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 声の方向に目を向けてみると、キャサリンが海の家的なバーの屋根に仁王立ちしていた。その手には、小型のチェーンソーが!


「小ぶりだけどチェーンソーはチェーンソー。これを車に用意しておくとは、この武装集団が何者なのか知らないけど、武器選びのセンスは称賛に価するわね」


 いや、銃よりチェーンソーの方が戦えるのなんて君くらいだと思うよキャサリン。きっとそれは障害物除去用とかでは。


「やぁぁぁあああああッ‼」


 しかし自分の手に合った武器を手に入れてご満悦のキャサリンは、豪快に屋根からジャンプすると、そのまま空中から振り下ろしたチェーンソーを思いっきり怪物の胴体に切り込ませた。


 怪物、初めて目に見えて出血する。


しかしそれが致命傷になるようならばこんなには苦労しない。初めて傷つけられた苦しみと怒りに駆られた怪物はハサミを狂ったように振り回し、キャサリンも流石にその状態で冷静に敵の急所を見つけて突くようなことは困難だと判断したようで、怪物の甲羅を蹴ってバック転しながら距離を離し、俺たちの方に戻ってきた。


怪物は苦しみながら海の方へと引き返していく。


「ちっ、仕留め損なったわね。やっぱりこのチェーンソーじゃ力不足か。でも今なら背後からもう一回――」


 不敵な表情で舌なめずりしながら体勢を立て直したキャサリンが再びチェーンソーを構えて怪物の背中に向けて突撃しようとした、その時だった。


 何かの咆哮――いや、これは本当に生物の声なのだろうか。まるで金属が擦り合う嫌な摩擦音を合成して鳴き声として無理矢理成立させたような、無機質で、しかし単なる「音」として片付ける訳にもいかないような聞きなれない轟音がビーチに響き渡った。


「な、何なんだ、この音は⁉」


 脳を揺さぶるような轟音のする方へ顔を向ける。そこにあったのは繁みであった。繁みの中で何かが蠢いている。


「お、おいおい! あいつはぁ一体何なんだ⁉」


 繁みから姿を現したのは一匹の巨大な大蛇――といって良いのだろうか。


 その長大で四肢の痕跡も無い体躯はまさに大蛇のそれなのだが、その身体を彩る光沢は、生々しい鱗のそれとはまるで違った。白銀なのだ、白銀に輝いているのである。そして白銀に輝くその身体の節々には生物では考えられない「つなぎ目」のようなものが見受けられ、ところどころには赤い光を放つランプのようなものまでついている。


 顔もまた異質で、目は白目も黒目も無くただ全体が赤く発光し、顎も何やらパーツの組み合わせによる仕掛けのようなもので開閉するようになっており、おおよそ自然界から生まれたものの姿とは思えない。


 まるで全身を鋼で覆った機械仕掛けだ。


 鋼鉄の大蛇、たまたま近くの繁みに隠れていたジョックを丸飲みにするや、カニとワニの合成怪物の存在に気付くと、再び金属音の咆哮を轟かせながら、彼の怪物に向かって巨体に似合わぬ速度で蛇行して接近する。


 海に入る直前で背後からの殺気に気がついた怪物はカニのハサミを閃かせて鋼鉄の大蛇を攻撃するが、たたでさえしなやかな蛇の体躯が摩擦の少ない金属のそれに変わっているのだ、ハサミは上手く食い込まずに滑ってしまう。


 すると次は反撃だと言わんばかりに鋼鉄の大蛇が怪物の首筋に嚙みついた。怪物はハサミを大蛇に何度も叩き付けて力づくで引き離そうとする。


「く、くそ……クラブダイルの捕獲に失敗したばかりか、X-20の介入まで許してしまったとは……!」


 レベッカに介抱されていた兵士が、まだ痛むであろう身体に鞭打って上半身を起こしながら二匹の怪物の異様な格闘に無念そうな視線を向ける。


「クラブダイル? なるほど、それが奴の名前か。……兵士さん、残念だがあなたの部下は皆あいつにやられてしまった、今から奴らを止めるのは困難です。これ以上の犠牲を出さないためにも奴らについて、知っていることを教えて欲しいのですが」

「か……は……! 君たちは?」

「通りすがりの学生ですが、サメとかとの戦いの経験はあります。とりあえず、安全なところに一緒に行きましょう」


 クラブダイルというらしい怪物と鋼鉄の大蛇の一進一退の戦いを背に、俺たちは兵士に肩を貸して車を目指す。


「俺たちのセダンではあなたを介抱しながら移動するには狭いし、バン借りますよ」


 幸いにしてエンジンがかかったままだった武装集団が乗っってきたバンの後部座席に兵士を寝かせ、発進させる。


 丁度俺たちが海岸とは逆方向にハンドルを切って市街地に離脱しようとした時、怪物の戦いも一区切りがついたようで、身体の数か所に致命傷でこそないものの少なくとも銃撃によるそれよりはよっぽど深刻な傷を負ったクラブダイルが、文字通り尻尾を巻いて海に逃げ帰っていた。


 大蛇は勝利の雄たけびのつもりか三度例の金属音の咆哮を響かせると、再びその巨体を地面に横たわらせ、そしていずこかへと蛇行していく


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