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昼 こんにちは、エメラルド・シティ!

2015/05/07 フレイム王国を改めフラムドール王国へと変更。+加筆修正。

2015/05/31 あとがきに、用語&人名紹介を追加。

 トンネルを抜けるとエメラルド・シティのはずだった……。


 最寄りの空港からクメン国までの旅費をケチったマモンが、空港による途中、必ず通るトンネルに細工をして、エメラルド・シティまでのワープ通路を造っていた。

 スマホの中のマモン曰く『ワープ先の目標設定地はゲートの向こう側』とのことだったが、実際に出てきたのは高速道路の上だった。

 道路から約2mぐらいは高さがあった。


「至急、衝撃に備えて何か掴まれっ!」

「その必要はないですぜ、旦那ぁ」


 自分の命令に反する意見が出てきたので、思わず運転手側を振り向くと自動車の衝撃耐久テストに用いられるダミー人形がこちらを振り向きざま、サムズアップしてきた。


「こういうのは冷静さで対処すれば、大体何とかなるんでさぁ」


 その前にお前に表情はないだろうが、というツッコミはよそにダミー人形は鼻歌まじりにハンドル操作を行い、衝撃緩衝代わりとばかりに数台の乗用車を巻き込んだ。

 聡子先生がすかさず飛ばしたドローンによる後方確認によると、巻き込まれた乗用車たちはペシャンコになったが、奇跡的にも乗車人員は無事らしい。

 どういう運転をすればそういう状況が作れるのかは知らないが、まぁ、こちらもバスの被害は確認されなかったらしいし、結果オーライというところか。


「久しいな、アンキモ」

「旦那も変わりがなさそうで」


 運転席へと駆けよると、自分はこのダミー人形と片腕どうしを軽くぶつけ合ってあいさつした。

 ちなみにこの人形、名をアンキモという。

 名前の由来であるが、アンキモが食べたくなって釣りをしたら、この人形を釣ってしまった。結局、その日はこの人形以外の成果はなく、腹が立ったので自分の国に戻り次第、見た目はそのままに人間臭い人形を作ってもらった。しゃべられるようになった人形が自分に感謝して、命名をお願いしてきたので、アンキモと名付けた。

 以降、凸凹コンビとしてはよく続いているなぁ、と思う。



 突然、銃撃音が起き、バスが被弾した。


「何だ、何が起きた!」

「腹の立つ小僧に中指立てたら撃ってきたのニャ」

「はぁ? 言っている意味が分からん」


 自分の疑問に猫獣人のラムが起きたことをそのまま教えてくれたが、前後が不明だ。

 誰か、もっと詳しく教えてくれる人……そうだ、イサカに聞こう。


「はい。先ほど、黒塗りの高級車が複数こちらのそばを通り過ぎようとして、3台目の車のサンルーフが開き、頭にタオルを巻いた、どこかの国の皇太子と思われる方から我々はプロポーズを受けました」

「ひょっとして、全員とか?」

「はい。不愉快だったので、私の指示で窓際に並び、中指を立てて返礼したらこの有様です」

「13人からのファッキンポーズはどんな奴でもブチ切れるだろう」


 今度は対空ミサイルが着弾したかのような衝撃が走った。


「旦那ぁ、このバスは旦那の国で作ってますから耐久力は抜群ですが、やられっ放しでいいんですかい?」

「それもそうだな。各自、反撃開始だ。なお、その身分の高いクソガキは生け捕り。あとは皆殺しだ」

「「「「「了解」」」」」


 衝撃で思わず尻餅をついた自分。

 アンキモの指摘ももっともなので、そのまま各自のやりやすいやり方に任せた反撃指示を出しておいた。

 イサカの手が伸びてきたので、助けを借りて起きた。

 そして、その一部始終を見守った。





 一番槍は猫獣人ラムと狼獣人ステアーのコンビだった。

 二人はバスの横についてある開閉ドアから高級車の屋根へと乗り込むや、まずステアーがサンルーフから上半身だけを出した射手に突撃し、のど元をかみちぎった。そして、3台目を除いて他の高級車のもとへと駆け寄るや、その素早さで瞬く間に仕事を済ませた。


