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朝(2) アンキモさんはヒャッハーたちに対して、お怒りのようです。

 まずはゴトーショップへと向かう。

 途中、「ヒャッハー」な連中が派手なバイクや四輪駆動を走らせて登場した。

 皆、空いた手に火炎瓶や銃火器を持っているのはお約束。

 窓際にいたうちのパートナーズが揃って珍妙なモノでも見るかのように覗きこんでいたら、どうもこれがよくなかったようだ。

 連中にはちっさいのから、どストライクな美人がバスの中にいたのだから興奮しないわけがない。

 早速、ユーモアのあるやつが自分の唾で頭髪を整え、しなびた花束を携えてバスの窓に近づいた。そして、コンコンコンと窓を叩きつつ、彼らなりのチャーミングな眼差しを添えて挨拶をしに来た。

 よりによって、何故か自分がファーストコンタクト。やだわ、ちっとも嬉しくない。

 とりあえず様式美に則り、窓を開けてやる。


「やぁやぁ、麗しきお嬢さん。よろしかったら僕とうわぁっぁ!」


 まぁ、最後まで付き合う道理もないので、向こうの花束に対し、こちらはショットガンでお見舞いしておく。花束男の頭がパーンとキレイに飛び散り、それに驚いた四輪駆動の相方が運転を誤り、道路脇に逸れて、お約束の『ドッカーン!』


「野郎、舐めやがって。おい、野郎共、バスをボコボコにして姉ちゃんたちをパコパコにしてやろうぜ」

「「「オオウ!!!」」」

「アンキモ、蛇行運転だ」

「アイアイサー」


 ヒャッハー連中がヤル気になったのを見計らい、アンキモがバスで体当たりを仕掛ける。

 バイクはさすがに当たってはくれないが、四輪駆動は幾つかがバスに接触して当たり負けて、ガードレールにぶつかり、下手すればガードレールを突き破って、路肩を飛び出し、廃屋のような民家に突撃したり、電柱にぶつかったりしていた。そして、もれなく『ドッカーン!』の効果音。

 おいおいおい、民家に火がついたぞ。


「サーチ結果ですが、どうやらこの辺の住宅街はほとんど廃屋ですね」


 聡子先生がいつの間にか周辺検索をかけており、ノートパソコンを閉じながら、片手で眼鏡のズレを矯正しながらそう答えてきた。何か、カッコイイ。

 さて、周囲に生命反応がないのなら、榴弾りゅうだんでもバラくかなぁ……と考えていたら、アンキモから提案があった。


「旦那ぁ、たまにはあっしも気分転換して良いですかい?」


 普段、特に文句も言わず黙々と作業に打ち込む機械人形(オートマタ)であるが、珍しく憂さ晴らしをしたいかのような発言である。

 こういうときは、好きなようにやらせてやるのが最上である。


「じゃ、旦那ぁ、運転よろしく」


 とハンドルから離れたので、運転を代わる。

 アンキモは身体全体を伸ばすような動作をしたあと、初日に自分が奥の部屋で様々な重火器を装備しにいったのと同じ行動をとるや、そのままサンルーフからバスの屋上へと飛び出した。

 その後の光景は聡子先生のドローン情報から。


 まず、アンキモが武器として選択したのはミニガンだった。

 実に機械的な所作で移動しながらミニガンをぶっぱなす。

 機械ゆえの正確さは折り紙つきなので、うっとうしいバイク乗りたちが次々と身体中を穴だらけにされながら脱落していった。

 この様子にモンスタートラックに乗っているヒャッハーのボスが連絡を入れ、ミニガンにはミニガンとばかりに荷台付きの車が複数登場した。

 アンキモは車の台数をチェックするような行動のあと、ミニガン掃射をやめ、次の動作に入った。

 アンキモの両肩がシステマチックな動きをしたかと思うと、片方の肩につき6連装のロケットランチャーが火をふき、飛んでいった。ミニガンの射程外からロックオンしていったそれらが外れるわけもなく、豪快な音をたてて着弾していく。


「ぬおおっ!」


 あっけない幕切れにボスの顔つきからそんな様子が見てとれた。


「わっふー!!」

「ニャニャーン」


 ステアーとラムが気持ちいいまでの爆発にノリノリだ。


「隊長、次は何が来ると思うか賭けてみないか?」


 おいおい、運転中の相手にナニ物騒なイベントを呼ぼうとしてるんだよ。


「そうだなぁ。大型トラックで挟み撃ちに一万ギルダン」

「おっ、堅実な発想だねぇ。勝ちに来てるじゃないか、隊長」


 まぁ、このバスの性能なら大抵の物理攻撃は耐えるので、安全牌をチョイス。ちなみに脳裏にチラリと浮かんだものの実行されちゃ困るのが、核弾頭を抱えての特攻。昨日の悪魔じゃあるまいし、人間にそんな度胸はないだろうから、実行率は低いだろう。しかし、物事にはフラグというのがある。

