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「ロボコンダ、予定通り正門から園内に進入、第一誘導ライン向けて進行中!」


 作戦本番。


 俺たち一行はハットン隊長や作戦司令部の面々と共に、園内のビルの屋上からことの推移を見守っていた。


 ロボコンダはほとんど予想時刻に遊園地に到達した。


 俺は無線機に向かって作戦名を叫ぶ。


「これより、〈ヤオイ作戦〉を発動する!」


 戦いの火蓋が切って落とされた。


「〈ヤオイ作戦〉フェイズ1、誘導開始!」


 まず展開されたのはSWATの分隊。装備は打撃力の高いショットガンと、機械の身体を持つロボコンダには一定の効果があると推測される電磁ネット投射器だ。


 建物の陰から飛び出して入園したロボコンダを急襲した彼らの任務は、ロボコンダを指定ポイント1……ジェットコースター前まで誘導することだ。


『目標が進路を変更! 指定ポイントに向かっていきます!』

「よし、引き続き誘導を続けて下さい。フェイズ2担当者は直ちに最終点検を切り上げて投入体勢に入って下さい! もうすぐそっちに行きます!」


 俺が無線越しに指示を飛ばしている間にも、事態は刻々と動いている。


『目標をジェットコースター付近まで誘導成功! 目標、餌に釣られたようです! コースターのレールの上によじ登っていく!』

「了解、分隊は直ちに退避して下さい!」


 ジェットコースターのレールの上に括りつけられたのは、大量のパソコンやスマートフォン。ロボコンダにとってはご馳走の山だ。それがロボコンダが誘導された地点からジェットコースターの発着場の方向にかけて、レール上に並べられているのである。当然、ロボコンダは発着場に顔を向けた状態で大口を開けながら、一つ一つ餌を飲み込んで、じわじわと発着場方面に近づいて行く。


 そしてロボコンダが遂にレールの傾斜角の大きな坂の下に差し掛かった。今がこの作戦の要たる瞬間である!


「今がチャンスだ! 〈無人コースター爆弾〉、投入開始!」


 俺の号令に合わせてレール上を疾走し始めたのは、ジェットコースターである。


 だが、ただのジェットコースターではない。先端部分には遠隔操作装置に接続されたチェーンソーと三丁のショットガンが備え付けられ、全客席にはガスボンベなどに起爆装置を取り付けた大量の即席爆弾が、そして車体のあちらこちらには大量のスマートフォンやタブレット端末、ノートパソコンが貼り付けられている!


 ロボコンダ、迫り来る凶器に向けて大口を開ける。コースターに取り付けられた精密機器の電磁波に反応したからだ。だがロボコンダには一定の知性が既にある。接近するそれが単なる自己進化のための糧ではない、自身にとっての脅威であることを悟るや、急いで口を閉じようとする。


 だが最高出力で発進させられたコースターの下り坂での速度はロボコンダの顎よりも速かった! 無人コースター爆弾はロボコンダの大口の中にその豪速のまま突っ込み、顎の機能を破壊しながら喉の奥へと突き進んでいく!


 無人コースター爆弾の勢い、それでも衰えない! 先頭車両をロボコンダにめり込ませたままロボコンダを押す形でレール上を共に疾走していく! そしてチェーンソーを携えた先頭車両はロボコンダの喉の組織をさらに破壊していく!


「遠隔射撃開始!」


 ロボコンダの口内で三丁のショットガンが次々と火を噴き、その頭部を内側から破壊する。だがそれでもロボコンダの尻尾は未だうねうねと動き回り続ける。


 やがて未だ車体も経験したことの無い最高速度で全てのルートを疾走させられたコースターは、先端にロボコンダを被せたままレールの終点から飛び出して宙に投げ出され、そのまま球場へ飛んで行った。そしてスコアボードに見事命中した!


「無人コースター爆弾、起爆!」


 スコアボード上でロボコンダは内部爆破の憂き目に会う! 


頭部から腹部にかけてを内側からズタズタに引き裂かれたロボコンダは爆風で場外まで飛び出し、球場のエントランス前に墜落した。


「無人コースター爆弾、効果あり!」


 しかしロボコンダはまだ果ててはいない! 顎を完全に破壊されて花びらのような形に頭部がめくれ上がってしまい、腹部からも炎と電流が漏洩しているが、それでももがき苦しんで地を這おうとしている!


「奴はまだ死んでない。作戦を第二段階に移行する! フェイズ3、封じ込め開始!」


 球場前でのたうち回るロボコンダをSWATが包囲、電磁ネットで動きを封じた後、大型チェーンソーを携えたキャサリンが突撃、無傷の尾部を切断してさらに移動を困難なものたらしめてやる! ロボコンダは完全に釘付けになった!


