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翼ある騎士団の伝説  作者: 葉月秋子


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4


「出ておいで、ちびっこ。ナイシアが見えたぞ」


 御者台の初老の兵士に声をかけられ、子供は毛布をかぶったまま起き上がった。

 砂埃をあげて前方を行く、騎馬の兵士の一隊。

 人と荷車がせわしなく行きかうひろい道路。

 行く手には、緑豊かな丘陵地帯と点在する瓦屋根の家。


 ならず者たちと裏街道を転々としてきた子供は、こんなに沢山の家と人間は見たことがなかった。


 丘陵を右に曲がった道路の先では、大きな工事が行われているようで、整地された地面が遠くまで広がり、明るい陽の中で立ち働く人々の喧騒がここまで届いてくる。


「アルハの都とは比べ物にならん、鄙びた所じゃよ。

 新しい王宮があそこに出来るそうじゃが、まだのっぺらぼうの地面ばかりじゃ。

 なんせ資材も人手も足りんでなぁ」


 気持ちが軽い。

 オニがいない。


 きょろ、とあたりを探す子供に、兵士は空を指さす。 

「騎士様たちか?あそこじゃよ」


 高みに羽ばたく、三つの翼。


「一足先に報告にお戻りじゃ。お忙しい身じゃからな。

 騎士団の立て直しもままならんというのに、あっちゃで鬼が出た、こっちゃで鬼が出たと呼びつけられるんじゃ。

 あれじゃ身が持たんわ。

 まったくたまったもんじゃないわい」

 と、言いつつ、兵士の口調は自慢げだ。


 軽い登りの勾配がきつくなり、兵士はほーれ、ほーれと馬を励ます。

「ミニー、マニー、もうすぐじゃ。

 ふすまのたっぷり入ったうまい飼葉が待っとるぞ」

 そしてわしにはうまいエールじゃな。

 喉をならした兵士は、あたりを見回す子供に陽気に説明をしてやる。


「あっちの大きな赤い屋根が王家の夏の離宮、今はあそこが仮王宮じゃ。

 隣に続く灰色の屋根は大蔵大臣シキブ卿の別荘じゃったが、今は騎士団の本部と王立学院が使っとる。

 丘の上までいけば、新都ナイシアが見下ろせる。まだ区画割りの印だけだがの。

 なあに、すべてはこれからじゃ」


 遠くから見えた灰色の屋根は、近づくとどんどん大きくなっていき、見た事も無いような大きな石造りの建物になった。


 馬の蹄が石畳を打ち、車輪の音が大きく響く。

 大きな門。大きな広場。大きな石の家。

 硝子の入った、窓。窓。窓。


 そして忙しそうにがやがやと行き過ぎる、沢山の人の群れ。


「こっち側が王立学院の入り口じゃ。

 じゃあな、ちびっこ。元気でやれや」







 

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