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朝(2) オムニバス

① イサカとラム


「なー、なー、イサカ」

「何かしら、今日もお出かけ?」

「違うのニャ。カツトシのことニャ」

「もしかして、異性として気になるの?」

「そんなわけないニャ」


 イサカの質問に、手のひらをぶんぶん振り回して拒否するラム。

 イサカは相手の疑問が予想できず、小首をかしげた。


「どうしてカツトシの本名に対して、フェゴールは怒るのニャ」

「気になるのかしら?」

「気になったのニャ。だから、するめジャーキーが美味しくないのニャ」

「あらあら、それは大変ね。……決して、他の誰にも秘密を打ち明けないと約束できるかしら?」

「………………頑張るのニャ」

「長い沈黙が正直さを語っていて好感が持てるわね。でも、本当にフェゴール様の耳に入ると困るから、交換条件を出すわね」

「ニャ?」

「あなたのほかにもこの疑問が気になる仲間を、あと3人ほど見つけてくれば、私は話すわ」

「本当なのかニャ?」

「あら。私は一体誰かしら?」

「イサカなのニャ」

「……そういうことを言ってるわけじゃないの。まぁ、イイから、お仲間を集めるのよ」

「アイアイにゃー」


 ラムはビシッと敬礼を決めると、ブーンと飛行機になったつもりで両腕を広げつつ、他のパートナーズのところへと向かうのだった。



② 美咲刑事とゼニー警部


 ゼニー警部は昨晩、荒れていました。

 ルペンを最後の最後で取り逃がしたことがショックだったのです。

 それはゼニー警部が、泥門さんから特別に手配してもらった個室から伝わる書類の散らかる音、物が壁に叩き付けられる音からわかりました。

 ゼニー警部だって、人間なんだな、と思いました。そして、安心しました。

 それは、決して侮辱しているわけではありません。

 ただ、他人が何かと持ち上げる『ゼニー警部の犯人逮捕歴』は半ば伝説化しているところがあって、警察になりたての頃の同僚とのゼニー警部は完ぺき超人でした。

 ですから、初めてゼニー警部とお話したときなんか、極度の緊張から何度も噛んで、今思い出すたびに「ああああ!」って恥ずかしい気持ちでいっぱいになります。


「警部、起きてますか?」


 そんな私の気持ちはともかく、朝です。翌朝です。

 今日は、ルペンの犯行予告日です。

 飲酒をして無理やり寝ていたとしたら、寝過ごしてしまうことがあり得ます。

 だから、私はゼニー警部の部屋へと入ることにしました。


「ああ、美咲くんか。散らかっているが、気にせず入ってくれ」


 部屋の電気は点いていて、ゼニー警部は起きていました。いいえ、昨日と全く同じ格好で、目にくまが出来ています。一睡もしていない顔つきです。


「美咲くん、早速で悪いのだが、君の意見が聴いてみたい。このことなんだが、率直な意見を言ってくれると助かる」


 私の心配をよそに、ゼニー警部は手元の資料を渡し、バベルのミニチュアを見せてくれました。

 それは、犯行現場になるであろう階をピックアップした造りで、シークレットルビーの設置場所を中心に、警備の配置位置、逃走経路などが細かくシミュレートされています。


 私の率直な意見に、おごるでもなく大真面目に話を聞き届け、考え込む姿は、小さいころに私があこがれていた『ゼニー警部』と重なりました。

 ああ、やっぱり私、警部と一緒に仕事が出来て幸せです。



③ フェゴールとシグとベレッタ


「うしっ、白狼ユージ、ゲットだぜ!」


 美少女シグがUFОキャッチャーにて、ガッツポーズを決めている。

 そのフィギュアは、白く大きな狼だった。どこか神々しさも漂っていたが、まさか……な。


「今日は、大漁だぜ」


 そういうシグが、自分に戦果を披露した。

 他にも河童と化け猫と鴉天狗、人間の女の子がいた。


「カンタ、ミーコ、カラタロウ、ソーニャですぅ」

「詳しいな、ベレッタ」

「シグちゃんが教えてくれましたぁ」

「非常に詳しく、だろ」

「シグちゃんがマニアだと、ますたーは言いたいんですかぁ?」

「あの外見で、ヲタ知識が満載とか、人は見た目ではわからんな」

「その原因を作ったのは、ますたーですよ」

「え?」

「一時期、シグちゃんが思い悩んでいたことがありましたよね」

「ああ、ここのパートナーズのスペシャリスト性に悩んでたなぁ」

「そこでますたーは、自分にしかできないスペシャリストになるのも悪くない、って言ってましたよね」

「確かに、言ったなぁ」


 何だろう、ベレッタがにっこりとほほ笑んだ。どことなく安堵している風にも見える。

 その理由を聞いてみた。


「忘れたとか言ったら、吹っ飛ばそうと思ってましたけどぉ、杞憂に終わったから気が緩んだんだと思いますぅ」


 ちなみにベレッタ、見た目のちっこいメイドに反して、パンチ力はヘビー級である。

 何でも生前、言い寄って来る男どもを一撃で沈めるためだけにひたすら鍛えたらしい。その結果、肉体の筋肉量のなんちゃら法則を無視した必殺の一撃を会得した……とか。もっとも、相手が彼女を侮り、完全に相手の筋肉が弛緩しているときでない限り、効果は十全に発揮できないといっていたが。

 よく殴られ慣れている自分的には、用心している状態でもうっかり喰らったらかなり痛いです。

 その辺はもっと誇ってもいいですよ。


「よーし、人外大戦争版はコンプリートだ。次はヒロユキたちをコンプリートするぜ」


 自分とベレッタのやり取りをよそに、シグは次の標的を見定めていた。

 気弱な少年と、白髪頭のインテリヤクザ、戦闘マシーンを思わせる武闘派ヤクザ、狂犬っぽいチンピラが目立つところにドンッと置いてあった。


「ヒロユキ、ギンジ、カツミ、ガイですよ」


 詳しいなー。


「相棒ですもの。当然ですよぉ」


 仲よろしきことは、美しきことかな。

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