第12話 放火魔
辺りに響く悲鳴と喧騒。ごうごうと燃え盛る家。目の当たりにする非日常の光景。
「あれ、最近よう暴れ回っとる放火魔やろ!まさかこんな所で会うなんてついてへんわ!」
「あれは炎とかそういう系の能力者か?」
「直接顔を見るまで分からへんけど……多分そうやろな。じゃなきゃあんな火柱出んやろ」
火……か。そういう系なら俺の能力を試しやすいな。よし。
「はよ逃げるで! 火達磨にされたらかなわんわ!」
「……有栖。俺、あの能力者を倒してきてもいいか」
「はぁ!? 無駄な戦闘は避ける言うたろ? なんでわざわざ戦わないとあかんねん!」
有栖が若干キレ気味で言い返してくる。まあ当然の反応ではある。
「……有栖、10秒経った。おしまい」
俺が言い返す前に架純が間に入ってきて来た。
「ちょ、架純先輩!?今本当に大事な所でっ」
「……10秒は10秒。それに、ああいう顔の時の紀行は止めても無駄」
「えっ……?」
「有栖、ちょっと俺の能力で試したい事があるんだ。絶対無事に帰ってくる! 頼む!」
「ぐぬぬ……」
30秒程考え込んだ後、ようやく重い口が開いた。
「……1つ約束して。絶対に無事に帰ってくる、それが条件や!」
「なんだ、お前も来てくれるんじゃないのか?」
「ウチは紀行君と違ってすぐ死ぬスペランカーや!本当ははよ逃げたいって事分かってへんの?」
「分かった分かった、なら能力者がどこにいるか教えてくれ。それで充分だ」
「……あの野次馬の中におる。黒い眼鏡かけた奴や」
「へぇ……犯人はすぐ近くにいるって本当なんだな。サンキュー!行ってくる」
さぁ、放火魔さんよ。俺の実験台になってもらうぞ。
◇
「はぁ、本当に行ってもうた」
「……紀行を信じてあげなよ。紀行はこんな事じゃ死なない」
「信じるって……せや、架純先輩にも聞きたい事あったわ。……何者なんや、アンタは」
「……何者って?」
本当に何も分からないような様子で首を傾げる。
「単刀直入に聞くで……まず、架純先輩は能力を知ってる。それは間違い無いやろ?」
「……知ってるよ。今の時代これがあるでしょ?」
「SNS?」
「最近変な事件が起きてるから色々調べてみた……そうやったらこんな事呟いている人がいてね」
"始まる前から飛ばしまくってる能力者多すぎ!そういう奴はすぐ死ぬから(笑)"
"俺以外の能力者全員はよ死ね"
"#能力者集まれ"
「……こうやって呟いている人も何人かいるし何かしらこの街に何か起きている事は知ってる。実際、刺された紀行が3日後にあんなにピンピンしてるなんて有り得ない。だから私はこれを信じられる」
「それは嘘やろ?」
「……どうして?」
一旦一呼吸入れてから話し出す。
「ウチの能力が効かへん奴は今までおらへんかった。一般人やろうが能力者やろうがな。けど、架純先輩だけには効かへんねん。」
「……何が言いたいの?」
「架純先輩も……能力者なんやろ? だから能力の事も何もかも信じられるんやろ? 答えてや、架純先輩!」
◇
俺はあえて放火魔のセンサーに一瞬反応させ近くの人気の無い裏路地にやって来た。ここでなら多少暴れても問題無いだろう。
「そこの放火魔。センサーで俺をつけてきているのは分かってる。さっさと出て来いよ」
案の定放火魔は俺についてきた。センサーがあるので俺にバレずに追跡はキツいと分かっているはずなので人気の来ない場所で俺を殺ろうとしたのだろう。あえてその策に乗る。
「それともなんだ? チキンか? それとも……おっと」
ここまで言った所で大きな火の玉が飛んできたが難なく躱す。
「ほう……俺の火の玉を避けるなんてやるじゃねえか」
放火魔が姿を現す。なるほど、いかにも悪そうな顔をしている。
「よう、放火魔。そんなショボイ能力じゃ俺を殺すのは無理だぞ? いや、他の誰にも勝つことすら無理だな」