「わふー♪」


 出ていったところと同じドアから帰ってきたステアーが腰を落として、ニコニコ笑顔で近づいてきた。

 それは自分の手が、彼女の頭に届く距離で止まった。

 自分は、ステアーの頭をなでなでしておいた。そして、やんわりと血のりでべっとりになった口元を洗ってくるよう指示しておいた。


 一方、ラムはぐったりとした死体をけだるそうにどけて、数個、手りゅう弾を放り込んでいた。

 ラムが2台目にぴょんと跳躍する頃合いを見図るかのように、高級車は大爆発で吹き飛んだ。

 2台目はラムが近づく前に死体を放り棄て、サンルーフを閉めて目論見をくじいた。


「しょうがないのニャ。よっぽど苦しみたいらしいのニャ」


 ラムは天井に器用に張り付くと、フロントガラスの運転手側を自前の爪でまーるく穴をあけるや、ぽぽんっと手りゅう弾を押し込んだ。

 2台目の運転手は、考えもつかないプレゼントの寄こし方に何もできず、1台目と同じ末路をたどった。


「ニャー。どうやらここまでの様だニャ」


 3台目の皇太子たちはラムの侵入から身を守るため、護衛がフロントガラスをたたき割り、銃で反撃してきた。

 銃撃を、持ち前の動体視力で見切れるラムはわずかなステップでことごとくかわしていたが、皇太子側が要請したのであろう2台の軍事ヘリがやってきたのを確認するや、追撃をあきらめた。


「軍事ヘリといえば、これだろう」

「いいや、こちらじゃ。譲れんぞい」


 ラムの代わりにバスのサンルールから現れたのは、上半身を黒のタンクトップ、下半身はどこかの国の軍服でキッチリ着こなした体格のいい、ロケットランチャーの褐色美人と、透き通るような白い肌をうまく調和させたワンピース姿にスナイパーライフルという出で立ちの幼女である。


「だったら、どっちが先に撃墜させるか競争してみようぜ」

「面白い。して、何を賭ける?」

「昨日、ライカから美味しい酒の入荷を聞いたんだ。負けた奴がボトル代を払うのはどうだ?」

「いいじゃろう。ワシはお前のためにつまみ代だけ用意しておけばいいのじゃな」

「タダ酒につまみも食べ放題。最高だよな」


 二人は乾いた笑いで応酬しあっていた。


 手持ちの装備品を一向に撃ってこないことにどう思ったのか、軍事ヘリはミサイル攻撃をしてきた。

 すかさず、この2人の表情が変わるや射撃体勢に入り、いくつかの発射音が轟いた。

 軍事ヘリは自前のミサイルを誘爆という手段で墜落させられた。



 今度はブレーキ音が響いた。

 3台目は速度を落とし、ハンドルを切り返すや逆走して逃走することにした。


「そうは問屋がおろさないのですね~。聡子さん、アレを」

「さぁ、子供ドローンたち、アレを運んで車のタイヤに投げ込んでおくれ」


 白衣姿の金髪美人と、『女教師』というイメージにピッタリなこちらも金髪美人が協力し合って、ドローンは逃走車のタイヤに謎の液体の詰まったカプセルを投下した。

 液体は空気に触れるやモコモコの泡を作り出し、泡に持ち上げられた逃走車はまるで泥道にハマったかのように行くことも戻ることもかなわなかった。そして、このモコモコは底なし沼のようにゆっくりと沈んでいき、高級車を更なる拘束状態に陥らせた。

