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夜(6) 前置き

 >地獄タギリロン八起やおき


 やあ、こんにちは。

 地獄の微笑み中年デブことベリーニおじさんだよ。

 今回は、目の前の少女にある真実を伝えなきゃならないんだが、これがまた胃に穴が開きそうなぐらいのストレスだったりするんだ。

 つまり、それほどに残酷な事実なんだ。

 これを伝えたら、相手は絶対怒るのが目に見えている。

 だからといって、ウソはよくない。

 ウソすら奇跡の力で真実にしてしまう大将と違い、おじさんは身の程をわきまえているつもりだ。

 いつまでも相手に気を揉ませるのもよくないし、きちんと伝えよう。


「天国に行けるのは、種族こそ問わないけど、男を知らないまま死んだ美人だけ(・・)なんだよ」

「何なんですの、凄くウソっぽく聞こえるのです。さっきよりも断然納得いかないのですっ!」


 ですよねー。


「ルルシー、本当だよ」

「ルルシー、本当だよ」

「ぼくたち、追い返されたから」

「ぼくたち、追い返されたから」

「……本当なのですの?」


 すかさずジョーガンとバリンボー兄弟がフォローしてくれたものの、それでもルルシーお嬢ちゃんの疑いの表情は晴れなかった。


「バカみたいだけれど、本当なのよ~」

「!! ライガーさんっ!」


 突然の声に、ルルシーお嬢ちゃんが振り向くと、オネエ言葉の屈強な男が現れた。

 彼には別の名があるのだが、とっさに出てきた『ライガーさん』という言い方からして、すでに面識があるようだ。


「わぁー、ライガーマスクだっ!」

「ライガー! ライガー! ライガー! ねぇ、ぼくたちと遊ぼうよっ!」


 屈強な男は、自身がマスクを被ったままだったことに気づき外そうとしたが、ジョーガンとバリンボー兄弟の期待に満ちた眼差しの前に、マスクを外すわけにもいかなくなった。そこでライガーは兄弟たちと遊ぶ約束をし、先に中庭で待つようお願いをした。


「うん、わかった」


 大喜びの兄弟たちは、筋肉を思いっきり震わせたジャンピングをしながら退室していった。

 その際、かなり部屋が揺れた。……震度、3ぐらいだろうか。

 まぁ、いいんだけれど。



「あなたも見ていたでしょ、あの姉妹」


 ライガーからの唐突な問いかけに、ルルシーお嬢ちゃんはおじさんと出会う前の出来事を思い出したようだ。


「ええ。あの子達はまだ未成年だったのです。天国行きでしょう?」

「残念だけど、あの子達、海斗という少し年上の男の子と仲が良かったからダメなのよ~」

「そんなっ! たったそれだけのことで、あの子達は地獄行きなのですか?」

「うん。おかしなルールだとおじさんも思うけれど、うちらの大将が実際に旧天国で天使たちから聞いた、確かな情報なんだ」

「きゅうてんごく? 神様がいて、天使がいて、善人が住まう場所が天国なのではないのですか?」

「そうだね。それが本来の天国の形さ、ルルシーさん」

「新しい天国はねぇ、童貞をこじらせて死んだ独身ジジイが神様に転生したのをきっかけに、自分と自分以外の男を知らない無垢な少女や美人で囲んだハーレムだそうよ。ああ、キモいキモい」


 と、ライガーがマスクをしきりにかきむしっている。蒸れていて痒いのもあるだろう。


「……天国の話は理解したのです。次の話をしてください」


 うん。さすがにこれ以上、天国の話をしても仕方がないと思っていたところだ。

 ルルシーお嬢さんの察しの良さには驚くばかりだね。


「じゃあね、ルルシーちゃん。アタシは出掛けるわよ」


 ライガーもまた空気を読んで、退室してくれた。

 おじさんは、気持ちを切り替えるための咳払いをひとつしてから、本題に入った。



 ー



 何でもないはずの錆びた南京錠に手を触れた瞬間でした。

 けたたましい大音響のブザーと共に、可視化された結界が現れ、刑務所をドーム状に包んでいきます。


 羽をはためかせて滞空していたメリーが何かを感じとり、上昇し始めました。


「仕掛人さん、至急、あのドラゴンの背に乗って、現場へと急行してください。残る私たちは今から起こるであろうトラップの解体を行います」

「おう、わかったぜ。あとは頼む」

「行きましょう、お松さん」

「あいよ。地獄で鍛えた南蛮銃の腕の見せどころだよ」

「い、以蔵、小生は竜の背中に乗るなど、怖くて足が動かん。お前だけでも先に行ってくれ」

「栗栖さん、あんたがあの場所にいなきゃ何も始まらないんだ。仕方がない。俺が背負ってやりますから、

「その必要はないのニャ」

「わふー」


 私の命令にも関わらず、仕掛人さんのフットワークは心地よいものがありました。

 唯一、医者の栗栖さんが日頃の運動不足からかメリーの背中に乗れそうにない……と判断すると、一転して気弱になりましたが、ラムとステアーが栗栖と以蔵を片手で担ぎ、背中へと連れていきます。


「ようし、メリー、バリアが完全に塞がる前にひとっ飛びするのニャ」


 ラムが目指すべき場所を指差して、合図を送ると同時にメリーは急上昇し、塞がれつつある結界の穴へと向かいました。

 そのタイミングを窺っていたわけではないでしょうが、こちらの数が減ってから、土の中から一斉に夥しい数の手がボコボコッと現れます。

 私は翼を用いて宙を浮きます。

 他のみんなから「あ、ズルい」と言われました。

 そうは言うものの、ライカは所持している十字架に祈るや聖域を確保し、その中で手の侵入を阻んでいますし、ベネリは呪術を使用して手の持ち主を一ヶ所に集め、人肉フレッシュゴーレムを作り、ゴーレムの巨大な手の上でふんぞり返っています。


「あら? たったの3人しか残らなかったの?」

「しかもよりによって、オレとお前とライカかよ。体格大人組しか残ってねぇのかよ。ウケる」

「いや。聡子はバスの中だ。ウィンと例の子供を護るためだろう」

「あー、あのガキんちょな。アイツも連れてきたのかよ」

「ジュドーさんが受け取りを拒否しましたからね。他に居場所がないのです」

「やっさしいなぁー、イサカちゃんは」

「うむ。イサカ殿こそ正妻の鑑である」

『お前ら、いい加減に俺に反応しろよっ!!』


 そうなのです。

 実は手の出現後、ゾンビたちに混じって、魔法使いのローブを着た人間が何人か現れました。

 その中で、アーパーな顔をした少女のゾンビに囲まれてご満悦なイケメンが語りかけていたのです。

 よくある戦闘前の口上です。

 イケメンだけに、私たちの死後、その身体をあのゾンビたちのコレクションにするとかなんとか。


「……ハァ。もう一度、聞いてあげるから言い直しなさい。何て言ったのかしら」

「ああ。聞き逃したような気がするが、聞き逃せないことをお前は言ったしな」

「二度はないぞ」


「だからなんでお前ら、そんなに偉そうなんだよ。まぁ、いい。お前らを殺して、俺様の一員にしてやるぜ」


 イケメンによくあるかっこいいポーズ決めとキラリと歯が光りました。


 ひゅるるる~~~ドッカーーーン!!


 ベネリのバズーカが、イケメンにヒットしました。

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