「へぇ、言ってくれるじゃねえか。地獄でその油断を後悔しなぁ!」
予備動作無しで先程より大きな火の玉を撃ってきた。これは避けられない。俺に直撃し爆発を起こす。
「ふう……能力者が来たと思ってビビっちまったが他の能力者も大した事無いな! やはり俺が最強だ! はははははは」
「そうかそうか、それは良かったな」
煙の中から俺が姿を現す。火傷一つ無い無傷の状態で。
「なっ!? 直撃したはずじゃ……」
「ああ、したよ。それがどうかしたか?」
「クソ……くたばれ化物!」
何度も何度も俺に火の玉を当てるもダメージが入らない。いや、入っているのだが傍から見たら何ともないように見えるだろう。
「な、何者なんだお前……!?」
「俺か? 俺は……普通を愛する男だ。そして普通を脅かす者は許さない」
だんだん相手に近寄っていく。相手は戦意喪失してへたり込んでいる。
「や……やめろ! 来るな!」
「はぁ……散々人の家燃やしておいて最後は命乞いか。お前こそ地獄で後悔してるんだな」
まあ俺は命まで取る気は無いけど。無抵抗の男を思いっきり蹴りあげると10mほどぶっ飛んで壁にぶつかり気絶した。
「なるほど……やっぱり俺の予想は当たってたな」
【ゾンビ】の能力は身体能力を上げるものではない。人間の力の限界を好きな時に出させてくれる能力なのだ。
人間はどんなに力を出そうと脳がセーブしていて限界まで力を出す事が出来ない。それをいつでも出せる用にしているのだ。よくゾンビが凄いパワーで襲い掛かってくるのはそういったリミッターが無いからだ、って意見が能力に反映されているのだろう。
「さて……俺の能力が大分理解した所でこいつも確かめなければな」
手の中に鍵を出現させ、服の上から放火魔の胸に刺し込む。今の所何ともない。
「あいつが言っていたのは本当なのか……? それともこいつが気絶しているから気付いてないだけか……?」
ゆっくりと鍵を回す。90度程回したところでがちゃりと音がしてそれ以上回らなくなった。
「ううむ……こいつが起きないと何も分からんな……ん?」
鍵を抜こうとした時に色が変わっている事に気付く。今まで白色だった鍵が赤色へと変化しているのだ。
「どういう事だ……? まるで意味が分からんぞ」
さらに鍵も消えなくなっている。今までは消そうとしたら消えていたのだが出来なくなっている。新しい鍵は……出せるみたいだ。
「能力をこの鍵に封印したってことか……?」
まだまだ分からない事ばかりだ。とりあえず鍵をポケットにしまったその時。
「……!? 新しい反応……!?」
センサーが1人の接近を感知する。ちなみにこいつへの反応は鍵を回した所で消えてしまっていた。本当に能力が消えてしまったのだろう。
「いつもの近道を通っていたらまさか能力者に会えるとは思っていなかったよ。それも我が校の生徒か」
俺が気付いた時にはその能力者はすぐ近くまで来ていた。
「せ、生徒会長……?」
凛とした姿で頭も良く、周りからの信頼は厚く、剣道部の主将で校外では常に木刀を持っているまさに現代に舞い降りた侍のような少女。
それが俺の目の前にいるウチの生徒会長、神原 琴音である。
「お前は……3-4の柿田 紀行だったか?校内でも何人かいるのは分かっていたがその1人はお前だったのか」
「生徒会長も能力者だったなんて……」
「1つ、君に聞いておきたいことがある。あの男をやったのは君か?」
木刀で気絶している放火魔を指し示す。
「ああ、そうですよ。それが何か問題でも……」
「そうか。なら私も容赦なくお前を斬れる」
「えっ?どういう意味…」
言い終える間もなく、俺の首から上が地面へと落ちていった。
予定より大分遅くなって本当にすみませんでした……。




