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夜(2) 弱点

 それは一見、どこかで読んだか観たかの名シーンを思わせた。

 エメラルド・シティにおいて、割りとイケメンの部類に入るガロードのパンチを、筋骨隆々のテツが敢えて浴びた瞬間、だ。

 思い出した。ラノベだ。ただ、タイトルは忘れた。

 で、そのラノベは少し違って、筋肉男の勢いのあるパンチを敢えて目をつぶった少女が、手のひらで受け止めて、「その攻撃、見きったわ!」と言いながら、か細い両腕で己れの体重の4倍はある筋肉男を一本背負いするのだ。

 自分は、あまりにもあり得ないファンタジー光景に腹をたてて、バスの窓からそのラノベを捨てた。

 ああ、だからラノベのタイトルを覚えていないのか。


 まぁ、それはともかく。

 大人しく殴られたテツは、漫画のように宇宙の彼方へと吹き飛んで星になるとか、ラノベのように壁際まで激しくノックバックするようなことはなかった。

 ただ、「こんなものか?」という落胆の読み取れる表情があった。

 グオオオッと叫ぶテツは、その腕を乱暴につかむと腕の持ち主のことも考えず、そのまま地面へと叩きつけた。それは、子供が怒りに任せてお気に入りだったおもちゃをぶつけるかのような光景に思えた。

 三度目の叩きつけ行為の時、ガロードの腕がまたももげ、すこしばかり放物線を描いたあと、地面に落下した。

 振り回されて方向感覚を狂わされたとは到底思えないが、受け身らしい受け身もとらず、ガロードはそのまま落下した。そして、身動きひとつしない。

 テツはもげた腕を興味無さそうにガロードに対して投げ返すと、天に向かって吼えた。

 一応、念のため、自分はグレネードランチャーを装備して、倒れているガロードめがけて火炎弾を発射した。だが、こちらの攻撃は大人しく浴びてくれなかった。

 ガロードは残像を残すほどの素早さでその場を立ち去ったものの、少し距離をとった場所で苦しげにもげた腕を接着し、再生回復にいそしむ姿が見えた。

 それでいて、こちらがスナイパーライフルで迎撃するも、弾道を読んでわずかな身動きで回避した。


 ふむ。

 ガロードはテツとの近接攻撃では力負けしたものの、遠距離攻撃には無類の強さを発揮している。

 自分がガロードに致命傷を与えるには、二丁拳銃かショットガンで近接攻撃に持ち込まなくてはならないが、生憎と自分は近接攻撃をかなり苦手としている。あの悪魔の姿時でさえ、周囲の空気をある種の毒ガスに変えて容易に近寄れないようにしている。


「つまらん。じつにつまらんぞ」


 テツが仁王立ちのまま、そう吐き捨てた。

 そうは言うが、これが彼らの実力差なのだから、受け入れるしかないのでは?


「ガロード、もっと本気を出して、ワシを楽しませろ」


 テツが無茶苦茶なことを言いはじめた。


「フェゴール、やる気を引き出すような妙案がないか?」


 妙案ねぇ。

 考える素振りをしつつ、脳内では漫画的発想にすがる自分がいた。

 視線を泳がせていて、閃いた。


 自分はこの日のために用意していた対吸血鬼用の紫外線弾をマグナムに装填すると、振り返り様、ルルシーに対して2発発砲した。

 まさか自分が撃たれるとは思いもしなかったのだろう。

 脳に一発、心臓に一発ずつ、(自分で言うのも何だが)気持ちイイぐらい渾身の一撃が命中したルルシーは悲鳴にもならない声と共に灰となり、崩れ落ちた。


「ああっ! ウウッ、ウワアアアアアッ!!」


 一転して悲しみに包まれたガロードが、血の涙を流しながら空を見上げて慟哭した。

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