 皇太子たちは割ったフロントガラスから逃げ出し、泡の外側を滑るようにして脱出した。

 よほど慌てていたのだろう。

 着の身着のままの姿で、汗だくだくにして膝をついていた。

 安堵するのもつかの間、エペを帯刀する女剣士がそこにいた。

 かつてない疲労から満足に動けない皇太子をよそに、女剣士がエペを振るう。

 護衛2人の脳天にそれが命中し、護衛は懐に手を伸ばした状態で絶命した。


「ひいぃぃっ」


 道路にジョボジョボと黄色い水たまりを作った、情けない少年が助けを呼ぶ声も上げられず、かろうじて首を横に振るだけである。

 周りは破壊されまくった物の音と熱が取り囲んでいる。いや、バスの周りだけは無事だ。

 少年はそこに希望を見出して、生まれて初めて身を屈めた。

 頭を下げ、身体を盛大に振るわせた。


「ふむ。少年、顔を上げるといい」


 背中越しからでも遠慮のない剣士の殺気が急に和らいだかと思うと、そう呼びかけられた。

 少年と呼び捨てられて、条件反射から激昂とともに自分の名を名乗ろうとした少年は、目の前に立つ黄色いスーツの男に顔を殴られた。

 それは叱責のための遠慮した力加減などではなく、少年の口内からおびただしい出血とともにいくつかの歯が飛び出した。

 頭も多少揺れて、視点が定まらない。

 その瞬間、何かがいくつか少年の身体に触れたかのような感触があった。





 少年とはいえ、男の覇気を失った眼を見てもあまり奮い立たないな。

 ラノベや漫画ではレイプ目とか言うんだったけ? まぁ、いいか。

 少年の身元を聡子先生に照合してもらった結果、フラムドール王国の皇太子という検索結果が出た。

 さっき殴った際に抜き取った、パスポートや財布やいろいろな個人情報から得た。

 招待状も入っており、中身はエメラルド・シティに新しくできた超高級ホテルからのだった。

 うむ。

 これで当面の宿泊施設をゲットできたな。


「しかし、何だ。王族とはいえ、こんな10代の餓鬼がエメラルド・シティに何の用だ?」

「エメラルド・シティは、実に様々なことができるところのようです」

「さまざま、とな」

「ええ。クリスタル購入を皮切りに、臓器売買&人身売買や違法カジノ、青空強姦・快楽&猟奇殺人・人体実験といった他の国では非合法とされる一切合財のタブーが存在しません」

「クリスタル?」

「エメラルド・シティでは合成麻薬を指すようです」


 ふむぅ。

 何だかとんでもないところのようだ。しかし、イサカのあの言い方を良いように解釈するなら、対抗する力さえあれば何とかなりそうでもある。

 一応、このまま町に向かうかどうか、パートナーズ全員の意見を聞いてみることにした。


「ラムは王族の特権を利用して、するめジャーキーを注文するのニャ」

「わふー♪」


 猫獣人ラムと狼獣人ステアーはいつも通りか。


「何でもあり、とか面白そうだな。オレは賛成だ」

「ボクもこの剣がどこまで通じるか試してみたい」


 ダークエルフのベネリと女剣士のライカは何やら力試しを希望。


「ワシはお主とデートできれば問題ないぞい」

「いつも通りです」


 幼女のモナがそう言いつつ、人の腕に絡みつく。

 超万能執事イサカは、特に反対してこなかった。

 他のメンバーは泊まるホテルの施設に興味津々で、「ぜひ行ってみたい」と一言。


「よし、アンキモ。いざ行かん、エメラルド・シティ!」

「あいあいさー」


 そんなこんなで我々はエメラルド・シティへとお邪魔した。











 ん? 皇太子とな。

 彼は、簀巻きにしてバスの中に入れておいた。

 いざというときの保険として。

※赤井作品の用語&人名紹介※


◎バス

 赤井作品におけるバスと言えば『修羅学旅行』と『金と銀』である。

 前者は物理的衝撃を、後者は精神的衝撃を伴って、異世界に遭遇した。

 そう。

 赤井作品におけるバスとは、異世界への橋渡しなのである。

 ……というわけで、フェゴール一行もバスで日本からワープして、エメラルド・シティへとやってきたわけです。

 非日常への入り口がいきなり銃撃戦になったのは、日頃のカルマかなぁ。

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