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俺、ゾンビの能力で最強になります。  作者: 雨流 丁亜
第二章 俺、能力者と出会います。
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第20話 暴走

「有栖は見つかったか?」

「ううん……こっちはいなかった」

「私の方もだ。そもそも、小川の能力もあるし本人が本気で会いたくなければ私と紀行は会えないだろう」


  俺、架純、会長はいなくなった有栖の捜索をしていたのだが当の本人は一向に見つからない。会長の言った通り本気で避けられているなら能力者の俺と会長が会う事は不可能に近い。


「ちっ……無事でいればいいんだが」


  募る焦燥感。しかし願いも虚しく、近くから聞こえてきたのは聞き慣れた少女の悲鳴。


「この声は……有栖!?」


  ゾンビの能力のおかげで聴覚はかなり良くなっている為、声はそこまで大きくなかったがおおまかな位置は把握出来た。


「どうしたのだ、紀行殿?」

「有栖の声だ! 能力者に襲われているのかもしれない!」

「本当か!? 急ごう!小川の能力では戦えない!」

「待て会長! 会長は俺の少し後に来てくれ。敵の能力がどんなのか分からない上に会長は病み上がりなんだ。少し遠くから相手が見える位置で待機、他に隠れている敵がいないかを探しながら架純を守ってくれ、いいな?」

「了解した。その任、しっかりと遂行しよう」


  状況が状況だった為、かなり早口になってしまったがなんとか伝わってくれて良かった。


「よし、行くぞ! 待ってろ有栖!」


  ゾンビの能力により限界以上の力を引き出しビル街を走り抜ける。人混みを駆け抜け、入り組んだ路地裏に入っていき少し進んだ先に見えてきたのは馬乗りになった少年と、全身ズタボロの少女。


  その時頭の中で何かが切れた音がした。罠を心配する前に身体が引っ張られるように動く。足音を極力殺しながら近付き、全ての力を込めた右フックを少女をいたぶるのに夢中でこちらに気付かない少年の耳の後ろに打ち込む。


  実は人間というのは顎を狙うより耳を狙った方が相手の身体の方向やバランスを保てなくなるというのを会長の爺さんから聞いたので早速試してみた。


  ガード出来ず不意をつかれた少年はそのまま壁にぶち当たるまで吹き飛び、頭を強く打つ。


「おい、大丈夫か! 生きてるか有栖!」


 まずは有栖の安否を確認する。あの少年を痛めつけるよりも先に確かめずにはいられなかった。


「紀行君……」


  掠れた声が聞こえる。身体は見ていられないほどボロボロだがなんとか死なずにすんだようだ。


「遅れてすまなかった、有栖。後は俺に任せろ!」


  少し安心した所で少年の方を見る。想定通り少年は上手くバランスが取れないらしくふらついてちゃんと立てないでいる。このチャンスを見逃す気は無い。


「お前は俺の仲間を痛めつけた。当然それ相応の覚悟は出来ているよな?」

「なんだお前、いきなり現れて、何が起きて」


  少年の言葉を聞くこと無く今度はみぞおちにアッパー。鼻に右ストレート。ほぼ無抵抗な少年をいたぶり尽くす。


「なん、で、能力が、効かない」


  何か言ってるようだが気にしない。気にするつもりもない。こいつには有栖が受けた以上の苦しみ、痛みを受けてもらわなければ。


「やめ、いたい、死ぬ」


  気付くと少年の前歯は折れ、顔面は変形し自分の拳は血塗れになっていた。


「死ぬ? 何言ってるんだ?」


 死ぬってなんだっけ。しぬ?しなない?しぬ?しね?しね!しね!しね!しね!しね!

 あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは






「………き」


 あれ……何か聞こえる……


「……り……き」


 あれ……俺は今何を……


「紀行!」


  背後から聞こえてきた声。なんだか夢の世界にいるような、そんな感覚から自分を引き戻してくれた。


「え……?」


  背後の声の主より先に目に入って来た物は少年。いや、少年だったもの。無残に食い散らかされ元の姿形が分からない。


  思わず吐き出しそうになり、口に手を当てるとべちょり、とした感覚が手に付く。恐る恐る確認する。真っ赤な液体。それが何かを理解するのに時間はかからなかった。


  「紀行……それって……」

  「ち、違うんだ、架純、これは」


  必死の言い訳を考え出そうとするが何も思い付かない。いや、この状況で何を言っても信じてもらえないだろう。


  「お、俺は、その」

「……何も言わなくていい、大丈夫」


  狼狽える俺を気にする事も無く、架純はゆっくり近づいて。


「紀行は悪くない」


 落ち着かせるように抱き締めてくれる。生きている人の温もりに触れ、一気に目頭が熱くなる。


「俺は……化け物だ。化け物なんだ」

「違う、紀行は普通の人間」

「俺と一緒にいたら……みんな死んじまう」

「そんな事無い。紀行は優しい人間」


  否定してくれる事が何より嬉しかった。ダメな俺は架純に助けてもらわなければどうなっていたのだろうか。本物の化け物になっていたのだろうか。


「……紀行に泣き顔は似合わないよ。ほら、これ使って」

「ありがとう……架純……」


 ようやく落ち着きを取り戻し、貸してくれたハンカチで涙を拭く。


「他の……みんなは?」

「……会長は有栖を安全な場所に運んで救急車を呼んでる。とても危ない状況みたい」

「そうか……」


 正確には俺の姿が見えない場所だろう。化け物の俺から遠ざけるのは当然だ。架純は優しいから言い換えてくれたのだろう。


「……紀行も落ち着いた事だし、そろそろいいでしょう?そこにいる人、隠れてないで出て来てよ」

「え?」


  架純はちょうど曲がり角に向かって声をかけると影が伸びるように黒スーツの男が現れた。


「どうして俺の事が分かった?」

「……気配がだだ漏れだよ。誰だって分かる」


 いやいや、聴覚優れた俺でも全然足音とか聞き取れなかったんだけど。少なくとも俺には分からなかった。


「……それで?何の用? そこの肉塊の仲間?」

「……そうだと言ったら?」


  肉塊、って言葉に胸がチクリと痛む。それを察したのか架純が慌てて言い換えようと考えている。


「大丈夫だ、架純。おい、お前らは一体何者だ。どうして有栖を狙った」

「その理由を言う前に……取引をしないか」

「取引?」

「ああ。こちらの要件は1つ、その肉塊を渡してもらう。その代わり、君達の……有栖と言ったか。その子を治してやるという事で手を打たないか」


 黒スーツの男は少し含み笑いを浮かべた。

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