表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/58

10

 作戦決行当日。


 俺は作戦を遂行するため、仲間たちや呼び集められた警察、漁業関係者たちには所定の場所で待機してもらい、そして俺は作戦の全貌を見守るため――そして作戦の最終段階に備えるため、上空のヘリコプターに待機していた。ここが事実上の司令部だ。


「定刻通り、予定地点に八頭ザメが現れました。東部海岸線付近に出現!」

「クレア、砂浜での準備は万全か?」

『ああ、いつでもどんとこいだ!』

「よし、それではまずは目標を砂浜まで追い込む。〈ヤオイ作戦〉フェイズ1始動、有翼圧力容器爆弾、投下!」


 俺が作戦開始を宣言すると、まずサメのもとに急行したのは有人ヘリ並びにドローンからなる即席の航空部隊であった。先の戦いでも警察ヘリが一機犠牲になっていることもあって、観光用ヘリまで徴用して数を揃えたお粗末な騎兵隊だ。


『了解、一番機から三番機、八頭ザメを射程に納めた! 有翼圧力容器爆弾、第一波攻撃開始!』


 ヘリコプター群が空中から慣性によってサメのもとに飛ばしたのは、ボンベであった。しかし、ただのボンベではない。巡航ミサイルのような長い翼が溶接され、長距離を滑空できるように改造された巡航ボンベであった! しかも、ラジコン飛行機のシステムを取り付けることで尾翼を遠隔操作して、ある程度の軌道修正を行うことすらできる!


 そう、直接ヘリで爆弾を投下できる距離まで接近しての攻撃だと、サメは航空機の高度までジャンプできるので危険である。故にサメの射程圏外からキツイ一撃をお見舞いしてやる必要があったのだが、生憎俺たちは軍じゃないからミサイルなんて用意できない。そこで考案したのが、この簡易長距離誘導爆弾なのである!


 放たれたボンベたちは水上に突き出した背ビレに向かって吸い込まれていき、そして次々と水上で炸裂した。


『第一次攻撃、命中!』

「よし、続けて撃て!」

『了解! 四番機と五番機、回り込め!』


 次々と撃ち込まれてゆく有翼圧力容器爆弾。その業火には、流石のヤマタノジョーズも堪えたようだ。進路を反転させた。


 そして更なる有翼圧力容器爆弾を投下し、奴を浜辺へと追い込んで行く! 途中で避難勧告を無視したジョックが巻き込まれた気もするが気にするな!


 そして遂に、サメは砂浜に打ち上げられた! サメは陸上や空中でも活動できる生き物だが、水中にいる時よりは機動性が落ちる、このチャンスを逃すな!


「目標が砂浜のB地点に上陸した! クレア、頼むぞ!」

『了解! 特別建機部隊、発進!』


 そこで牙を研いで待ち構えていたのは、クレア率いる建機部隊であった。建物の陰から姿を現したそれは、ホイールローダーとコンクリートポンプ車から編成されていて、まず先陣のホイールローダーが八頭ザメの左右に展開し、そして力強いバケットでサメの身体を両側から挟んで固定した。


『目標を固定完了!』

『よし、注入作業開始!』


 続いて突撃したコンクリートポンプ車群は次々とポンプアームを展開し、ノズルを八頭ザメのそれぞれの口の中に突っ込んでゆく。


『各車、注入開始!』

『了解!』



 そう、彼らがサメの口に流し込んでいるのは、重油と酸化剤だ。

 サメを殺すのに一番有効なのは口にボンベを仕込んでの内部爆破だ。しかしあの八頭ザメは、頭を一つや二つ破壊しても生命活動に支障は無い上に、驚異的な速度で再生してします。


 ではどうすればいいのか? そう、あのサメを倒すには、一瞬で全ての頭を刈り取るか、或いは胃袋に爆発物を仕込むことで胴体から爆破するかのどちらかしかないのだ! そして一瞬で同時に八つの頭を落とすのは土台無理な話なので、消去法で後者の手段となる訳である!


 これぞ、マシロ老人が言っていたヤマタノオロチに酒を飲ませて殺したという伝承を今風にした、最新技術と東洋の神秘が融合した究極の作戦だ!


『予定注入量の五割を突破!』

『……まずい! 全員退避しろ!』


 順調に作業が進んでいたかと思いきや、クレアが叫んだ次の瞬間、一時的に大人しくなっていた八頭ザメが思い出したように暴れだし、恐るべき怪力で固定作業中のホイールローダーを振り払い、口の中に挿入されたアームを噛みちぎってしまった!


