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14

「……イアン……きろ……」

「ん……?」


 暗闇の中で、どこか安心感のある聞き覚えのある声が木霊する。


 だが暗闇は暗闇だ。俺はどこにいるのだろうか。


「ライアン! 起きなさいって!」


 だが、そんな生と死の狭間の世界で感傷に浸る余裕は与えてもらえなかった。


 鼻が文字通りにもげるような刺激に襲われ、嗅覚にリードされる形で俺の視界は光を取り戻した。


「ぐはっ、な、何なんだよ今の匂いは!」

「あ、起きた。良かったわ、後遺症も無さそうで」


 光を取り戻した世界で俺の目に飛び込んできたのは、一緒に戦ってきた仲間たちであるキャサリンとダニー、そしてレベッカだ。


 キャサリンは顔面にガーゼが貼られ、手足の数か所に包帯を巻き、ダニーは頭に包帯を巻き、松葉杖をついている。レベッカにはそのような措置の跡は見られなかった。


 そして、俺は救急車内のベッドの上に横たわっているようだ。


 どうやらこの鼻腔内の痛みが意味することは、気絶していた俺はアンモニアで強制覚醒という、小鳥のさえずりとは真逆をいく方法で目を開いたということのようである。


「あー、痛てて……。これはどういう状況で? 俺は何時間眠ってたの?」

「あんたが気を失ってたのは四十五分きっかり、脳震盪と左腕の脱臼と右足の骨折、あとは擦り傷多数よ。まあ、しばらくは入院だし痛そうだけど死ぬことはまず無いでしょ」

「……何があった?」

「近くの広場に硬着陸したのよ、空中でスピンしながらね。オートローテーションが働いたこともあって何とか助かったけど、ヘリはローターを地面にぶつけて壊れたわ」

「何故、俺だけ妙に重傷なんだ……?」

「ああ、それはね」


 キャサリンが無傷のレベッカを俺の前に突き出す。


「ほら、ベッキー」

「あ、えと……ありがとうございます、墜落の時に庇ってくれて……」


 聞くところによるとどうやら俺は墜落の寸前に、レベッカを庇って負傷したというのだ。


 全く覚えていない。その時に無意識本能的にアクションを起こしたのか、それとも負傷で記憶が飛んでいるのか、今となっては確かめる術は無い。ただ受け入れるべきことは、俺がレベッカを救ったらしいという事実だけだ。


「覚えてない? 全く、天然で女の子救うとかお前はどこまでヒーローになるつもりだよ。羨ましいなクソ、オレもヒーローになってちやほやされてみたいぜ」

「別にちやほやされた覚えは無いがな」


 まあ、前回の事件で冷遇されてたダニーが妬くのもわからなくはない。


「まあ、今回はあたしからも感謝するわ。あたしはあの時、ヘリを何とか地上に降ろすためのアシストで精一杯だった。親友を守るだけの余裕を保てなかった。ライアンはあたしの代わりにベッキーを守ってくれた。あたしにできなかったことをしてくれたの」

「そうか、まあ、記憶には無いんだが……そう感謝されるのも、悪い気分じゃないな」


 無意識なだけに余計に照れくさくて皆から少し目を逸らしていたら、レベッカが顔を近づけて来た。


「?」

「あ、あの。別にこれでお礼を終わりにするってつもりじゃありませんから! また後で、改めてお礼しますから!」


 レベッカは俺の頬に、軽くキスをした。


 正直、どう返せば良いのかわからない。


 俺は色んなことに対する気恥ずかしさから目を逸らしながら、病室に運ばれていった。


 病室に入る前に見た仲間たちは皆、互いに交わす言葉の中で俺のことを茶化しているようにも見え、同時に爽やかでまっさらな敬意を俺に向けているようにも見えた。



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