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3

 俺たちはまずホテルの客室で荷解きをした後、とりあえずは偵察に出てみることにした。ターゲットのサメの情報があの写真一枚と不足がちな目撃証言だけでは心許な過ぎる。やはり、実際に海に出てみて様子を伺ってみなければ。


「お、ここは工事中ですか。随分と大きな施設を作ってるようですが……」


 ホテルを発って少し走ったところで、巨大な複合施設の建設現場が目に入った。どうやら岡を削って地形ごと改変する大規模な複合作業のようで、大量のブルドーザーにクレーン車、ショベルカー、そしてホイールローダーとコンクリートポンプ車が居並ぶ光景は壮観にすら見える。


「ああ、ここもうちのグループが運営する複合リゾート施設の現場なのですが……。この調子でサメ騒ぎが続くようでは、開業も見合わせなければならないかもしれないんです……」


「なるほど、それは大変ですね。……そう言えば、地域住民とかの間では何か新説が出てたりはしないんですか? これだけの事件だ、話題にもなるだろう」


 俺は船着き場に向かう車中で、サムに尋ねた。


「そうですねえ、それなりに話題にはなっていますが、住民の間で囁かれている説となると、我々の想定と同じようなありきたりなものか、もしくは政府やナチスの陰謀だとか言うあり得ない陰謀論かに二分されてる状況でして」


 いや、それがあり得なくないからこの世界が怖いのだが。


「あ、でも一人少数意見を言ってる人もいました。まぁ、戯言に過ぎないと思いますがね。日系人の老人です」

「情報は多いに越したことはないです。あとで詳しく伺いましょう」

「わかりました。あ、到着ですよ」


 目的の船着き場は交通量が少なめなこともあって、意外と近かった。


 すぐ近くにリゾートビーチがある小さな港だが、俺たちが乗るのは遊覧船ではなく、漁船と同じ船体をベースにした公用船である。


「木の棒が刺さってる」


 俺は桟橋の上を歩いている途中で、砂浜に一本の上等で確かな闘気を感じさせる木の棒が垂直に刺さっているのを発見した。


「ああ、あれですか。いやぁ、いつから刺さってるのかわかりませんが、邪魔なので撤去しようにも、地中で何かに引っかかっているみたいで微動だにしないんですよ。近々重機で掘り返したいところですが……」

「ふむ」


 だが俺はその木の棒を見逃すことができなかった。この手があれを握りたくて疼いていた。


 俺は桟橋から砂浜に飛び降りて、木の棒に向かい、そしてそれを握ってみる。


「駄目ですよ、どんな筋肉モリモリマッチョマンの変態が引っ張っても抜けなかったんですよ」

「それはどうかな」


 俺は木の棒を握る両手に力を込めてみた。


 すると木の棒は、驚くほどあっさりと、ほとんど抵抗せずに俺の腕の動きに合わせて地面から離れた。


 この時、この海岸の上空は曇っていた。


 だが俺が引き抜いた木の棒を片手で天に掲げた刹那、真上の雲が割れて一筋の光が俺と木の棒をスポットライトのように照らし、そしてその雲の裂け目が広まっていく形で、天候はリゾートビーチに相応しい晴れへと移行した。


「抜けたぞ」


 サムが何だか異様に驚愕の表情を見せているが、俺に言わせてみれば単に引っかかってたものが取れただけではって気もする。


「まあ、木の棒が手に入って良かったじゃないかライアン。それはそうと、そろそろ偵察に赴こう。船はおれが運転する。河川警備艇くらいなら乗ったこともあるしな」

「ああ、頼むよクレア」


 俺たちはクレアが操舵する船で沖合に繰り出した。


 だが沖合に出れば見つかるというものでもない。とりあえずは地道に探しつつも、もし手掛かりが無いようであれば次の日に引き継ぐしかないだろう。


「ダニー、魚群探知機に反応は?」

「いや、それらしいのはいないね。熱帯魚の類いならわんさかと映ってら。とっとと終わらせて、平和な海でダイビングと洒落込みたいところだぜ」

「そうか……サムさん、そう言えば、島のもう一か所では今、地元の漁師が捜索してるんでしたっけ?」

「ええ、件のサメは漁業にも少なからず悪影響を及ぼしてますからね。何人かの猟師は対策を続けています。そのうちの一人は、明日からライアンさんたちに協力するようですよ。まあ、今北部でやってる人は違いますがね。北部では餌撒きによる誘き出しを敢行中とのことです」


 一応は二手に別れての体制での捜索であった。できればこちらの船でも餌を撒きたいところだが、多用途に使う船なので、魚の血の匂いがつき過ぎるのはまずいということで断念した次第である。


「しかし、今回は偵察と言えど、やっぱり武器が無いのは心許ないわね。ライアンの木の棒はあるけど、チェーンソーも欲しい」

「ああ、それはおれも思った。木の棒とチェーンソーも必要だが、その補助に銃器も欲しいな」


 キャサリンとクレアにとっては木の棒とチェーンソーがメインで銃器は補助に過ぎないらしい。そんなに木の棒に信頼あるなら俺にばかり任せないで自分たちも使えば良いのに。


「サム、帰港したら鉄砲店への案内を頼みたい」

「おや、知らないのですか? ハワイ州は銃規制が厳しいんですよ、アメリカの中でもトップクラスにね。だから鉄砲店で入手というのは期待しない方が良いと思いますよ」

「そう言えばそうだったか」

「まあ、警察署長の協力もありますし、最低限、拳銃とショットガンくらいなら貸してもらえるとは思いますがね」

「いや、それじゃあ不十分だ。相手は巨大なサメだぞ、豆鉄砲でどうにかなるような相手じゃない」


 俺は思わず口を挟んだ。そう、サメを拳銃如きで倒せるはずがないのは摂理である。


「そ、そうなんですか……ではどうすれば……」

「ボンベだ。大型のサメを銃で倒そうと思ったら、ボンベやドラム缶を併用するしかない」

「ボ、ボンベなら多分入手は可能です。あ、あとチェーンソーも林業用のなら買えるかと……」

「チェーンソーは決まりね。飛行機に載せて来れなかったから心配だったのよ」


 何がキャサリンをそこまでのチェーンソー愛に駆り立てるのか。


 ともあれ、武器に関してはある程度何とかなりそうだ。とりあえず、この海域をもう一回りしてみよう、そう思った時だった。


「お、おい! これは例の捜索活動中の漁船か? SOS信号が来てるぞ!」


 ダニーが無線機と睨めっこしながら叫んだ。


 俺たち一同、無線機の周りに集合する。


「何だとダニー。よし、漁船に繋いでくれ」

「了解だ相棒」

『こ、こちら漁船アンソニー号……! サ、サメが出た! や、奴は今、船体に何度もタックルしてきてる、転覆も時間の問題だ! 頼む、早く来てくれ!』


 どうやら本当に現れたらしい。武器さえ充実していればこれを機に倒したいところだが、それが叶わなくとも、人命救助と敵の全貌を伺うことを避ける道理は無い。

「全速前進だ! 北部海岸に向かえ!」



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