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俺、ゾンビの能力で最強になります。  作者: 雨流 丁亜
第一章 俺、ゾンビになります。
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第1話 夢の中で美少女に会う

 

「君に能力を与えよう」





「……はぁ?」


  俺は今、間違いなく夢の中にいる。そう言い切れるのは何故か。


  まず1つ、こんな真っ暗な空間にいる事。


 俺は夢を見る時、いつも真っ暗な空間に1人いる夢を見る。何度も繰り返し見てきたから分かる、これは夢だ。


 ……夢ならもっとマシな夢を見たいのだが。


  2つ目、俺の目の前に立っている奴は普通じゃない。


 すらりとした体型に、しっかり手入れされているだろう緑髪のロング。そしてこの空間でもしっかりと映える漆黒のドレス、そして思わず見入ってしまいそうな綺麗な赤と青のオッドアイ。一見大人びているように見えて子供っぽいあどけなさを感じる。


 こんな奴コスプレ会場以外…いや、コスプレ会場にいたって間違いなく目立つ。普通に美少女なのだ。ただ、俺の目の前に現れるこういう奴は2次元か空想にしかいないに決まってる。


 3つ目、現実にいる奴はこんな見知らぬ相手にこんな事は言わない。


 こんなセリフ、親友同士のやりとりでもしないだろう。言ったとしても

「お前はRPGのラスボスかよ」

 なんて言われ笑われるか呆れられるかのどちらかだ。怪しい宗教団体でももっと回りくどい言い方するぞ。


 よって、これは夢である。Q.E.D.




「ねぇ、聞いてる? 君に力をあげるって言ってるのー!」

「俺も夢でこんなもん見るようになっちまったか…病んでるなぁ」

「確かにここは君の夢の中だけれども! 力を与えるのは本当です〜!」


 やかましい奴だ。夢の中でくらい静かに過ごしたいものである。


「力を与えるとか言われてもなぁ……正直今の現状で満足してるし」


 俺は今の現状に本当に満足している。普通の生活、普通の友達、普通の家族、それに隣に住んでる可愛い女の幼馴染。正直俺はこれだけでも恵まれている。


 これ以上望むのはバチが当たる。申し訳ないがここはお引取りを……


「大丈夫大丈夫、私は無償で君に能力をあげる! お代、デメリットはありませーん!」

「……凄い胡散臭い」


 俺は大体こういう奴には裏があるって知っている。魔法少女やらなんやら、力を貰ってから後で色々しっぺ返しが来るのが定番だ。


 それに出る杭は打たれる。俺は普通でいいのだ。


「もう、どうして信じてくれないのさー。僕は君にすこーしばかり実験に協力して欲しいだけなのに……」

「やっぱり何かあるじゃねーか!」


 ほらやっぱりあった。どうせこういう奴の実験なんてとんでもない目に合わされるに決まってる。


「あっ。し、しまった、これは力をあげてから話すべきだったかな」

「……俺は絶対そんなもの貰わないぞ、絶対にだ」


 こいつがドジで助かった。早くこの夢から覚めないととても面倒な事になる気がする。なんとか夢から覚める方法を考えていると


「ちょっと待って!この実験が終わったらなんでも夢を叶えてあげる!世界の半分あげることも、大金持ちでも、異世界転生でもなんでもしてあげる!」

「俺は現状に満足しているので結構です」

「うーん、まいったなぁ。紀行(のりゆき)君にぴったりの能力を選んであげるのに」

「俺は普通が1番なの。その普通を崩されるのが嫌なんだ」


 俺は突き放すように言い放った。が、次に見せたその女の表情は俺の想像とはかけ離れていた。



「ふふ…そっか、その普通、もう無くなっちゃうと思うよ?」

 女は満面の笑みでそう答えた。


「私はね、ここらへんに私の能力全てをばら撒くつもり。それはたった1つでもこの町を跡形も無くなるほど消し去る奴だってあるんです。もうどっちみち普通の生活は出来ないかなー?」

「……脅しか? そもそもお前が本当に能力を持ってるかだなんて」

「証拠かぁ……うーん、ここだと何をしても証拠にならないからなぁ。何をしても『あれは夢だったんだー』で済ませることが出来ちゃうし」


 確かにそうだ。俺はこの女がここで何をしようと夢だったんだ、で済ませようとするだろう。やけにリアリティな夢だったなぁ、そんな事を思いながら目覚める事だろう。


「そうだ、君の周りにいる人を1日1人ずつ消していってあげようか?そうしたら君もこれが本当だって」「……ふざけるな」


 俺は怒りを込めた声でその女の言葉を遮る。


「何故お前の為に俺の普通を奪われなきゃいけないんだ? お前はなんだ、神か? そもそもなんで俺じゃないといけない? もっとそんなの欲しがっている奴だっているだろう? けどお前のその胡散臭い話を信じる奴なんて誰もいないだろうよ」


 自分の夢ながら割と本気で怒る。俺にとって普通とはそれほどかけがえのないものなのだ。


「俺はファンタジー小説の頭がおめでたい奴と違って現実主義者。たとえこれが俺の夢だろうと俺は」


「はぁ…ここまで頑なに断られるとは思ってなかったよ」


 女は面倒くさそうにこちらを見ながら続ける。


「もう能力をあげる人は決めたんですー。振り分けもしちゃったから変えられません。もし断られたとしたら…私も手段は選びませんからね?」


「はぁ、俺の夢もここまで来ると重症だな。普通を望んでいた俺が夢で頑なに能力を分け与える奴に出会うなんて……」


 何度も言う。俺はそんな物欲しがっていない。だからここはお引取りを、と言いかけた時


「分かりました……今日はここで帰ります」


 ようやく女が折れてくれた。やれやれ、これで俺の日常が……


「じゃあ、宣言通り私は手段を選びません。あなたが能力を貰ってくれるまであなたの普通を消していきましょう」

「やってみろよ、お前にそんな力があるなら俺も考えてやってもいい」


 半ばヤケクソ気味にそう言い放つと女は嬉しそうに


「分かりました、いつでも気が変わったら呼んでくださいねー?」


 と言い放った所で目を覚ました。


「やれやれ、やけにリアリティな夢だったな」


 朝の7時半。いつも通りの起床時刻。普通の朝。


「俺もあんな夢を見るようになって…どうしちまったんだろ、俺」


 苦笑しつついつも通りの支度をし、いつも通り幼馴染と学校に通った。




 が、俺のいつも通りはそこまでだった。

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