13
しばらくして、学院監督のマリオンがランタナと相談した。
「ハーミアンを奥向けの小間使いにしてはどうかしら。
物静かでお年寄りの相手がうまいわ」
「そうですね、やせこけて力仕事には向きませんし、野良猫みたいだったのが嘘のようにおとなしくなってますからね。
「ミアン、お前は今日から小間使いに昇格だよ。
それに着替えて南棟のヒルダさんの所へ行きなさい」
渡されたのは黒い制服と、レースの縁取りをつけた白いエプロン。おそろいの白いリボン。黒い制服によく映える。
掃除係から一足飛びにすごい出世だ。
「へえ、うまくやったわね」
「お年寄りに取り入ったんですって?残念、私が会っていれば」
「お嬢様がたのお目にも止まったし」
「もの知らずのミアンがねぇ、ご老人のお世話がお似合いかもよ」
「残念ね、お年寄り相手じゃ、貴公子に出会うチャンスは少ないわよ」
カナまでが。
「もともとシャーリーン様のお引き立てがある子ですものね。
コネがある子は違うんだわ」
なに・・・それ・・・。
「カナ・・・」
「軽々しく呼ばないでよ!
小間使いに昇格したって、うぬぼれんじゃないわよ!
どうせ私たちは使用人、お貴族様にこき使われるばっかりなんだから!」
昇進のかわりに仲間を失ったのだった。
南棟のヒルダは上食堂、上厨房、大広間の宴会までを仕切る白髪の女性。
ふくよかな体に大きな白いエプロンをした厨房の親分だ。
子分のたくさんの料理人を指揮して、館の人々の食を一手に引き受けている。
「あんたがミアンかい?
まだちっこいが見場はいいね。
お茶の係りが良いだろう。
教師がたのお好みは難しい。しっかり覚えるんだよ」
まずは先輩についてお茶の入れ方、お菓子の出し方、お客様への応対の特訓だ。
下食堂の頑丈なしろめの皿や陶器の杯と違い、磨きたてた銀器や繊細な磁器の茶碗は取り扱いが難しい。
出し方にもいろいろな作法がある。
午前と午後のお茶の支度、学院の教師たち十数名それぞれ好みのお茶を覚え、広間の会議、応接室での接待とお盆を持って走り回り、クロスやナプキンは少しでも染みがあったら取り替えて、洗濯に出して受け取って、夜は銀器の山を磨く。
力仕事は少ないものの、細かな雑用は山とある。
大きな盆をかかげる先輩の後から、お茶菓子をかかげてついて行く毎日が始まった。
見事な銀器や飾りだらけの陶器の鉢は、少女の腕にはけっこうな重さだ。




