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朝(5) ベルフェゴールのゆうわく!

 ゴトーショップの店じまいを手伝い、ゴトーとバーニー&クリスをバスに乗せる。

 次の行き先は、ガロードの住んでいる元刑務所。


「たのもう!」


 刑務所特有の頑丈なゲートを叩きながら、大声を出してみた。

 反応はない。


「コラ、ガロード! ギース! ルルシー! 借りた金、返せよ! トンズラは人間のクズだぞ」


 適当なことを言いつつのヤクザキックをかまし、ゲートを盛大に揺らしてみる。その際、足を大きく開いたこともあり、スカートがブワサッと拡がった。パンツが見えたかもしれない。

 今日は自分が女の子だったというのを、完全に忘れていた。


「え?」


 間の悪いことに、フワフワのスカートが下がりきったときにはゲートの隣の勝手口が開いていて、そこから出てきたギースと視線が合った。


「イヤー、エッチー!!」


 つい、気分は女の子! とばかりに鋭い強パンチが打てて、ギースにクリーンヒットした。

 出会い頭、地面に沈むギースをよそに、つい、背中を見せてポーズを決めてみた。

 何だか、『滅!』ってな感じ。ウン、ばりカッコイイ!


「今のパンチ、ギースだったら避けられただろ?」

「わかってませんねぇ、女の子のパンチはキザな男だったらあえて受けるものなんですよぅ」

「フニャア?」

「わふー?」

「深い世界じゃわぃ」


 という面々がいる一方で……


「おい、ギース! しっかりしろ」

「異世界の人たちってスゴいじゃん。あのギースに不意打ちとはいえ気絶させたよ」

「クリス、感心してないで気付け薬を」


 というリアクション。

 どうやら不意打ちとはいえ、本人の予想以上に良いのをもらったようで、ギースはのびていた。

 ここで介抱しても別に良いが、ここはエメラルド・シティ。

 日中でも安全とは言えない場所柄なので、勝手だが刑務所内に入ることにした。

 なぁに、ギースと面識のあるゴトーたちがいるので、不法侵入には当たるまい。


「お邪魔しまーす」

「これって、ひどい訪問方法ですよね」

「でも、珍しく死人が出てないじゃん。隊長にしてはスマートなやり方だぜ」

「そうかしら?」

「隊長なりにオマエを気遣ったんじゃないのか。だから許してやれよ」

「イサカさん、入りましょう」

「へぇー。刑務所内に立派なお墓があるんだな。ボクなりの人生観だけど、死者に対しての礼節をわきまえるヤツに悪い人はいないぜ。……おや、タギリロンで見かけた名前が」

「あら、本当ですね。ジョーガンさんとバリンボーさんの名前があります」

「コクコクコク」

「思わぬところで出自を知ったみたいな……ッスね」


 何か新発見! みたいな驚きに包まれているところ悪いんだが、愚兄弟の出自は保安官スカウトの時点で書類に記載されていたぞ。まぁ、興味ないんだろうけどな。


「…………」


 とまぁ、かしましいパートナーズに誘引されたのか、いつの間にか、ガロードがそこにいた。


「やぁ、ガロード」

「また、戦うのか」

「イヤイヤイヤ、勘弁してよ。今日はガロードとルルシーを海に連れて行くためのお誘いなの」

「断る」

「そう言うだろうと思ったわ。そして、お前さんに海の素晴らしさを説くのも難しいでしょうね。だったら、ひとつ、賭けをしてみないかしら」

「断る」

「賭けの内容は、お前さん以上に引きこもりのルルシーを私が誘い出せたら、海に行く。出来なかったら、大人しくあきらめる。どうかしら」


(今更じゃが、フェゴールはわりと図太い性格をしておるのぅ)

(そりゃあ、ああいう性格だからオレたちの死体を勝手に蘇生して、人格を(いじ)って、パートナーズを結成してるわけで)

(ああそうか、シグ、ベレッタ、ウィン、ライカはそうじゃったのぅ)

(モナ師匠とイサカ、元上司のベネリは自分の意思で決めたんだったな)

(そうじゃ。ワシとイサカは愛人と恋人というポジションを手に入れ、ベネリは隷属したんじゃったのぅ)

(死んで人格変えられるぐらいなら、奴隷になってでも生き延びてやるぜ!)

(本音は?)

(大人しく肉奴隷やっててからの下剋上狙ってました、てへぺろ)

(あっけなく見透かされて、軍隊入れられたよな)

(やめて、黒歴史やめて)

(ダークエルフだけに?)

(肌の色は関係ないだろうが!)


