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マイ・スイートホーム

作者: 黒斬行弘

 「ただいま」 私はそう言いながら、玄関のドアを開けた。


 「おかえりなさい、あなた」


 台所の方からだろう。彼女の声が聞こえてきた。それと同時に、美味しそうな夕飯の香りが漂ってくる。 どうやら、今晩はカレーらしい。


 「お風呂に入る?それとも食事がいいかな?」


 「うーん、風呂に入るかな~」



 しばらく悩んだ末私はそう答えた。


 「ちょうど良かった!さっき沸いたばかりなのっ♪」


 その声を聞き、私は脱衣所へと向かう。



 汗臭い下着を脱ぎ浴槽を覗くと、心地よい湯気がたち登っている。 彼女の仕事はいつも完璧だ。 いつも私がして欲しいと思う事をしてくれる。


 恐らく風呂から出たら、一杯のビールと、つまみが用意されている事だろう。 浴槽につかりながらそんな事を考えていると、 彼女が洗濯にやってくる。


 そして私と彼女は、風呂場のドア越しに会話を楽しんだ。今日見てたTVの話しや二人が好きなドラマやスポーツなど、何気ない会話が心地良い。


 私が食事をする時間、彼女は同じテーブルについて二人で会話したりTVを見ながら笑い合ったりと、一日で一番リラックス出来る瞬間だ。たまには会社の愚痴も出てしまうが、それでも彼女は黙って相槌を打ってくれる。


 今のような気持ちを「幸せ」とでも表現するのだろうか? 私は充実感に満たされて行くのを感じていた。


 そして後片付けがあると言う彼女におやすみの挨拶をし、 私は眠りにつく・・。


 「おやすみ。いい夢を・・・・」


翌日、いつものようにVRグラスを装着すると、一通のメールが届いていた。


「弊社オリジナルソフト「スイートホーム」体験版をご利用いただきまことにありがとうございます。本日正午を持ちまして、お試し版「スイートホーム」の利用期間が終了いたします。



 製品版へのアップグレードをして頂ける場合は、このメールに付属の12桁のキー番号かQRコードを読み込んで頂くだけで、引き続き「スイートホーム」をお楽しみ頂けます。


 尚、製品版へのアップグレードをされない場合、自動的にソフトウェアは削除されます。



 今後とも弊社ソフト「スイートホーム」をよろしくお願いいたします。」


あー、もうそんな期間が経っていたのかぁ。 楽しい時というものは時間がたつのが早い。私は時計を確認しつつ、記載されたQRコードを読み込んだ。



 もちろん「スイートホーム」製品版へのアップグレードは決めていた。



 西暦2050年 日本では、結婚していない男性を筆頭に、擬似結婚生活システム


「SweetHome」が流行していた。


 各家庭に設置が義務付けられている端末コンピュータにこのシステムを組み込むと、炊事、洗濯、掃除はおろか、なんと会話さえもこなしてくれるのだ。


 本来は、高齢化社会に向けた自動家事制御システムとして売り出されたのだが、大手ゲーム会社により、独身男性向けのVR一体型の擬似結婚体験システムとして発売され、現在では女性用も販売されるまでに人気のコンテンツとなっている。



 しかも購入者の好みによって様々な女性、または男性タイプ、例えば、年齢なら20代~60代、好みの声優、甘え上手、ツンデレなど、ありとあらゆるニーズに対応している。


 そしてこのコンテンツは、海外のニュースでも取り上げられる程の社会現象にまで発展した。発表当初は、このシステムの登場によって結婚しない男女が大幅に増加するのでは?

との懸念も浮かび上がったが、その心配はなかった。


 何故なら、



 「VRグラスを外すと、彼女(又は彼)の姿が見えなくなってしまう」


 という、ごく当たり前すぎる欠点だけは、どうやっても修正できなかったからである。

お読み頂きありがとうございました!

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