 言わぬが吉である。


「で、他のメンバーはどんなアイディアを?」

「んー、そうだな。飛行機から戦車を落としての特攻。腹にダイナマイトを巻いた人間たちがパラシュート落下でバスにとりつこうとする。ヘリを飛ばしての機銃掃射&ロケラン発射。戦闘機での……まぁ、みんな上空からナニか飛ばしてくるんじゃないか、という発想だな」

「何か、までは絞りきれんか」

「選択肢がいっぱいあるからね。難しいよ」


 なるほど、それももっともだ。だが、カツトシの襲撃と違い、今回の相手はヒャッハーだ。カツトシは皇太子だったから軍が動いたが、ヒャッハーは大陸からのボンボンが金にモノを言わせての私設軍団だろうから、軍関係の行動はないだろう。このヒャッハーがエメラルド・シティ側だったら異能と人外、強化人間の構成で襲撃してくるだろう。そうなると、言葉は悪いがオートマタのアンキモではデータの埒外の予想の立てにくい行動しかしてこない彼らの相手は荷が重い。


「ああ、みんな外れッス。今度は敵さん、人外を呼び出してきましたよ」


 どれどれ、とドローンで確認すると、確かにヘリコプターが運んできたコンテナからドサリとゴリラの身体にハエの裸眼、トンボの羽というキワモノがバスの屋上に着地したかと思いきや、アンキモに飛びかかってきた。

 アンキモは器用にゴリラの突進を避けると愛用のスタンロッドを握りしめるや、撫でるようにロッドを当てた。

 ロッドから放たれる大量の電気がゴリラの肌を焼いた。だが、ゴリラの身体を麻痺させるには至らなかった。これは多分、ハエの裸眼が急所狙いを的確に見抜いて致命傷を避けたのだろう。

 アンキモがミニガンを作動させる。だが、ミニガンは発射までに多少銃口を回す必要がある。

 そのわずかな時間をゴリラが見逃すわけもなく、突進してきた。

 アンキモがバックステップで距離をとりつつ、ミニガン発射を待つ。

 ゴリラの両腕がアンキモに殴りかかるのとミニガンの発射が開始するのが同時だった。

 ミニガンの弾幕がゴリラに突き刺さる。人間と違い、ゴリラで人外であるため、想定よりも皮膚が厚かったようで、弾は肉を抉ったが、ゴリラは胸の肉と腹の肉でミニガンの銃身を器用に挟むと射撃不能に持ち込ませた。

 アンキモはミニガンに未練はなく、さっさと手放した。少しばかり遅れてゴリラの豪腕がアンキモが立っていた位置に突き刺さる。

 大概の物理攻撃は耐えられるバスだが、このゴリラの腕力は屋上をややへこませた。

 さすがは人外と言ったところだろうか。

 オートマタに顔色はないが、ゴリラは勝ちを確信したかのようにニヤリと口許を緩ませた。

 アンキモは震えた。

 オートマタに感情はない。なので、恐怖ではない。だが、ゴリラは違う。

 そう受け取ってしまった。だから、機械人形の行動に思わず腹を抱えて笑ってしまった。

 アンキモの目が光った。いや、元は衝撃耐性テストに使う人形なので顔のかたちはあってもマネキンのような顔を作った覚えはない。だが、目の部分が光った。

 と同時にオレンジ色の光が左から右へと移動した。アスファルトにオレンジ色の線が描かれた。

 遅れて、未曾有の大爆発が起こった。

 ゴリラは驚きの表情のまま、顔を半分に分断させられた。そして、顔を中心に爆発四散した。

 モンスタートラックに乗ったヒャッハーボスはオレンジの線を跨いだ瞬間に爆発に巻き込まれた。


 アンキモにまさかの巨○兵みたいな隠し兵器があるとは思わなかった自分は唖然とした。いや、パートナーズも同じ気持ちだった。


「いやぁ、旦那ぁ、久しぶりに暴れることができてスッキリしやした。ありがとうございます」


 必殺技の余波なのか身体全体に蒸気を撒き散らしつつも、アンキモは(表情はないにも関わらず)どことなくスッキリした顔つきになっていた。


「お、おう。それは良かったな。ところで、アンキモ、君も離島についたらバカンスを楽しみなさい」

「え、良いんですかい!」

「うむ。オートマタとはいえ、たまには休みも必要だ。あ、そうだ。ライカ、オートマタ専用の特別ビールの発注を頼む。(アノヨ)phoneでシェラにそう言えば特別便で発送してくれるから」

「オーケイ!」

「旦那ぁ、あっしは旦那みたいなオートマタにも気遣いができる主人に仕えられて光栄でさぁ」


 アンキモはお相撲さんが懸賞金を受けとるような動作で、自分に対し、喜びを表現した。


(何かの拍子で反乱でも起こされたらたまらんからな。これぐらいなら安い)


 決して口には出さないが、今回の件はいい教訓になった。

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