 むぅ。内緒話のつもりだったのだろうが、後半、声が大きくなっていた。

 コホンッ、と咳払いをして注意を促しておく。

 ふと、ガロードと目が合った。

 一部始終を聞かれていたようで、怪訝な顔つきをされた。


「とりあえず、勝負よ! ガロード・アリティー」

「……いいだろう」


 ガロードが空気を読む子で良かった。お姉さん、ヨシヨシしてあげたい気分だわ。



 □■□■



「それで、フェゴールよ、どうやってルルシーを外に出すんじゃ」

「引きこもりを表に出すと云えば、高天原たかまがはら方式が実績抜群よ!」

「あー、アレだろ。ストリップのおねーさんの色気で興味を引くという」

「シグちゃん、ネタバレ早いですよぅ」

「ならば、誰が裸になるんじゃ?」


 パートナーズ一同がイヤな顔をする。

 安心しろ。もとから私が一肌脱ぐ気、マンマンですから。


「ダメです!」


 いざ脱がん! とばかりに衣服に指を引っかけていた自分に対し、イサカの制止が入った。


「フェゴール様、脱ぐ気満々でしたね」


 返事をせず、頷くだけにとどめておいた。


「フェゴール様は大きな勘違いをされています。あの状況と今回では同じ結果が得られるわけがないのですよ」


 イサカの言わんとしていることが分からず、自分は小首をかしげた。


「アメノウズメさんのときは周りに高天原のいろんな人々がいました。だから、ウズメさんの裸の虜になった方々がワッとはやし立て、それがアマテラスさんの興味を引いたのです」


 そうだね。


「ところが今回はどうですか。周りは私たち身内のほうがゴトーさんたちより多いです。しかも、ゴトーさんやガロードさん、バーニーさんは正直なところ、女の人の裸を直視できないタイプだと思います。そして、私たちはフェゴール様の身体を見慣れています。はやし立てるのは難しいのです」


 あ。

 そうだな。そこは考えていなかったな。

 ガロードは朴念仁だし、バーニーはクリスにぞっこん。自分の裸にうつつを抜かしていたらショットガンの発砲も有り得るな。ゴトーはエロオヤジっぽいけど、一人ではやし立てる勇気は無いか。あれは、お酒の力やら周囲の同調圧力みたいなものも必要だ。

 しょうがないなー。

 悔しいけれど、高天原方式は諦めよう。

 でもまぁ、これなら大丈夫だろう。


 というわけで、自分はガロードに接近した。

 朴念仁ではあるが、ウブなガロードは女の姿をした自分に有効な対処法を見出せず、接近を許す。

 自分はチャンスとばかりに顔を近づけさせ、試しにガロードの耳たぶを甘噛みしてみた。

 案の定、身体をこわばらせ、その顔つきは脂汗もそのままなほどに動揺している。

 視線と視線が合い、魅了チャームの魔法をかけようとしたその時、刑務所2階の窓ガラスが割れた。

 人影を伴った物体が勢いよく飛び出してきて、一直線にこちらに向かってきた。

 揺れる柳の葉っぱのような所作で、相手の長く伸びた爪が自分の顔を切り刻もうとするも、自分はガロードから未練なく離れることによって、これを防いだ。


「ガガガガロードを奪おうとする者は、おおおお恩人であってもゆゆゆゆ許さないのです」


 緊張で震える声をそのままに、現れた少女はギラリとした殺意をこちらに遠慮なくぶつけてきた。

 あれー?

 このパターン、昨日、タギリロンでも同じ経験をしたような。

 そう思っていたら、次の瞬間、ルルシーは伸びた爪をそのままに飛びかかってきた。

 爪の横薙ぎ+縦薙ぎ、連続パンチからの身体を霧状に溶かし、背後から爪をドリルのように錐揉みさせての伸ばし攻撃を息継ぎをさせぬ勢いで一気にまくし立てた。

 昨日とは違い、今日のルルシーは、自分の血を身体に受け入れたことにより身体能力が格段に向上しており、危なかった。


「オッパイの分の盛り上がりを忘れていたら、怪我をするところだったわ」


 爪の風圧でボロボロになった服をそのままにルルシーに向き合いながらそう答えてみた。

 ちょっとばかり、オッパイが揺れた。

 それを見ていたルルシーの頭頂部に『ブチッ』と怒りマークが切れたような音がした。


「巨乳なんて死ぬのです! 覚悟するのです!!」

「良いこと言った。ルルシー、応援しているぞー」

「フェゴールなんか、ぶっ殺すのニャー!!」


 おいおい、シグちゃんにラム、そこは同意するんじゃなくて応援してくれよ。

 モナ師匠のあの精神的余裕とか見習ってほしいもんだ。

 まぁ、モナは変身すれば自分以上のバインバインだしなぁ。

 とまぁ、動きのやたらと素早いアリクイみたいなルルシーを、他のパートナーズと相手するときと同じようにスタミナが枯渇するまで対応して、動きの鈍くなった瞬間を背負い投げで一本、鮮やかに決めてみる。


「よぅ、ルルシー」


 スタミナ切れで息も絶え絶えな少女に微笑んでみた。


「久しぶりの太陽はどんな気分?」

「暖かくて、眩しいのです。……でも、とっても良い気分なのです」


 と少女らしい屈託のない笑顔を向けてくれた。


「それにしても、どうして今日は女の姿のですか?」


 いいんだよ、細けぇことは!

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