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夜(9) 愛は生きているか! 後編

≫ラム(猫獣人)視点


 あたちたちがメリーの背中にのって飛び立ったとき、地上が大きく揺れたのニャ。

 犬コロが「わふー」と言いながら、その場所を指し示すから見てやったら、土の中からいっぱいの死体が湧いてきて、それをベネリが大きな人形にしているところだったのニャ。


「うへぇ、相変わらず容赦ないなー」


 メリーが高く飛んだのもあって、地面がちっこくなってよく見えニャいけれど、イサカやライカたちがドッカンドッカンと派手に暴れているのはよく分かったのニャ。


「あ、結界がもうすぐ完全に塞がりそうですぅ」


 ベレッタの指摘に視線を移すと、結界の穴がだんだん小さくなっていたのニャ。それは、すでにメリーの大きな身体では入りきれないほどだったのニャ。


「俺たちなら、飛び下りればどうにかならないか?」

「龍さん、馬鹿言っちゃいけないよ。飛び降りたらどうやって着地するんだい」

「そりゃあ、多助、地面にうまく降りればどうにかなるだろうよ」

「以蔵、この男の頭は大丈夫か。仮に地面に着地できたとしても虫の息。下手をすればまた黄泉の国へと蜻蛉とんぼ返りだぞ」

「栗栖さん、あいつは元島帰りの龍ですからね、真面目に考えるだけ損ですよ」

「聞こえているぞ、以蔵」


 フニャー。馬鹿とインテリが揃ってバカ話に花を咲かせているのニャ。

 そんなヒマはないのニャ。


「メリー、ドラゴンブレスをお見舞いするのニャ!」


 メリーがあたちの声かけに応じるかのように鎌首をもたげると、口元から一斉にブレスを吐き出したのニャ。

 ビチャビチャビチャ……と、緑色の液体をまるでゲロを吐き出すようだったのニャ。

 バッチイのニャ。


「ちなみに、これ、酸のブレスな」


 せめて、火のブレスみたいにボボボーッ! と派手にやってもらいたかったのニャ。

 まぁ、いいのニャ。

 見た目はともかく、完成間近だった結界のてっぺんがメリーの強酸ブレスでみるみるうちに溶けていったのニャ。結果オーライなのニャ。


「グゥオオオン」


 メリーが大きく鳴いたのニャ。


「おい、今から急降下するから背中をしっかり掴めだとよ」


 メリーの言葉を読み取ったシグがそうあたちらに伝えてきた。

 慣れているあたちらがシンザンモノのアイツ等を見たら、意味がわかっていたインテリとめくらをよそに、バカがぼんやりしたのニャ。


「今から落っこちるから背中をつかむのニャ。早くするのニャ」


 バカだから、急降下の意味がわかんなかったらしく、『落ちる』と言い換えてやったら、慌ててつかみかかったのニャ。

 ただ、メリーの背中のどこをつかんだのかは知らニャいが、メリーがスゴく怒りはじめて、キリモミするように落下していったのニャ。

 目が回るのニャ。

 んんニャ。気持ち悪いのニャ。



 ◇◆◇◆



≫視点変更:多助たすけ


 龍の背中が荒ぶっています。これはいけない。

 先程、南蛮のお嬢ちゃんが落っこちることを予告していましたが、それにしてもこんなに左右に強く揺れながら落ちるってことはないはずです。

 以蔵さんやお仲間の栗栖さんは龍の背中に振り落とされまいと必死ですから、生前の修羅場潜りで多少の余裕のあるあっしと連れのお松と共にその原因を見回せる範囲内で探ることにしました。


「あんた。ひょっとするとアレかもしれないよ」


 猟師をやっていて目のいいお松が龍さんを指差します。

 言われて、あっしは龍さんの掴んでいる鱗に注目しました。

 予想通り、ちょっとばっかり落下してあっしらと距離が開いている龍さんは咄嗟に掴みやすい鱗を握ったようです。

 ええ、それがあの逆鱗だと知らずに。


「龍さん、アンタ、こんな状況で逆鱗に触れますか」

「ああん? 何だって」


 しかも……というより、予想通り、龍さんは逆鱗という言葉を知りません。

 状況が状況ですから、逆鱗というのを軽く説明しますとね、弱点でさぁ。

 おっと、異論は承知ですぜ。


「アンタ、さっきからどこを見て歌舞いてんのさ」

「…………」


 お松の冷静なツッコミが入りました。

 急に頭が冴えてきました。

 いやねぇ、年甲斐もなく神の視点に注目されて舞い上がっちまったようです。

 おっと、この距離なら飛び降りても両足の骨折だけで無事かもしれない。


「龍さん、飛び降りましょう」

「多助、以蔵も言ってただろうが。また黄泉送りされるぞ」

「いや、もう地面が見えるところまで落ちてきましたよ。これだったら最悪両足の骨折だけで済むし、折角黄泉帰りしたんですから、ここは仕掛屋らしく派手に一丁咬ましましょうや」

「おっ、いいねぇ。島帰り改め黄泉帰りの龍、見参ってな!」


 と説明するよりも龍さんをヨイショしたら上手いこと逆鱗から手を離し、うちらの大将の命を狙うべく怪しげな術を呟いている輩の元へと落下していきました。


「お松」


 あっしの呼び掛けに女房が頷くと日頃から持ち歩いている狩猟縄で自身を龍の背中の上で固定すべく、動き始めました。

 さぁて。

 あっしも、龍さんのあとに続いて、一丁殺りますか!



