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 報告された地点に到着すると、すでに三隻の船と上空のヘリコプターがサメを捕捉していた。


『敵の潜水艦を発見!』

『駄目だ!』


 怪物を前に混乱している漁師たち。


 俺たちを合わせて船四隻とヘリ一機。対してサメは一匹だ。


 不安は残るが、飽和攻撃ができない物量差という訳でもない。被害が拡大する前に、攻撃は開始しておく必要がある。


「皆さん、攻撃を開始して下さい!」


 漁船がサメに接近し、漁師たちがライフルや捕鯨砲を水中のサメに撃ち込み、ヘリコプターに搭乗した警官が小銃と狙撃銃でサメの頭上から攻める。


 俺たちもその戦列に加わるや、各々手にした銃器でサメを攻撃する。


「ライアン、あまり効いてるようには見えないぞ! どうなってるんだ、あのサメ肌は⁉」

「三十年海で戦ってきたが、こんな頑丈な獲物は初めてだァ……」


 クレアとジーンが、その耐久力に驚嘆する。


「怯むな、ボンベ爆弾投下!」


 各船舶の乗員がボンベを海に投げ込み、それを銃で狙い撃つ。


 サメは致命傷にこそならないものの、ある程度の苦痛は受けたようで、唸り声を挙げながら水中で暴れ回った。


 だが、それがサメの逆鱗に触れた。怒り狂った八頭ザメは漁船の一隻に肉薄し、半身を右舷に乗り上げさせ、乗員を捕食してしまった!


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ! バ、バケモノめ!」

「撃て、撃ち続けろ!」


 その船の乗員が弾を使い尽すまで銃を乱射するが、八頭ザメは気にも留めない。


 乗員は何か武器が無いかあたふたした末、俺が渡しておいた木の棒を見つけ出した。しめた、これで勝てる!


「う、うらぁあああああ!」

「くそ、俺の船から離れやがれ!」


 しかし漁師たちの木の棒の攻撃を受けても、八頭ザメは全く怯まなかった。


 まさか、木の棒は効かないサメがいるなんて……!


 八頭ザメはその漁船を沈めて海に放り出された八人の船員たちをそれぞれの口でひとりづつ捕食すると、次は俺たちを無視して、南南東へさらに進んだ。


「まずいそ、あっちにはパーティー船が航行中だ!」


 八頭ザメの向かう先には、大学生のジョックたちが多数参加しているイベントにチャーターされたパーティー船が、海に潜む脅威に関する警告を信じずに航行していた! そしてあろうことか、その船には市長が乗っているのだ!


「ヘリコプター、先行してパーティー船に警告して下さい! 俺たちは救命胴衣等を準備しながら後を追います!」

『了解』


 流石の八頭ザメも、ヘリコプターの速度には追いつけないらしい。ヘリは八頭ザメの頭上を通過し、水平線の近くに見えるパーティー船に向かって飛んで行った。


 その数分後、俺たちがパーティー船のすぐ近くまで到達すると、ヘリの警官たちは忠実に職務を遂行しているようで、拡声器を使って船に向かって海域からの離脱を呼びかけていたが、船上の人々は乗組員も乗客も、それを信用していないようであった。下品な音楽と歓声が、ここまで聞こえてくる。


