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6

 翌日における八頭ザメ対策部隊の陣容はなかなかのものであった。


 もとより協力者である漁師のジーンによる呼びかけなどもあったのだが、前日の一件をスタンリー氏たちに詳細に報告したこともあり、市長の意向を無視しての警察動員も行われたのである。漁船五隻に警備艇四隻、そして警察のヘリコプターが一機に、陸上の監視班も待機している。これらが島の周囲を哨戒し、発見し次第、全戦力を集結させる段取りであった。


ちなみに市長は朝からパーティー船の視察に出かけていたため、それに気づかないのであった。


 俺たちは旗艦として使われる漁師ジーンの漁船に乗り込んだ。


「ライアン、お前、サメと戦った経験は?」


 出航してしばらくして、各船舶の配置が整いつつある中、ジーンが俺に聞いて来た。


「一応、二度ほどありますよ。八頭のは初めてだけど」

「そうか。俺様も長く生きてきて何度もサメと戦い、この船を守ってきたが、お前も二度も経験があるならわかるだろう。奴らは普通のやり方じゃあ殺せない」

「ええ、特にこういう大きい変異種のサメは銃でも死にませんね」

「そんな時、お前ならばどうする?」

「そうですね……やはりボンベで爆破ですかね」

「ああそうだ。爆破は有効だ。だが、真に必要なのは敵の特徴と性質を知る、そして見出した弱点を一点突破するだけの精神だ」

「全くです」


 ジーンは歴戦の漁師に見合った風格の持ち主で、下手な軍人よりも、戦士の貫禄を持った初老の男であった。


「しかし……この船にも載せられた、あの木の棒は一体何なんだ? 他の船の何隻かにも搬入されたと聞いたが」


 俺はサメを始めとするモンスターに対して抜群の効果を誇る聖なる武具を、作戦に参加する漁師らに事前に勧めていたのだが、過半数は真面目に取り合ってくれず、全ての船に木の棒を配備することに失敗していた。この船にも一応は載せてはもらえたが、ジーンも理解には及んでいないらしい。


「ええ、それは切り札ですよ。サメを倒すのには有効です」

「銛が使えなくなった時の代用ということか?」

「まあ、そう捉えてもらって大丈夫です」


 いざという時に俺が先陣を切って木の棒を手に取って、その威力を見せつける必要がありそうだ。

 その後船団は島の外周を隈なく哨戒し始めた。俺たちの旗艦・ジャクソン号は決まった区域を担当せず各哨戒エリアを巡回し、目標発見の報が入り次第機動的に動けるように備えていた。


「ライアン、今ベッキーからメールが届いたわ」


 とキャサリン。今回のサメに関する考察を頼んでいたらしい。


「へぇ、何だって?」

「今回のようなことも、考えられないことではないって説があるって言ってたわよ」


 考えられない。


「サメを単なる魚と捉えたのは大変な過ちであり、サメは無限の進化の可能性を秘めた、地球上で最も神に近い完全生物だって説が最近は唱えられているらしいわ」

「それ、サメが大昔から姿を変えていない生きた化石って説と矛盾してないか?」

「最近は放射能汚染とかナチスとかいるから適応したんじゃない?」

「なるほど、適応したのか。なら仕方ないな」


 いや、やっぱりおかしい気もするが。


 だが、それでも生き物である以上は、必ず人の手で殺す手段はあるはずだ。


「ライアン、今無線が入った! 警戒ヘリ及び一号哨戒船メリー号が、巨大な魚影を探知したとのことだ。間違いなく目標のサメだぜ、こいつは」


 通信を担当していたクレアが声を荒げる。


「本当か、場所は⁉」

「こっから南南東に七キロ行ったところ……まずいな、これは。市長が視察中のパーティー船に近いぞ」

「迅速に対応する必要があるな。ジーンさん、直ちに船を南南東へ最大船速で向かわせて下さい。クレア、キャサリン、ダニー、戦闘準備だ!」

「ようし、州兵としての訓練の成果を見せてやる!」


 俺が号令すると、クレアは喜々として、船倉から小銃を取り出して構えた。警察に融通してもらった、セミオート射撃限定のG3小銃である。


 俺も腰から抜いたベレッタ拳銃と木の棒の調子を入念に確かめ、来るべき戦いに備え、キャサリンはチェーンソーを担いで舌なめずり、ダニーは水平二連装式のショットガンを構えた。


 船には武器と木の棒だけでなく、ボンベも積み込んである。


 体制に関しては間違いなく万全なのだが、それでも俺は不安を禁じ得なかった。


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