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翼ある騎士団の伝説  作者: 葉月秋子


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9/15


「スリだ!スリだ!やられたッ!」

「わっ、財布が!」

「おっ、おれのも!」

 夢中になって空を見上げていた群衆から上がる叫び声。

 ここのルールに、違反する者がいる。

 ミアンはすばやくあたりを見回す。

 とうさんと暮らしていた日々の感覚がよみがえる。


 スリは不審な動きはしない、

 周囲の人ごみに溶け込みながら、目立たず離れようとする。 

 探すのは、怯えと優越感の入り混じった心。


(そこ!)


 あたりは人ごみで動きがとれない。

 ミアンは近くの石の手すりに飛び上がり、数歩走って、目指した相手の上に飛び降りた。


「うわっ!」

 だが、相手は軽いミアンの体重さえ支えきれず、くしゃっと潰れる。

 子供。

「何だお前、離せ、こんちくしょう!」

 ミアンより少し年上の、汚れた男の子。

 ミアンが低く二言三言、子供の耳にささやくと、子供はぎょっとしたようにミアンを見つめた。

 きれいな女の子の口から出た、思いもかけない泥棒仲間の隠語。

「お前、何で!」

「ブツ置いて消えな。見逃してやるから」


 迷いは、一瞬。

 男の子はミアンのスカートの下に何か押し込むと、捕まえようと手を伸ばした男たちの足の間をかいくぐり、石の手すりの隙間を抜け、人ごみの中に消える。

ミアンは立ち上がった。

「あらー、ここにお財布が落ちてますよー」



 その派手な動きが、近くの桟敷で上から見ていた貴族の娘たちの目に留まった。

「ねえ、あのお仕着せ、うちの学院のよ」

「ほんと。あんな小間使い、いた?」

「下働きの子よ、あのグレイの服は」

「あら、あの子って・・・」

「え?なになに?」

「ご存じないの?お姉さまがた。あの子って、じつは・・・」

「「「えーっ!!!」」」



『ハルシオンが救って名付けた子ですから』

 伝聞とは、怖いものである。

 シャーリーンの不用意な一言は、贔屓の騎士の情報は聞き漏らさない良家の子女たちの間では、数日のうちにこう広まっていたのだった。


「ハルシオン様が名付けた子ですって」

「ハルシオン様の名付け子ですって」

「ハルシオン様の子ですって」


 ・・・・・・・・・・・・。


「えーっ!あの子、ハルシオン様の隠し子!?」

「しーっ!」

「少年の頃、さる貴族のご令嬢との間にもうけられたのですって。

 でも結婚は許されなくて、泣く泣く仲を引き裂かれたのだって聞いたわ」

「うわー、あの厳しい騎士様の、青春の証なのねっ!」

「冷たい怖い方だと思っていたのに」

「だって・・・そしたらハルシオン様、十一か十二歳の時!」

「うっわー、早熟!」

「その年で父親は無理よねぇ」

「かわいそうに、親子の名乗りも出来ず、離れ離れなのね」

「ねえねえ、会わせてあげましょうよ」


 数日後、式典の跡片付けに追われて大忙しなのに、なんだか西翼に行く用事がやたらと多くなったのだった。













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