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夕方(2) ダブルデート

※一部、想像を膨らませると気分を害する表現が入ってます。

 ノルマ達成の気疲れか、再び元の世界へと戻ってきたときのテツは真っ白だった。

 挨拶もそこそこに『ボディプレス』の扉を開き、奥へと足を運んでいった。

 自分は、やつれた姿のテツに驚き、情報を引き出そうとやって来たアンドレから『かくかくしかじか』とだけ軽く説明し、パートナーズと約束していた目的地である喫茶店へと足を運んだ。


 目的地は、カップル喫茶。

 カップルだけしか入店できない、秘密のお店。ネットで偶然見つけた。

 正直なところ、エメラルド・シティにこういうお店があること自体に驚いた。

 その辺の表通りで公然わいせつを行っても逮捕されないというのに、わざわざコソコソと同士たちの集う場所へと足を運ぶ者たちが一定数いるようだ。

 まぁ、よくよく考えてみれば、それなりの身なりをした者たちだって、高級クラブのVIPルームで乱痴気騒ぎを起こすわけで、特におかしくもないか。


「遅いぞ、バカモノ」


 到着して早々、自分は頭ごなしに怒られた。

 怒った相手は、横に並ぶとタッパが30センチは開く幼女だ。

 幼女である。

 自分と彼女が手を繋ぐ姿は親子のようだと良く思われているが、れっきとしたパートナーズのひとりである。

 そんな幼女と、自分はカップル喫茶の扉の先へと赴くのである。

 日本だと確実に犯罪だが、エメラルド・シティでは問題ない。

 ダメ人間にとっては、一種の桃源郷である。


「アレ? 今回はベネリは不参加か」

「うむ。昼間の襲撃でこころゆくまで戦闘を堪能しとった。今日は余韻に浸りたいんじゃとよ」

「そうか。アレからあとの救出作戦、成功したか」

「フフン、ワシらを誰じゃと思うとる?」


 幼女が沈みゆく太陽をバックに無い胸を張った。

 素晴らしい光景である。幼女はかように自信満々であった方が絵としては美しい。



 若干、蛇足気味だが軽く説明しておこう。

 自分たちが殺し屋たちをコロコロしている間に、パートナーズには自分から追加のミッションを要請していた。

 すなわち「人質救出作戦」である。

 朝、ジュドーと会話していて生まれた疑問『ナゼ、泥門の悪事が世間の目に触れないのか?』について、だ。

 何のことはない。

 弱味を握られてしまえば、マスコミはもとより警察でさえ身動きを封じることが出来る。

 情報端末の操作に異様に強い聡子先生に頼んで、彼らの最近の身辺を調査してもらったら、スキャンダルなネタから最愛の人の拉致もろもろの出来事が次から次へとピックアップされた。

 特に拉致被害者は、大陸で普通に生活しているところを無理矢理ハントされて、エメラルド・シティだと分かる廃ビルのどこかで撮影した映像があった。

 その映像は、冒頭の15分ほどはよくある脅迫ビデオのような作りだったが、一旦、画像が中断し、次に撮影された中身は、反抗的な人質に対してモザイクなしで血塗れになるまで暴行を加えたり、その出来事に怯える他の人質のなかで暴行者たちの感に障った者たちが遊び感覚で人体の一部破損をざっくりと切り取られる、衣服を剥がされ部屋の隅に連れていかれ乱暴される。そして、悲鳴が弱々しくなり、無言に変わっていく……など、思わず目を逸らさざる&耳を塞ぎたくならざるを得ない鬼畜のごとき所業に溢れていた。

 脅迫され、律儀に泥門の言うとおりに従っていた人たちには、実に気の毒な結末だった。

 だが、幸いにも「人質救出作戦」に動いたのはパートナーズである。

 欠損部位も心の傷も「なかったこと」にする力を有しているウィンとイサカの手腕により、救出の際、「かろうじて生きている肉の塊」だったらしい被害者たちの諸々ダメージを回復させた。