 ◇◆◇◆



≫ラム視点


 あたち等が必死に暴れるメリーの背中で頑張っていると、馬鹿が背中から飛び降りたのニャ。

 アレはどう見ても自分から飛び降りたのニャ。


「わふー!」


 犬コロが声をあげるのでそちらの方を見ると、今度は坊主頭も飛び降りたのニャ。

 あのバカと違って少しは頭が良さそうだった風に見えたけれど、大バカだったみたいにゃ。


「わふー♪」


 とこちらの気も知らずに今度はうちのバカワンコが刺激されたのか、飛び降りていったのニャ。

 バカと大バカが飛び降りた頃からメリーの背中が安定したのもあって、バカワンコを目で追いかけているとき気づいたのだけど、アレぐらいの高さならあたちとバカワンコニャら難なく着地できそうなところまで降りてきていたのニャ。

 だから、あたちも飛び降りたのニャ。



 地面の方では、青白い身体にコウモリの翼を生やした大男が両手を突き出して、何やらぶつくさ呟いていたのニャ。

 両手の中には眩しい光が集まっていて、どうやら力をためているように見えたのニャ。

 当然、溜めたら吐き出すだろうから、その出てくるだろう方向を確認するとフェゴールがいたのニャ。

 背後に薄い膜のようなものがあって、その中にモナと知らないおっさんがいたのニャ。

 アレがきっとフェゴールがボロボロになってでも守らなくちゃならない人なんだとあたちは理解したのニャ。

 そして、大男が溜めている力は放出までの準備期間に入ったのニャ。

 ニャんでそれがわかったかというと、ベッドの上のフェゴールが出すもの出すときにちょっとだけ身動きを止めるかのような動作とそっくりだったのニャ。

 男ってみんな、ああなのかニャ?

 まぁ、そんニャことはおいといて、大男の身動きがとれない今がチャンスなのニャ。

 あたちは爪を伸ばすと先に飛び降りたバカよりも先に大男を引っ掻くべく、身体を線のように細めて落ちる速度を早めたのニャ。


「うっしゃあ、一番槍。喰らえっ」


 結局、距離は埋まらず、バカが先に攻撃することになったのニャ。

 バカの攻撃はくるくると身体を回しての蹴り攻撃だったのニャ。

 身体を回転させて何の意味があるのかニャーと思っていたら、ただの蹴りが回転することによって相手の身体をえぐるという大ダメージを可能にしていたのニャ。

 こ、コイツ、出来るのニャ。

 だけど、敵の回復力が思いのほか強くて、せっかくの傷が瞬く間にシュウシュウと煙を立てて治っていったのニャ。


「あっしらの大将と同じ能力使いですか。そいつは厄介ですなぁ」


 とか言いつつ、大バカが手持ちの刃物で敵を切り込んだのニャ。

 刃物はデタラメに振り回されていたけれど、あたちぐらいの動体視力からすれば、捕捉可能ニャ。

 デタラメに振り回しているようで、ここぞの一撃が逆U字を描いたかと思うと、大バカが刀を納めると同時に敵の羽根の付け根がバッサリと斬れたのニャ。

 バカの攻撃を防いで意気揚々としていたところに、思わぬ大ダメージを受けた敵が大バカに対して大きく目を見開いていたのが何よりの証拠ニャ。

 よっぽど悔しかったのか、その後、口元に力を込め始めたのニャ。

 口から何かを吐き出すつもりだったのニャ。

 そうならなかったのは、メリーの背中から発射した銃撃が敵の額を撃ち抜いたからニャ。

 とびっきりの爆発音と共に敵の頭が軽く吹っ飛んだのニャ。

 口の中にグレネード級の爆弾を作り出していたところに銃撃で力が抜けて、自分の口の中で爆弾を爆発させたのニャからこれほど間抜けな話もないのニャ。


「やりますねぇ、お松さん」

「ぐっじょぶ、なのニャ」


 あたちは親指を立てて、メリーの背中で息を吐いている女の人を労ったのニャ。


「わふー↑↑↑。わふわふわふ」

「ニャウウ。ニャンニャン流双掌・十文字突きっ斬り」


 その後、まだ生きている敵に対し、犬コロが止めとばかりに連続で噛みつき攻撃をしていたので、あたちも自慢の爪で敵の肌を突きつつも斬り込みを入れてあげたのニャ。

 結構なダメージが入ったようで、敵は手のひらに蓄えていた力を身体全体に再吸収させていたのニャ。

 あたちたちのダメージがみるみる再生していくのはシャクだけど、フェゴールに直接ぶつける気だったおっかない攻撃はひとまず阻止できたのニャ。

 その間、シグとベレッタの二人がフェゴールの背中をめがけて回り込んだのニャ。


「あったぞ!」

「愛の文字は見えてます。生きてますですぅ」


 あたちたちが何よりも知りたかった情報が耳に入ったのニャ。

 愛は、あたちたち13人のパートナーがその背中に思いを込めて彫った漢字ニャ。

 そうでなくっちゃ、なのニャ。

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