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 訳の分からぬ珍事件を成り行きで二度も解決に導いてしまった俺に与えられたのは、ただ煩わしいだけのヒーローの称号と、そして数週間もの時を病床で浪費する権限だけであった。


 まだマスメディアなどで盛り立てられるほどには知名度は無いものの、病床でSNSを眺めていてたびたび目にする、異常なまでに脚色された「グリーンリバーとカリフォルニアを救った無敵にアイアン・ヒーロー」なる記述を見るたびに、やるせない気分になるのは道理である。昔は一時期ファンタジックな世界での活躍に憧れたこともあるが、この平行世界に来て十七年目になる今としては、比較的平凡な生活に甘んじていた方が気楽であるということを再認識して固定させることは自然な流れだったと思う。


 そんな訳で療養という言葉に甘んじて時間を浪費していたら、いつの間にか秋から冬へと移行する期間に時空は突入していた。


 十一月に入ると流石にジョック連中も水着ではしゃいでサメの胃袋にダイブするようなレジャーを楽しむことは無くなる。代わりに山荘まで殺人鬼やグリズリーの餌食となるためのツアーに繰り出すようになる、それがこの世界の理だ。もっとも、中には温泉があるのを良いことに冬山ですら水着になっていたら氷原を泳ぐサメに襲われたという事例も無い訳ではないが。


 だが今年の俺は、そんな季節の移り変わりを肌で感じながら過ごすことはできなかった。十月の後半はクラブダイルとの戦いでの骨折を癒やすため、ずっと病床にいたからだ。まあ、ジョックの死に様で季節を感じたところで、エロ・グロ・ナンセンスを五七五の凝縮したような俳句しか詠めなさそうだし、感じたくもないのだが。


 そんな俺が退院して学校に復帰すると、知らぬ間にキャサリンやダニーたちがキャンプの企画を立てていたのだ。無論、新しいクラスメイトのレベッカと俺もメンバーだ。クラブダイルとロボコンダからカリフォルニアを救い、またしても裏の世界で英雄伝説を生んでしまった俺への労いの意味も込めた企画だという。


 それが、俺が今季節の変化を久しぶりに感じている場所が、ダニーの運転する車の座席である所以だった。


「おいおい、浮かない顔すんなよライアン。今回は、お前さんのために立てたようなもんなんだぜ、この企画は。エンジョイしなくてどうするってんだよ」


 車で片道五時間以上かかる目的地に向かう中、カーラジオから流れるロックンロールに乗って身体を揺らしながらハンドルを握るダニーは、何故二度も俺と同じ事件に巻き込まれていながらこんなに呑気でいられるのだろうか。キャサリンの場合は怖いもの知らずなだけにも思えるが。


 んなこと言われても、キャンプなんてワニや殺人鬼に襲われるリスクがあまりにも高い遊びではないか。中東でテロに巻き込まれる確率よりキャンプ場で仮面着けた殺人鬼やら巨大昆虫やらワニやらに出くわす可能性の方が高い。


「大丈夫だって、キャンプ場の安全性は。ほら、さっき見せたサイトにも書いてあったろ? うちの州じゃあ三番目に治安が良くて環境破壊も無いキャンプ場なんだ、そうそうモンスターも殺人鬼も出ねぇよ」


 そう言われたところで、胸騒ぎが治まる訳ではない。


 しかしこの時俺の胸の内を支配していたざわつき、その正体に気付けていなかったのは俺自身だった。

俺たちを待ち受ける受難はキャンプ場ではなく、その道中にある町で刃を研いでいたのだ。


 ニュースタング市。俺たちが道中休憩を取るべくドライブスルーに立ち寄った街で、事件は起きたのである。



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