 聡子先生は、画像が流出&拡散しないよう手をうち、真相を闇に葬った。もっとも、交渉の際に説得力を持たせるためにウィンと協力して、欠損部位を出した被害者のみ、被害部位の部分を荒めの暴行を受けたようなアザを残し、包帯を巻いている。真相の映像と照合させ、なおかつそんな傷を治したウィンの技術力を際立たせるためだ。

 こういった経緯があったものの、一応、弱味から解放することには成功した。

 人質を無事に送り届ける役割はジュドーの組織に任せた。

 救出に動いた経緯の説明もジュドーにぶん投げて、彼は、そういう部隊を保持しているということを大陸の連中に匂わせたようだ。

 ジュドーからしても、虎の会の影響力に箔がつくわけで悪い話ではなかったはずだ。

 もちろん、報酬は要求してある。

 それは『泥門の真相を暴くこと。それも容赦なく徹底的に』だ。

 少しでも手ぬるいと感じたら、今度はこちら側が傷つける側に回ることを釘を刺しておいた。


「夕飯の時間のニュースは期待できそうだな」

「うむ。ワシらが活躍している映像も渡しておいた。楽しみじゃな」


 チャッカリしているなぁ。

 まぁ、しっかりと任務を果たしてくれたから、それぐらいは多目に見よう。



 そんな話はともかく、カップル喫茶である。

 自分ははやる気持ちを抑えつつ、扉を開いた。


「えっ?」


 蒼い髪に青白い顔、そしてオレンジ色の戦闘服を着込んだ青年と目が合った。


「どうしたのです? ガロード。早く止めを指すのです」


 建物の奥からモナと同レベルの身長とちっぱいの少女が現れた。

 いや、それよりも……


「ガロードだとぅ!!」


 蒼い髪の青年がチッと舌打ちをしつつも、それまで首をつかんでいた誰かを放り投げるや、自分に対して空いた手を固く握りしめるや殴りかかってきた。

 避けたいところだったが、それをするとモナにぶつかって怪我をさせてしまうため、敢えて殴られておいた。

 肩の力だけではない、腰の入ったパンチを久々に浴びて、脳が揺れた。だが、倒れるわけにはいかない。混濁する意識を歯を食い縛ることにより耐え、袖口に隠し持っている暴漢撃退用の悪臭スプレーを顔めがけて振り撒き、彼がその臭いに顔を歪めた隙をついて、タックルを当てて建物の中に入ることにした。


「よくも、ガロードを。許せないのです」


 今度は少女が自分に対して凝視してきた。

 経験上、それは吸血鬼がよく使う『魅了』のスキルだと見破った自分は、少女の目の前で大きな音の立つ張り手を行った。一応、猫だましである。

 だが、突然の大きな音に少女は驚き、スキルは中断された。

 まぁ、発動しても効果はないが。


 と、ここでガロードに首を掴まれ片手で吊り上げられていたチョビ髭の中年男がほうほうの体で建物の奥へと逃げ込もうとしていた。

 こんなことをする義理はないが、自分のせいで逃げられたとあとで色々言われるのも面倒だなと思ったので、脚でも撃って逃げ足を封じようとした。


「こらっ! こういう時は師匠に出番を回さぬか、バカモノ」


 と、モナが手持ちの銃で自分の代わりに両足を射ぬいていた。





 今、普通の喫茶店にいる。

 モナはティラミスを幸せそうに平らげ、ルルシーはジェラートにご満悦である。

 ガロードは久しぶりに飲むコーヒーをゆっくりと味わっていた。

 自分? 口内のダメージを再生能力で治癒中である。


 さっきの喫茶店の顛末であるが、あの店がオープンしてからカップルの行方不明が多発していたそうだ。それと同時に身元不明の男女が様々な苦行を経て死体に変わるまでの映像を淡々と流した映像が出回り、彼女を寝とられた挙げ句、死体に変えられたという男がこの街の顔のひとりであるギース・ムーンに相談したのがことの起こりだった。

