第13話 正義の味方
生徒会長視点でお送りします。
「なんだ、能力者と思ってもっと苦戦すると思ったが意外に呆気なかったな……」
ここで能力が使われた事は間違い無いだろう。所々に焦げたような跡が残っている。このウチの生徒が暴れていたからだろう。
「おい、大丈夫か?ここで何があった?」
試しに頬をぺちぺち叩いてみる。反応は無い。どこにも火傷の痕は無さそうだ。
「とりあえず怪我は無さそうだな……」
息もしているしとりあえずは大丈夫そうだ。ただ、身体の内部がどうなっているか分からない為一応救急車を呼んだ方がいいだろう。
「(ただ、何か違和感を感じる……なんだ?この胸騒ぎは)」
能力者の反応は1つ。あの男をやったのは既に斬った。反応は増えたり減ったりしていない。
「気の所為か……いや、待て!何故殺したのに反応が減ってない!もしやあの男は生きてっ……あがっ」
振り向く間もなく背後から腕を使って首を絞められる。完全に油断していた。首を刎ねたのは間違い無い。自分の目で確認したのだ。が、殺せていなかったのだ。
「く……そ……はな……せ」
「流石にいきなり首を切ってきた相手には容赦出来ないっての」
間違い無い。この声は柿田 紀行の声だ。どういう原理か知らないがこの男は首を刎ねられても死なないらしい。後ろは見えないが多分首も繋がっているだろう。
「ふ……ざ……ける……な……」
正義は悪に屈してはいけない。それがルールだ。なのに首を絞められ息もできず、力も出せない。木刀を持っている手にも力が入らず落としてしまった。必死に抵抗しようとするもこの男の力はとても強くびくともしない。
「そん……な……」
このまま息も出来ず窒息死するのだろうか。正義の味方は必ず勝つんじゃ無かったのか。
私は悪に屈するのか。
走馬灯のように色々脳裏に浮かび上がる。
「-----------」
何か言っているようだがもう上手く聞こえない。そのままゆっくりと意識が闇の中へと沈んでいった。
◇
「…………ここは?」
目を覚ますと私は寝かされていた。身体は縛られていて動けない。
「やはり……あれは夢ではなく本当に私は負けてしまったのか」
上手く身体を捻って周りを見渡すとどうやら私はベッドに寝かされているらしい。状況的に考えてここは柿田 紀行の家か?
「おっ、ようやく起きたんか。せーとかいちょーさん」
「お前は……2年の小川 有栖か」
「ひゃー、全校生徒の顔と名前を把握しとるっていう噂はホンマみたいやなぁ。」
「柿田 紀行はどうした!私はあの男に言いたい事が」
「落ち着き、【剣士】の会長さん。いきなり会わせたらまた暴れるかもしれへんからとりあえずウチと話をせーへん?」
「何故私の能力を……!」
何故私の能力を知っているのか。そう思った所で能力者の反応を調べてみる。反応は2つ。1つは柿田とすれば……
「そ、ウチも能力者や。まあ紀行君みたいな強い能力と違ってか弱い能力やけどな」
「……お前は柿田と……チームを組んでいるのか?」
「せやで? なんか問題でも?」
「大ありだ! 何故一般人を襲うような奴と手を組む! そんな奴の手を借りてまで」
「ちょっと待って、やっぱり会長勘違いしとる!」
「勘違いだと?」
1から説明が始まる。放火魔の事。柿田がその放火魔に襲われた事。それを返り討ちにして気絶していたのがあの放火魔だという事。
「っていうのがウチが聞いた話や。あ、紀行君が放火魔じゃないって事は間違い無いで」
「どうしてだ?あの男からは能力者の反応は無かった。つまり火を使えるのは……いや、待て。鍵か……?」
「せや。会長さん、殺す以外の方法忘れてたやろ?」
完全に鍵の存在を忘れていた。能力を封印すれば殺す必要が無い……生きていて反応が無いのも納得する。
「……会長さん、紀行君殺した後どうするつもりやったんや?」
「ん? 悪は倒したら次の悪を倒しに行くだけだが?」
「ほんまもんのサイコパスや!」
◇
「本当に、本当に申し訳無い……命を持って償わせてもらう」
「やめろやめろやめろ! 会長なら本気でやりかねないから! とりあえず持ってる木刀を置け!」
結局、命を奪いかけた相手に対して柿田殿は許してくれた。私が柿田殿の立場なら焼き土下座をさせていた所だ。なんと慈悲深い男であろうか。
「完全に私の早とちりで首を刎ね、悪人扱いした私を本当に許してくれるのか?」
「……私は許さない」
「ややこしくなるから架純は黙ってろ。とりあえず誤解が解けてなによりだ」
「柿田殿の隣の君は…渡良瀬 架純だな。今回の件は本当に私が悪かった。許されない事をしたと思ってる……お詫びに出来る限りの事はしよう」
「……ならエイトトゥエルブの杏仁豆腐を毎日買ってきて……」
「ああ、いいだろう」
「ええんかい!架純先輩、ウチのプリンもあるやろ?」
「それは別腹……」
どうやら渡良瀬は甘いものが好きらしい。毎日杏仁豆腐くらいで済むなら安いものだ。
「ったく架純……すまんな、会長。迷惑かけちまって」
「大丈夫だ。もし柿田殿も出来る範囲で願いを聞こう」
「そうだな……なら俺達のチームに入ってくれ」
「チームだと?」
ますます意味が分からない。命を奪おうとした相手を仲間に入れる……?正気の沙汰ではないだろう。
「ふふふ……ははははは!面白い、面白いぞ柿田!私でよければぜひ仲間になろう。私が全力をかけて柿田殿の命を守ろう!」
「ああ、頼む。あと、たとえ敵でも悪でも命は奪うなよ!? それだけは約束してくれ」
「むう……仕方ない、柿田殿がそう言うならそうしよう」
私が了承した所で小川が柿田殿を呼び寄せる。
「どうゆう事なん!? なんでサイコパス生徒会長を仲間に入れるん!?」
「一応間違い無く強い仲間が増える上に会長のサイコパスを止めるいい方法だろ?」
「そらそうやけど……うーん……」
どうやら何か小声で話しているがよく聞こえない。まあ特に気にする事もないだろう。
チームに入ろうがやる事は1つ。悪を滅ぼす。その為だけに私は生きているのだ。
私は正義の味方なんだから。
明日は用事の為お休みします。




