第22話 提案
「あの……有栖、もう少し離れてくれないか?」
「嫌や、もう絶対離れたりせえへん」
謎の少年と黒スーツの襲撃をなんとか退け、4人で揃って帰っている所なのだがさっきから妙に有栖と俺との距離が近い。
「ほ、ほら有栖、他の人の目線もあるからさ?」
「かまへんかまへん、ウチは問題ナッシングや」
「俺が問題あるんだよ!」
お互いの腕同士がほぼ触れ合いそうになる距離。付き合っているならともかく、そうじゃない俺と有栖がこの距離で歩くのはあまりにも恥ずかしすぎる。
「……クソビッチ、紀行が困ってる。早く離れて」
必死に引き離そうと力づくで有栖の腕を引っ張る架純。だが当の本人はビクともしない。
「別に紀行君は誰とも付き合ってへんからええやろ? それともなんや、紀行君を取られた嫉妬なん?」
「……私が能力を持ったら真っ先にあなたの事を殺してあげるから待ってて」
せせら笑っている有栖と物凄い殺気を放つ架純。間違い無く架純が能力を持っていたら有栖どろかここら辺一帯が消し飛ぶ勢いだ。
「まあまあ2人とも、喧嘩はよせ」
会長が2人の間に割り込む。やれやれ、これで一安心か……と思ったのもつかの間。
「そんなに喧嘩するなら私が紀行殿を貰おう。これで一件落着だな。ふふ、漁夫の利とはこういう事だな」
「「全然良くない!」」
2人の声が息を合わせたようにピッタリ揃う。この2人は仲が良いのか悪いのか……まあこちらとしては良くなってくれるよう祈るしか無いのだが。
「3人とも落ち着けって! また喧嘩して仲間割れする気か?」
俺が若干怒りを込めた声で3人を制した所でようやく落ち着きを見せる。今まではこんな事が無かった為、どうしたらいいか分からなかったがどうやら正解だったようだ。
「ったく、お前らもさっきの件忘れたのか? 元はと言えば喧嘩から始まってるんだぞ」
「ご、ごめんなさい紀行君……」
有栖がしゅんとした表情になる。こんな顔されるとこちらまでなんだか悪い事をした気分になってしまう。
「あっ……別に有栖の事だけを指したわけじゃなくてな? 架純、会長、お前らもだぞ」
「……分かってる、ほどほどにする」
「紀行殿の命令とあらば私はそれに従おう」
3人が頷いた所で考えていた提案をする。
「なぁ、会長。もうすぐ夏休みだろう?」
「ああ、そうだが。それがどうかしたか?」
いきなり質問をかけられた会長がきょとんとした顔をする。
「それでだ。夏休みの間、会長の家に全員で泊まらないか? 会長が良かったらな」
一瞬の沈黙。そしてその沈黙を最初に破ったのは有栖だった。
「な、なんで!? お泊まり会!?それになんで会長の家なん!?」
今まで見た事ない程の驚きの表情を見せる有栖。それに負けない程表情が変化した少女がもう1人。
「……紀行、なんで私の家じゃないの……そんなにサイコパスがいいなら私もなるよ」
架純の顔には驚きに加え嫉妬が加わっているような顔だ。非常に怖い。
「ち、違う!サイコパスは1人で十分だ!これはちゃんとした理由があるから聞け!」
「それでは理由を聞かせて貰おうか、紀行殿。私の家を選んだ理由をな」
唯一落ち着きを見せている会長。自分が選ばれた優越感に浸っているのだろうか、心無しかドヤ顔に見える。
「まず1つは、会長の爺さんだ」
「私のお爺様だと?」
「ああ、ウチは分かったで!能力者の存在やろ!」
嬉しそうに有栖がぴょんぴょん飛び跳ねる。
「正解だ。俺らの戦力の増大……もあるが、やはり能力者は1人でもいた方が相手を牽制出来る」
全員が能力者を感じ取れるセンサーを持っている以上、誰でも能力者の数は分かる。チームの最大人数は5人の為、俺、有栖、会長に加えて爺さんを含めれば4人。3人の時よりも警戒度が上がり、攻撃されにくくなると考えわけだ。
実際、有栖は1人の時に襲撃された。やはり数は大事なのだ。そして泊まれるのならば、家に帰らなくてもいい為に1人ぼっちという状況が作られにくくなるのも大きい。
「一応会長の爺さんは味方……にしてるけど大丈夫か?」
「ああ。お爺様も紀行殿の事を気に入っていたし、また会いたいと仰っていた程だ」
「よし、それなら大丈夫だな。次に2つ目の理由だ」
3人が熱心に俺の話を聞こうとしている。ただの平凡な高校生が考えた事だしそんなに期待しないで欲しいのだが……
「泊まる理由が作りやすい。会長は成績優秀、保護者からの人望も厚いだろう?勉強合宿と言えば親からも反対されにくいだろう」
「ふふ、紀行殿にそこまで褒められると照れてしまうぞ」
さっきから架純と有栖の嫉妬の目線を全く気にする事の無い会長。俺にそのメンタルを分けて欲しい。
「それで最後の3つ目なんだが……その……」
「どしたん、紀行君? なんか問題でもあるんか?」
口ごもる俺を見て心配してくれる有栖。
「……いや、問題とかじゃなくて……3つ目は俺の願望なんだ。金持ちの家に泊まってみたい」
そう。これが3つの目的の中で唯一、個人的な欲望、浅はかな夢である。庶民にとってあんなテレビに出そうな会長の家は憧れだし、1度泊まってみたい。この計画はそんな庶民の俺がとっさに閃いた、自分の矮小な夢を叶える為の妙案だったのだ。
「ふふ……紀行殿はやっぱり面白いな。もちろん私は協力しよう。お爺様にもかけあってみる。他の2人はどうだ?」
「う、ウチは……悔しいけど意見に賛成や。家に1人おって襲撃されても嫌やし……それにウチも泊まってみたい」
有栖の声から判断すると、嬉しさ半分、悔しさ半分といったところか。
「……私は紀行についていく。会長……私も泊まらせて欲しい」
架純が会長に頭をふかぶかと下げる。確かに会長にとって架純を泊まらせるメリットは無いのだが、それでも架純が頭を下げる事なんて滅多にないことだったので少しばかり驚いた。
「頭を上げてくれ。気にする事は無い。私達は仲間だろう?」
「……会長……!」
架純がいつになく喜んだ表情になる。こんな表情も久々に見た気がする。
「本当にありがとう、会長。俺からも礼を言うよ」
「なに、私が紀行殿に受けた恩に比べれば些細なものだよ」
会長がにこっと笑う。本当にこの人はサイコパスな部分を除けば完璧超人な気がする。
「よし、これで準備万端だ! みんなでこのふざけた実験を生き残るぞ!」
「「「おー!」」」
このふざけた実験で唯一、俺が得した事かもしれない。ならこのチャンスを精一杯満喫するしかないな、と心に誓った。
1日遅れて申し訳ございませんでした <(_ _*)>