 そしてそのまま身体を反転させ、水の中へ帰っていく。


『すまん、ライアン! あと少しのところだったけど……』

「気にしないでくれクレア。想定内だ。ダニー、サメの位置は?」

「ああ、丁度河口に入ろうとしてるところだぜ」

「河口ならキャサリンの隊にも近いし、備えもあるな。よし、キャサリンに臨戦態勢を取らせろ! 橋の上のトラップを使う!」

「アイアイサ―!」


 俺が号令すると、橋の上に停車していたタンクローリーとロードローラーが動き出した。


 そして八頭ザメが、橋の下を通過する。よし、チャンスだ!


「タンクローリーだッ!」

『了解! 無人油槽車爆弾、投下!』


 俺が黄色い服が似合いそうな形相で叫ぶと、待機していた警官たちが橋からタンクローリーを落下させた。そしてタンクローリーは丁度通過中だった八頭ザメの頭上で爆発、河口を火の海に変える!


「効いてる、効いてるぜライアン!」


 とダニー。確かに、八頭ザメは爆発の衝撃と熱風に煽られ、動きを鈍らせながら川を遡上しようとしていた。


「よし、この調子で確実に追い込み、河川敷に乗り上げさせるぞ」

「じゃあ最期の一撃も使うのか?」

「当然…………ロードローラーだッ!」


 機を見て叫んだ俺の声に応え、橋上のロードローラーが落下、サメをその重量から生まれる衝撃力を以て確実に追い込んでいく!


『無人締固め機質量弾、効果あり! 目標、予定ポイントに上陸します!』

「よし今だ! キャサリン隊、攻撃開始!」


 河川敷に当然のように上陸した八頭ザメのもとに、キャサリンが率いる第二建機部隊が群がる。キャサリンは空挺ゾンビ騒動の時に重機を扱う才能を見せたことと、いざとなればチェーンソーで応戦して他の隊員を守れることからリーダーに選ばれたのだ。


『了解よライアン! 今から第二次注入作業を始めるわ!』


 クレア隊の時と同じようにホイールローダーがサメの身体をロックし、そしてコンクリートポンプ車が重油と酸化剤を流し込んでいく。


『予定注入最低量を突破! ……注入量百二十パーセント! 臨界です!』

『よし、引き上げるわよ!』


 キャサリンの速やかな判断は正しかった。臨界まで飲まされた八頭ザメは待っていたかのように暴れだし、腹の中をパンパンにした状態で水中に帰ったが、キャサリンの指示のお陰で巻き込まれた者はいなかった。


 八頭ザメはそのまま川を下り、海に戻った。さて、ここからが本当の本番だ。


「なあライアン。本当に、お前が行くしかないのか?」


 と、不安げなダニー。


 俺たちは八頭ザメの後方上空でヘリで滞空していた。俺はヘリの扉のところで、潜水用のフィンを足に装着していた。既に服はウェットスーツにチェンジ済みで、ボンベは背中に背負うものの他にもう一つ、傍らに置いていた。


「いや、だって俺以外適任いないじゃん。俺以外じゃあ、木の棒使っても食われるし」

「でもよ、お前こないだまであんなに嫌がってたじゃねぇか、こういうの」

「勘違いするな、今でも嫌だよ。ああ、嫌だ。お前とファックするくらいには嫌だ。でも、さっさと終わらせるにはこれしかないだろ」

「にしても、リスクが高いんじゃねぇか? ボンベを抱えて潜水して、奴の口にボンベをねじ込んで点火するなんて」


 自分でも危険な作戦であることは自覚している。いくら確実に内部爆破するためとはいえ、奴に再び肉薄するなど、正直生きて帰れる保証は無い。


「そんな装備で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題無い。接近戦のために木の棒も持ったし、キャサリンから借りた水中チェーンソーもある。上手く立ち回ってみせるさ」


 言ってて、どうして自分はいつの間にかここまでこの世界の問題に真剣になっているのか、どうしてここまで木の棒に信頼を寄せるようになっているのか不思議になってきた。俺自身が何かを守るために変わり始めているのか、それとも「件の存在」によって何かされているのか。


「ライアンさん、予定ポイントです!」

「……時間だ。まあ、心配すんなダニー。イケメンは死なない」


 俺はいつの間にかヒロインの座を占拠したかのような面持ちで見守るダニーを背に、海へ飛び込んだ。

 木の棒とチェーンソーは腰や背中に剣のようにして固定し、爆破用のボンベはワイヤーで牽引している。万全の体制だ。


「……さあ来いヤマタノジョーズ! 俺はサメが大嫌いなんだ! 俺を怒らせたことを後悔するが良い!」


 落水する音を聞きつけてやって来た八頭ザメと相対する俺は、恐怖と共に謎の自信を感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