『警告する、付近に大型の八頭ザメが遊泳しており、大変危険な状況となっている。直ちに当海域から離脱、もしくは帰港せよ』

「「「ウェェェェエエエエエエエエイ‼」」」

「えー、皆さまが我がフワル島を祝宴の舞台に選んで下さったことに大いに感謝し、私はこの地の行政の責任者として――」


 バカ騒ぎするジョックたちの咆哮に混じって、相手にされているようには思えない市長の演説が聞こえてくる。


『市長、当海域は危険です。直ちに離脱して下さい』

「うるさい、黙れ! 私は観光のPRを直々にやっているのだぞ! こんなに勤勉な政治家など今時稀だ、それを妨害するというのかね、警察の諸君は!」

「「良いぞ、もっと言ってやれ!」」


 市長が上空に向かって叫ぶと、警察などに日頃から不満があるのか、今まで相手にしていなかった市長を指示する歓声をジョックたちが響かせた。


「何てこった、全然相手にされてねぇじゃねぇか」


 ジーンが呆れる。


 その間にも海中を我が物顔で征く巨大な影はパーティー船の真下に迫っていた。


 そしてパーティー船の船体が水飛沫を上げて大きく揺さぶられる。八頭ザメが尾びれで船底を叩いたのだ。


「な、これは一体どういうことかね⁉ 警察の諸君、説明したまえ!」

「キャーッ、怖いわ!」

「大丈夫だよブリトニー、オレがついている」

「ウェェェエエイ⁉」

「み、皆さんどうか落ち着いて下さい、高波に当たっただけです!」


 慌てふためく乗客たちの前に船員が現れて声を掛けるが、既にパニック状態になった船上では、誰の耳にも届かない。


 その時である。水中から勢いをつけて飛び上がった八頭ザメが船の甲板に腹を打ち付けて乗り上げ、ちょうどそこにいたジョックたちを踏み潰した。そしてその勢いのまま、メガホンを片手に乗客の説得に努めていた船員たちを捕食してしまった!


「キャァァアアアアアアアアアアア!」


 八頭ザメは甲板上から転げ落ちて海に帰ったが、この衝撃によって船の竜骨が折られてしまったらしく、船体がV字型に徐々にひしゃげながら浸水、沈没が始まった。


「キャーッ! タスケテー!」

「畜生、俺たちのパーティーはどうなるんだ!」


 船上のジョックたちは完全に混乱、一部では暴力沙汰も起きていた。


「船が沈むぞ! 早く海に飛び込め!」


 ジョックの一人が、救命胴衣を身につけて船首から海に飛び込んだ。


 すると丁度そこに八頭ザメが大口を開けて顔を出し、彼はその口の中に吸い込まれるようにダイブしてしまった!


「キャァァアアアアアアアアアアア‼」


 その様を目にして更なる深い絶望に沈むジョックたち。


「ライアン、おれたちも救助活動をやらないと」


 救命ボートを担いだクレアが州兵としての使命感を燃やす。


「ああ、でもあれじゃあ近づけない! サメがまだいるし、接近し過ぎても沈没に巻き込まれてしまう!」

「何だと、じゃあおれたち自身の安全のために、彼らを見捨てろというのか、見損なったぞライアン!」

「おいおいクレア、落ち着いてくれ。誰もそうは言ってないだろ」

「じゃあどうしろというんだ!」

「クレア、一回落ち着け! あそこにヘリコプターがいる。既にヘリコプターがサメへの攻撃と、救命胴衣の投下を始めてる、見えるだろう? ある程度状況が安定したところでヘリにサメを陽動してもらって、その隙に俺たちの船と、今こっちに向かってる増援の船で一気に救助しよう、良いな?」

「あ、ああ……そうだな、ライアン。おれが早とちりしてた、見損なったとか言って悪かった。本当に申し訳ない」


 しかし八頭ザメにそんな常識は通用しなかった。


 八頭ザメは一度深く潜って勢いをつけたまま浮上すると、その勢いを以てして水面から水と空気の抵抗を無視して飛び上がり、上空にホバリングしていたヘリコプターにかぶりついた!


 八頭ザメは獰猛なる牙でヘリコプターの尾部を破壊、テイルローターが機能しなくなった機体は空中で激しくスピンしながら失速し、海面に墜落して壮大に爆発炎上。付近の海面に漂っていたジョックたちが何人も巻き込まれてしまった。


「飛んだ……だと……!」


 驚き目を見張るジーン。


 そりゃあ飛ぶだろう、サメなんだもの。


 ヘリコプターを撃墜して救助活動をより困難なものとした八頭ザメは、海面を漂うジョックたちをプロテインとして消費しながら付近の漁船を尾びれの一撃でダイナミックに跳ね飛ばした。空中に舞い上がった漁船は、岸部に立っていた、観光用に割と最近建立された銅像に命中し、その首をへし折る。


「くそう、増援の船団はいつ来るんだ!」

「あ、あと数分で見えるところまでは来てるってよ!」


 船の手すりを叩いて唸るジーンに、無線機に張り付いていたダニーが答える。


 しかしサメはすぐそこまで来ている、対してこちらの戦力は漁船二隻のみ!


 さて、どう戦う⁉


 俺の仲間たちはチェーンソーや銃を手に取ることでそれを示した。


 そうだ、諦めてはならない。俺もまた、木の棒とボンベ、それから拳銃に手を伸ばした。


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