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夜(4) わたしのたいせつなもの

 私は泣いていました。

 何が起きたかも分からないまま、大勢の人が川のまわりにいる場所へと集まったかと思えば、見たこともない大きな船がやって来て、その船から現れた女の人がこう言いました。


「こちらはサンズノカワ定期便です。亡者の皆様、慌てず騒がず、ゆっくりとご乗船ください」


 亡者。

 そう、私を含め、ここにいる人たちは皆、死んだ者たちなのです。

 その多くの人々は女の人の声掛けに言われるままタラップを踏んで奥の方へと吸い込まれました。

 でも、私を含め、一部の人たちが死んだことを理解できず、泣いていました。

 すると、どこからともなく人が現れ、「泣かないで」と声をかけてきます。

 その亡者たちは姉妹のようでした。

 その姉妹に対して、現れたのはプロレスラーが通じそうな大男でした。

 大男はやがて懐から取り出したマスクをかぶり、何かを演じていました。


「ライガーマスクなの。すごいの。握手なの」


 姉妹のうち、妹の方がこのプロレスラーを知っていたようで、キャッキャッキャとはしゃぎ始め、気をよくしたライガーマスクさんはマイクを取り出すや、アピールをし始めました。

 その光景が滑稽だったのでしょう。

 とうとうお姉さんの方も泣いているのがバカらしくなったみたいで、大笑いしたあとに、仲良く船の方へと向かっていくのでした。


「!」


 一部始終を目撃していたため、ライガーマスクさんと目が合いました。

 彼は、ニコッとマスク越しからでもわかる笑顔を浮かべたあと、フッとその身体を消しました。

 まるで、自分の出番は終わったばかりだ、とでも言うのでしょうか。


 私は、何かを期待していたのかもしれません。

 私にも声をかけてくれる人がいる、と。

 でも、それは叶わないことでした。

 わかってます。

 私は吸血鬼なのです。生きている間に大勢の人たちの血を吸いました。

 いいえ、言葉が優しすぎました。血を吸った数だけ、人が死んでいます。

 生きるため、生き延びるためとはいえ、人殺しにやさしい声をかけてくれたのは、ガロードだけ。

 でも、そのガロードを私は置いて、ひとり、こんなところへやって来てしまった。


「うう、悲しいです。寂しいです。もう、ひとりは嫌なのです」

「ルルシー、あそぼう」

「ルルシー、あそぼう」


 涙で周りが見渡せない私に、懐かしい声がかかりました。

 あまりの寂しさから、意識が幻聴を産み出したのでしょうか。


「ルルシー、にらめっこ」

「ルルシー、にらめっこ」


 ずんっと、懐かしい顔の変顔が目の前に現れました。

 彼らの変顔に理解が及ばずポカンとしていると、必死にどんどん変な顔を作っていく二人の熱意に、いつしか私の涙は止まり、思わず笑ってしまいました。そして、この二人のいつまでも変わらない優しさに癒された気持ちになりました。

 彼らの名は、ジョーガンとバリンボー。

 魔神のような強さと天使のような優しさを兼ね備えた、ガロードと私にとっての勇者ーー





 移動中のバスのなかで、フェゴールによる状況説明が行われました。

 スマホで連絡する余裕がないようで、説明は念話で行われました。

 ちなみに念話ですが、簡単に言うとこころとこころで行う電話みたいなものです。お互いが親密以上の間柄にならないと発動しないというデメリットがありますが、スマホなしでいつでも知り合いにコンタクトをとれるのが最大のメリットです。

 あ、あと知らない人がこのやり取りを見たら、黙りこくって不気味かな。

 お通夜状態のバスの空気に押されて、カツトシさんが震えていますもの。


 フェゴールからの説明は、事前にモナの携帯から伝言された状態と相違ありませんでした。


 テツとガロードさんが戦う。

 ガロードさんが予想以上に弱く、テツがフェゴールにどうにかするよう急かす。

 困ったフェゴールがガロードさんの彼女さんを紫外線弾で撃つ。

 フェゴールとしては紫外線で弱らせる程度だったが、思いの外、紫外線の効きがよく、灰にしてしまった。

 残された彼氏のガロードさんが悲しみと恨み辛みを吸収して、悪魔の姿に変貌する。

 新しい力により、一瞬でテツが使い物にならなくなり、フェゴール大ピンチ!←今ココ。


 思わずため息をついてしまいました。

 どうして、こんなにも短絡的な行動に出てしまうのだろう、と思うと。

 ですが、真剣勝負のやり取りのなか、他の選択肢を取ろうにも策がなかったのも事実です。

 ガロードさんの心が弱ければ、その場で心が壊れて戦意喪失したかも……と思わずにいられません。ですが、ガロードさんはエメラルド・シティの生ける伝説です。そんな人のハートがそこまで弱いとは考えられ…………どうなのかしら?


「皆さんに意見を求めます」


 私は心の内に浮かんだ疑問を解消すべく、手のひらを軽く叩いて、皆の視線を集めました。


「みんなも知っている通り、現在のガロードさんは悪魔のような強さを得ています。恋人を失った悲しみがきっかけで力に目覚めた可能性もありますが、もうひとつの可能性も捨てきれません」

「ニャんなのニャ、それは」

「古典的ですが、悪魔に心を奪われた可能性があります」

「わふー?」

「つま……り?」

「悲しみでまともな判断ができなくなっているところを悪魔につけこまれたのですよぉ」

「なるほどなー。それもひとつの可能性だな」


 私の問いかけに真っ先にラムが反応し、ステアーが首を傾け、メリーが言葉を添えます。それに対し、ベレッタが答えをズバッと当て、シグが納得しています。


「じゃあさ、仮に悪魔が憑依しているとして、それが誰だかわかるのか?」


 ここでダークエルフ(ベネリ)が当然の疑問を投げかけます。


「今回、私はお役に立てないので、代理チームなら紹介できます」


 手をあげて、申し訳なさそうにエルフ(ウィン)が回答します。

 エルフは瘴気が苦手です。つまり、悪魔のいる場所に近づくと弱るのです。ココだけの話ですけど、フェゴールは悪魔認定されていますが、元は神なので、実は瘴気を発しません。だからエルフをパートナーにすることができたのです。


「代理チームにはすでに連絡を取っておきました。幸い、エメラルド・シティに有給休暇をとっていたみたいですぐにでも現地集合する、とのことですわ」


 さすが、みんなの聡子先生。行動が早くて助かります。


「でも、あれですよね、事前に代表者だけでも名前を知っていた方が誤爆の危険性は減るッスよね」

「コクコクコク」


 誤爆って、カム、あなたは何を現場でぶつける気なのかしら。

 そして、チェスター、たまには何かしゃべりましょうよ。


「ウィンが助っ人に頼んだ者たちは、『仕掛け屋』という。この世にはびこる悪を討つ正義の集団なり。いざ、尋常に!」


 最後の最後までライカが沈黙していたのは、この台詞が言いたかったのですね。

 わざわざ抜刀までして。ノリノリじゃないの。


「ご乗車の皆さま方、まもなく現場へと到着しやす。予定時間はあと5分といったところでしょうか。準備は言わずもがな、忘れ物がないよう、お願いしやす~」


 突如、アンキモからアナウンスが入りました。

 いよいよです。

 私たちが駆けつけるまで、あと少しです。

 もう少しだけ頑張ってください、私の旦那さま。

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