「やったか⁉」

「いや、まだ生きています! 奴は精密機器を取り込んで自己進化するような超機械生物だ、完璧に粉砕せねば再生するかもしれない!」

「となると、〈ヤオイ作戦〉最終段階まで行くのか?」

「当然です!」


 俺はロボコンダの動きが無くなったことを確認するや、大きく息を吸って無線機に向かって腹の底から叫んだ。


「こいつで止めだ! 〈無人観覧車爆弾〉発射‼」


 この遊園地のシンボルの一つである観覧車。その巨体が号令に応えて支柱から切り離され、大車輪と化して地を転がり始めた。


 支柱から解放された観覧車はその外輪部の四か所から炎の噴流を吐き出しながら回転速度を上昇させ、球場前のロボコンダめがけて大地を揺るがしながら転がって突進してゆく!


 そう、無人観覧車爆弾とは第二次大戦中の英国の試作兵器〈パンジャンドラム〉に着想を得た即席大型破壊兵器なのだ! 外輪の四か所のゴンドラには本体を回転させるための火薬ロケットを含む固体ロケットモーターが取り付けられ、それ以外のゴンドラ及び中心部には、火薬、ガソリン、ガスなど、手に入ったあらゆる爆薬が仕込まれているのである!


 これこそが〈ヤオイ作戦〉の最後の要である。


 無人観覧車爆弾はロボコンダに見事命中、その巨体で既に満身創痍な鋼鉄のクリーチャーを踏み潰す! 


 そしてロボコンダを直接圧壊させる接地面のゴンドラが爆発! ロボコンダ、火に包まれる!


 次に上の方に来ていた客席も続々と地上に落下しながら連鎖的に爆発! 広範囲の地面が業火に焼かれる!


 最後に中央部の大型爆弾が炸裂! 観覧車の破片が周囲に飛散し、爆轟の火球が球場前のロボコンダを空間ごと焼き払う!


「今度こそやったか⁉」

「ああ、部隊に確認させてみよう」


 燃え盛る炎がある程度弱まったところで、重装備のSWATが爆心地まで進軍、その未だ空間が轟いているようにさえ感じられる空間を調査する。


 そこには、手のひらに乗るサイズの白銀色で、しかし表面が焼け焦げた金属片が無数に転がっているだけであった。つい数分前までロボコンダだったものだ。動くものは燻り続ける炎以外、何一つとして存在しない。


『ロボコンダ、完全に沈黙! 〈ヤオイ作戦〉、成功しました!』


 あれほどまでに粉微塵になってしまえば最早ロボコンダと言えど流石に再起不能だろう。俺たちの作戦の勝利である。


「いいいやったァァァアアアア‼」

「FOOOOOOOO‼」

「アメリカに祝福を‼」


 勝利の凱歌が遊園地中に響き渡る。


「……〈ヤオイ作戦〉、終了」

「いやぁ、まさか本当に成功してしまうとは。流石はグリーンリバーの英雄だ! ライアン君、ありがとう!」


 自分の握手会は開かない主義のハットンが俺に握手を求めてくる。この時ばかりは俺も気分が良かった、自然に笑顔でその手を握り返してやることができた。


「フォー! まさかここまで上手くいくとは思わなかったぜ! ライアン、お前凄ぇな!」

「自然災害に対する備えを万全にしてるあたしでも、流石にこれは思いつかなかったわ! 特に最後の観覧車! ライアン、見直したわよ! 惚れちゃいそうなくらい!」

「ライアンさん、尊敬します! ライアンさんはわたしにとってもヒーローですっ!」


 ダニー、キャサリン、そしてレベッカも俺の方に、使命を成し遂げたことを純粋に祝福する笑顔で駈け寄ってきて、俺もまた、彼らをこの上なく素直にハグしてやった。


「ライアン、よくやったな」


 湧きたつ集団の中を独り歩きぬけて最後に静かにやって来たのは、ケヴィンであった。


「ケヴィンさん……」

「軍隊の型に嵌った作戦思想の俺などでは思いつかないやり方だった、見事だぞ。……だがこれで終わりではない」

「ああ、クラブダイルがまだ残っていますね。さて、どうしたものか……」


 俺とケヴィンがこの後の対応に思考を巡らそうとしていた、その時である!


「た、大変だ! ク、クラブダイルが来たぞ!」


 沸き立つ歓声を怒号が切り裂き、俺たちの耳に否応無く届いた。


「クソ、やはり来てしまったか!」

「あっちの方だ、行ってみよう!」


 俺たちは指揮所の建物から駆け下り、残されたもう一つの災厄の方へと走っていった。


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