 早速、ギースが下調べをすると、あっさりと映像の出本があの喫茶店だとわかり、カップルに見えなくもないガロードとルルシーが潜入して、睡眠薬入りの飲み物を盛られたのをきっかけに実行犯どもを一網打尽にしている最中に自分等が出くわしたようだ。

 結局は、どこからともなく現れたギースが両足を射ぬかれて苦しんでいる店長を引っ張っていって、なし崩し的に任務は終わった。

 ホッとしたところをルルシーのお腹が鳴り、喫茶店で軽食を食べようという流れに自分が持っていった。

 ところが、吸血鬼な二人は血以外の飲食は味がしないというので、ここでもテツから学んだ按摩術によって、吸血鬼特有の青白い顔と味覚の欠如を人間の状態に戻しておいた。

 見た目が健康的な青年と普通の少女へと変貌した二人が鏡を見せ合う姿にほっこりしたのは内緒だ。


「ガロード、ジェラートは美味しいのです。食べてみるですか」


 と、ルルシーがスプーンで一口ぶんよそって、目の前でアーンをし出した。

 対するガロードは気後れからか、なかなか口を開けたがらずにいた。

 そのうち、スプーンの上のアイスが溶け始めたため、ルルシーは自分の口の中にぶつくさ言いながら頬張っていた。

 気持ちは分かるが、ガロードには精神的に荷が重いミッションだろう。


「フェゴール、アーンなのじゃ」


 思わぬイチャイチャぶりに火をつけられたのだろう。

 モナが、ケーキを追加注文したのち、同じ行動をとった。

 自分にとっては、わりと普通の行為なので、遠慮なくケーキの一部を頬張った。

 うむ。まだ、口内は痛かった。

 ルルシーが、歯ぎしりをしていた。

 モナが、精神的上位にたったときの優越感を示していた。

 何気に、年齢不詳で見た目幼女な彼女たちの熾烈なバトルが行われていた。


「ルルシー」

「ふふふ、ガロードは甘えん坊さんなのです。仕方がないのです」


 ふとガロードが真面目な顔つきで己れの彼女の名を呼んだ。

 振り返るルルシーが空気を読み、再度、ジェラートの乗ったスプーンを口に運ぶ。

 ガロードはルルシーの言い方に何か言いたそうだったが、黙って口を開き、モグモグとそしゃくした。

 その際、ガロードのやや長い犬歯が見えた。

 わかってはいたが、やはり吸血鬼なのだな、と納得した。


「フェゴール、レベル2なのじゃ!」


 人の袖に力の入るモナに不安を覚えたが、メニューにある商品を注文して、それが的中した。


「チョコバナナでございます」


 店員が澄まし顔で大皿に盛られたソレをテーブルに置いた。

 モナが早速、チョコバナナをフォークで口に運ぶと、両端に噛みついて、自分の方へと向き直った。


「ふぇほーる、ふぁよふぁふぁらんか」


 場の流れ上、付き合うしかなかろう。

 垂れ下がりつつある片端を支えるようにして口に運ぶと、モナのひと噛みに合わせるようにして噛み進めていく。

 そして、最後に軽くチューしておしまい……なんだが、ルルシーという第三者に見せつけんとばかりにディープキスをしてきた。

 幼女のチューはご馳走である。異論は認めない。

 ましてや向こう側がその気である。失礼は許されない。

 よって、空気を読まずにチュッチュッして、店員に追い出された。

 更に、出禁宣言を出されてしまった。


 うむ。

 勝負に勝って、試合に負けるというやつか。


 ちなみにルルシーは膝をガックリと落とし、ガロードはポカンとしていた。

 何だか微笑ましかった。

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