昼(10) ある少女に幸せを
※一部不愉快な文字が規制なしで出て来ます。ご了承ください。
>テツ視点
今回の目的地である廃校舎跡地は、幸いなことに様々な遮蔽物に溢れていた。
それは崩れかけている門の残滓であっても、這って隠れれば、銃撃は避けれられる。ただし、見つかった場合、校舎の未索敵ポイントから撃ちだされた銃弾は、アンチマテリアルライフルからの射出であるため、壁は防弾の役割を果たせず、そのまま貫通してくる。
アンチマテリアルライフル。
その一発の威力は、武装した車両すら撃ち抜く。かつては対戦車ライフルとも呼ばれていたそうだ。なるほど、今の戦車の装甲は難しくとも、それならば車の装甲ぐらい簡単なのも納得だ。
納得なのだがな……。
「ハッハッハ、クソビッチ、てめーの命運も今日までだぜぇ」
ギリギリ射程外であった校舎の正門をくぐり抜け、ベルフェゴールが素っ裸で対物ライフルの射程内へと接近していった。
正直、クレイジーだ。ファッキンともいえる。
だが、驚くのはまだ早い。
「この命のやりとり、スリリング。キタッ、キタキターッ!!」
と、ひとり勝手にエキサイティングしていたかと思いきや、それは形になった。
分裂したちんこが伸長するや、回転を始めたかと思うと、そのままガトリングガンの銃身となり、玉袋に至ってはパンマガジンの形状だ。ご丁寧にも、パンマガジンを小型にして2つ並べている。
どうしようもないこだわりだ。
「オラオラオラ、総弾数1億発の『数撃てば当たる』作戦、その身に浴びなっ!!」
などと、締まらないセリフとともに腰だめ撃ちで迎撃するベルフェゴールの姿があった。
結果を述べる。
アンチマテリアルライフルのお嬢ちゃんの捕獲に成功した。
いや、正確に述べると、1億発の弾丸を廃校舎にぶちまけて倒壊させた。
その瓦礫の中から虫の息だったお嬢ちゃんを、ベルフェゴールが俺から習ったばかりの按摩で心拍を安定させ、もともと習得していたんだろう簡易治療を済ませて、ちょっとやそっとで死ななくなったのを見届けてから拘束した。
「こ、の、ひきょう、も、の」
お嬢ちゃんがベルフェゴールをキッときつく睨んでいた。
俺が思うに、お嬢ちゃんの銃撃があいつの頭にクリーンヒットしたにもかかわらず、俺と同じ再生能力で銃撃ダメージをなかったことにしたことを言っているのだと思う。
ベルフェゴールはその間にも手を休めることなく射出を止めないでいた。
だが、アレは一度出たものを止めるのは難しい……とでも言いたげなぶっぱ量だった。
男の俺たちなら誰でも経験することだ。
銃の形がアレでできているし、いくつかに分裂していたことだし、放出力も相当だっただろう。
止めることなど不可能だな。
あいつの肩を持つわけではないが、むしろ、校舎の鉄筋を破壊するまでよく射出力を失わずにいられたものだと思う。
あいつが作ってくれたスマホで調べて知ったことだが、あの銃は毎分4000発の射出力だそうだ。
あいつが言った通り、1億発だとしたら、2分半で弾切れのはずだ。
とても2分半とは思えない射出時間だった。
ひょっとしたらお嬢ちゃんの言う『卑怯者』は、この辺もさすのかもしれない。
今となっては、どうでもいいがな。
>ベルフェゴール
「さて、と。お嬢ちゃん、死ぬのと生きるのどちらを選択するかね」
「とっとと殺せよ、変態」
ちんこ銃はその役割を終え、普通のちんこに戻ったため、自分はいつもの服装に着替えつつ、彼女に選択の機会を与えた。
思った通り、彼女は死を願った。だが、それは断らなくてはならない。
なぜならば、彼女の銃が光っていたからだ。
銃が光る……ということは、その銃が明確な意思を示して自分に付き従いたいという意味を持つ。
自分ことベルフェゴールは、人の形をしたもの以外に異様に好かれる体質で、銃だろうがナイフだろうが、風呂場の桶だろうが、光ればその時点で自分のモノにすることが出来る。
普段ならば、彼女の所持するアンチマテリアルライフルの要請を受けて、彼女を殺し、銃の意志の力を殺したばかりの肉の身体に移し替えて、新しい命を吹き込み、新しい彼女を得る。
だが、今回ばかりは遠慮する。
アンチマテリアルライフルは好きだが、ヘカートⅡが許せんのだ。
具体的に言うとヘカートⅡを駆使していた目の前の美少女で、彼女には生きていてほしいわけだ。
それも『幸せに』なってほしい。
『幸せに』なってくれれば、彼女は進んで銃を手放すだろうし、自分のような人殺しと2度と出会うこともないだろう。
そういうわけで、このお嬢ちゃんにはとんだとばっちりだが、この銃を有名にさせた元の所持者に対する恨みを兼ねて、その顔をぶん殴っておいた。
身体の芯までひねった渾身のパンチを浴びて、彼女は吹き飛んだ。
地面の瓦礫に顔をぶつけたので、予定外のダメージを負った。
大丈夫。脈はある。若干、均整のとれた顔が崩れたが、ギリギリ美少女の範囲だろう。多分。
意識が途切れてうるさくない今のうちに『幸せに』するための処置を行った。
>美少女
私が目覚めた景色は、瓦礫の山ではなかった。
何故か観光区へと移動していて、『ジュドー&マリア』が最近設置したオープンテラスの真ん中のテーブルに突っ伏していて、誰かが「大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。
声に反応して振り返ると、エメラルド・シティにはまず存在しない私好みの美青年が顔を覗き込み、心配してくれる。
ぴと。
と、美青年が私の額に自分の額を重ねてきた。
「うん。熱は出ていないようだね。良かった」
ノーガードだった私の顔に自分の顔(特に唇)を近づけておきながら、その美青年は屈託なく笑った。
胸の高鳴りが止まらない私をよそに、彼は次に私の手をとった。
「良かったら、僕とデートしてくれないかな?」
私に断るという選択肢はなく、その手を力強く握り返して、私は立ち上がった。
それまで私を守ってくれた相棒をテーブルの上に残して。




