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「出ておいで、ちびっこ。ナイシアが見えたぞ」
御者台の初老の兵士に声をかけられ、子供は毛布をかぶったまま起き上がった。
砂埃をあげて前方を行く、騎馬の兵士の一隊。
人と荷車がせわしなく行きかうひろい道路。
行く手には、緑豊かな丘陵地帯と点在する瓦屋根の家。
ならず者たちと裏街道を転々としてきた子供は、こんなに沢山の家と人間は見たことがなかった。
丘陵を右に曲がった道路の先では、大きな工事が行われているようで、整地された地面が遠くまで広がり、明るい陽の中で立ち働く人々の喧騒がここまで届いてくる。
「アルハの都とは比べ物にならん、鄙びた所じゃよ。
新しい王宮があそこに出来るそうじゃが、まだのっぺらぼうの地面ばかりじゃ。
なんせ資材も人手も足りんでなぁ」
気持ちが軽い。
オニがいない。
きょろ、とあたりを探す子供に、兵士は空を指さす。
「騎士様たちか?あそこじゃよ」
高みに羽ばたく、三つの翼。
「一足先に報告にお戻りじゃ。お忙しい身じゃからな。
騎士団の立て直しもままならんというのに、あっちゃで鬼が出た、こっちゃで鬼が出たと呼びつけられるんじゃ。
あれじゃ身が持たんわ。
まったくたまったもんじゃないわい」
と、言いつつ、兵士の口調は自慢げだ。
軽い登りの勾配がきつくなり、兵士はほーれ、ほーれと馬を励ます。
「ミニー、マニー、もうすぐじゃ。
ふすまのたっぷり入ったうまい飼葉が待っとるぞ」
そしてわしにはうまいエールじゃな。
喉をならした兵士は、あたりを見回す子供に陽気に説明をしてやる。
「あっちの大きな赤い屋根が王家の夏の離宮、今はあそこが仮王宮じゃ。
隣に続く灰色の屋根は大蔵大臣シキブ卿の別荘じゃったが、今は騎士団の本部と王立学院が使っとる。
丘の上までいけば、新都ナイシアが見下ろせる。まだ区画割りの印だけだがの。
なあに、すべてはこれからじゃ」
遠くから見えた灰色の屋根は、近づくとどんどん大きくなっていき、見た事も無いような大きな石造りの建物になった。
馬の蹄が石畳を打ち、車輪の音が大きく響く。
大きな門。大きな広場。大きな石の家。
硝子の入った、窓。窓。窓。
そして忙しそうにがやがやと行き過ぎる、沢山の人の群れ。
「こっち側が王立学院の入り口じゃ。
じゃあな、ちびっこ。元気でやれや」




