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「ここまで来れば安全だ……」


 しばらく走ったのち、ダニーが不安を煽る言葉を無意識に発しながら、潰れたドライブスルーの敷地に車を停めた。だが実際、辺りにゾンビの気配も無ければ爆撃機が追ってくる気配も無かった。ニュースタング市がただでさえ夕焼けに染まる空をより一層赤く染めて燃え盛っているのが、丁度地平線の辺りに見える。


「本当に逃げ切ったようだな……」


 俺たちは脅威から逃げ切ることに成功した解放感というか安堵感というか、そういった気持ちを改めて感じるべく車外に出て、さっきまでいた街を今一度見てみる。


 肌に感じる空気は極めて平穏なものであった。


「……皆さん、今日は協力ありがとうでした。お陰でだいぶスムーズに目的果たせた……」


 と、ケイシーがどこか恥ずかし気な様子で俺たちに向き直ってきた。


「いやいや、俺たちの方こそ助けられたよ。そのヘルメットの力はかなり頼りになった」

「ええ、あたしたちもケイシーがいなかったらどうなってたことか……。そう言えばケイシーはこの後どうするの? あたしたちは何とかして帰ろうと思うけど、一緒に来るかしら?」

「いえ……。私にはまだやることも残ってますので、ここでお別れですね」


 ケイシーは俺たちに背を向けた。


「すべきことを終えたら拠点に帰ります。ツリーサイド市の拠点に」

「ツリーサイド市? 奇遇だな、俺たちとは隣町じゃないか」


 ケイシーが振り返る。


 世間は意外と狭い、それはアメリカでも同じことのようだ。


「……そうなんですか」

「ああ、車さえ使えば行くのには大して苦労しない。機会があればまた会おうじゃないか」

「……ま、まあ、機会さえあれば」


 ケイシーは改めて俺たちに背を向けた。


「い、行ってしまうんですか?」

「おいおい、もうちょっとくらいオレたちと感傷に浸ろうや」

『私たちにもやらねばならない使命があるのでな。申し訳ない』


 レベッカとダニーの別れを惜しむ声に博士がケイシーより先に応える。空気を読んで欲しい。


「……まあ、やることが残ってるのは事実です。また会えるようですし、私はここで失礼します。お世話になりました……」


 ケイシーは練乳を三本ほど飲み干して一気にエネルギーを補給すると、脚部からジェット噴射をして身体を浮かび上がらせた。


 何気に飛行能力あったのか、このスーツ。


「……あ、ライアンさん」

「ん?」

「やはりなかなか見事なネックハンギングでした……」

「君もな。お互い精進しよう」


 ケイシーが最後にヘルメットの中で笑ったように見えた。


 そして彼女は空に向かって勢いよく飛び上がり、彼女の果たすべき使命の待つ場所へと飛翔していった。彼女の博士に押し付けられた受難はまだ終わらないのだ。


「ふぅ~、何だかあっけなかったなぁ」

「いつもあっけない気もするけどな、ダニー。とりあえず、俺たちも家に帰ろう」

「おいおい、キャンプの予定はどうすんだよ?」

「またの機会に付き合ってやるよ。この車は借り物だし、軍に追跡されたりしても面倒だ。俺たちは少し歩いてからヒッチハイクで帰ろう」


 こうして俺たちはまたしても、貴重な休暇をモンスターとの戦いに浪費したのであった。



 ……後でネットを見たら、ケイシー以外に生きてる目撃者がいた訳でもないのに、なぜかニュースタング市にまつわる様々な噂と「英雄ライアン」がセットになって語られてしまう事態になっていてしまったことは言うまでも無い。


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