくれるならいいさ」
願いを叶えたら街が燃え盛る炎に包まれた……みたいなオチは勘弁だからな。
「それじゃあ実験の説明はおしまいです。能力を配り終わったら開始するのでそれまでは能力を確かめたり平穏な生活を楽しんでくださいね」
「ちょっと待て、始まるまでに殺されたり鍵で刺される事は?まあ鍵で刺してくれる分には助かるんだが」
「始まるまでは能力者同士への干渉は無効にします! それは私が保証しますのでご安心を」
むしろ安心出来ないのだが…まあこれはこいつを信じるしかないな。
「俺には今まで願い事は無かったがこれでようやく願い事が出来た。絶対勝ち残ってお前に土下座させてやる」
「ふふ、面白い人ですね。頑張ってください、紀行君」
自分の名前を呼ばれた事で俺はある事に気付いた。
「……そういえばお前の名前はなんだ? 名前を呼ぼうとしたこと無かったから聞くのを忘れていたけど」
「ああ、そういえば名前を伝え忘れていましたね」
ハッとした表情を見せ、わざわざ俺に近づいて耳元で囁くように呟く。
「私の名前はデザイアです。忘れないでくださいね? 【ゾンビ】君」
「……はっ」
電撃を浴びたように目が覚めた。いや、実際に浴びた事が無いからイメージなのだが。
すぐにベッドから飛び降り鏡を確認する。外見上は……変わっていない!
「なんだよ、てっきりゾンビみたいな姿になると思ってたけど……なんも変わってねえ」
心配して損した。何がゾンビだ。特に変わった所も見当たらない。普通の人間だ。
「これなら何の問題も無いな。はぁ、心配したら腹が減ってきた」
そう思った瞬間、今まで感じた事の無い飢餓感が襲いかかってきた。
アクション部門で日間8位を頂く事が出来ました。本当にありがとうございます。