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深夜未明(2) 立てッ、悪魔よ。あの都市を我が物にせよッ!

「ヒホホー!」


 夜の闇に紛れて、複数の物体が小高い丘の上からエメラルド・シティを見下ろしていた。


「諸君、私の呼び掛けに応じてくれて嬉しいホー。

 今晩は、かねがねの計画にあった『エメラルド・シティ乗っとり作戦』を実行に移す日が来たホー」


 複数の物体のなか、中央の軍服にチョビ髭の雪だるま(フロスト)がオーバーアクションで配下の雪だるまたちに呼び掛けていた。

 呼び掛けられた大勢の部下たちが、軍服に向かって敬礼を行う。


「「「「「ハイル・ヒホホー!」」」」」


 ちょび髭は満足そうに頷くと、彼の両脇を固める、じゃあくな顔つきをしたフロストと五人一組の色とりどりのフロストと視線の挨拶を行う。


「暴れるんだったら、いい人選をしたホー。そういうの得意ホー」

「あの都市に住まう穢れたモノたちを払う大役、心得た!」

「そうだ、正義は我らにありホー」

「精一杯、頑張らせてもらいますわホー」

「フフン、今宵、ボクの智略がますます冴えるというわけかホー」

「そんなことより、お腹が空いたホー」


 特に五人一組のカラフルなフロストの方はチョビ髭のフロストに対して、積極的だった。まぁ、黄色のフロストは平常運転だったが。

 ヒホホフロストはこれに対して、更なる自信を生んだ。


 なぜなら、彼自身はつい最近、この世に現れた新参者のフロストである。

 何故か生まれ変わったような記憶があり、そして嬉しいことに膨大な魔力を有していた。

 彼は早速その魔力を用い、その辺で雪合戦に戯れていた多数のフロストを従え、ついでに自分だけは違うという自己主張のために服装を軍服にへと改めた。ちなみにちょび髭は元からついていた。

 その日の内に『ヒホホ党』を結成し、フロスト界の頂点に立てた喜びに酔いしれるも、部下からの進言で更なる上位の存在を知り、その力を我が物にしようと画策した。

 部下たちの情報により、居場所が判明次第、早速向かった。

 じゃあくなフロストは、とある場所でお山の大将をやっていた。

 声をかけるも、「俺を倒せたら、考えてやるホー」と脳筋な回答が来たので、魔力で黙らせた。

 一方のヒーローなフロストたちは生活に困窮していた。

 更なる情報収集を行うと、初登場以来、何の音沙汰もないという知名度の低下により、以前は掃き捨てるように存在した仕事もなく、内職や深夜のアルバイトで今まで糊口(ここう)を凌いでいたことが判明した。

 その涙ぐましさとそれでもなお崩壊しなかったチームの結束に価値を見出だした彼は、接触を果たしたのち、フロスト界の未来を憂える説得のあと、給料を出来高に応じて支払う約束をした。

 出来高なので、想定している戦力にならなかったら貰えるかどうかも怪しいというのに、貧困がヒーローなフロストたちのまともな判断を奪わせていた。

 こういう時、政府側の援助の無い正義サイドの面々は大変なのである。

 かくして彼は、難なく飛車と角を手に入れた。

 配下のフロストたちの数は、なんと5000にもなる。

 ヒホホ党党首のハンドサインのもと、闇夜にうごめく一大大行進が始まった。


 行進がスタートして百メートルほど進んだところだろうか。

 彼らの行軍の頭上から、突然、空間の穴が開き、奥の方からミサイルが落下してきた。

 ミサイルはヒホホ党党首以外の彼らにとって未知の物体だった。

 そのまま落ちてくるのを目で追って、爆発に巻き込まれ、蒸発した。

 突然の出来事に、ヒホホ党党首は唖然とした。

 その一瞬の隙をついて、じゃあくなフロストは彼の魔力支配を振りきり、どこかへと逃げていった。

 給料という縛りのついたヒーローなフロストたちは、雇い主の安全を守るため、天敵である熱源からヒホホ党党首を御輿のようにして担ぐとその場から遠ざかるように離れた。

 ヒホホ党党首の意識が、そのおかげで徐々に戻っていった。


「ざっくんなホー!!」


 その後も罵声やなんやかんやを喚いていたそうであるが、割愛させて戴く。

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