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ゴブ太、~ 正規軍入隊 ~の巻

 とあるパラレルワールドの、とある惑星にある、とある国に住む、小さなゴブリンのおはなし。


そう、オイラの事。


「いってらっしゃい、ゴブ太。がんばって手柄を立てるのよ」

「はい、母上。行って参ります」

「ああ・・・ゴブ太。うぅ。気をつけるのよっ…うぅぅっ。」

「ご心配なさらずに、母上。泣かないで下さい。オイラも辛くなっちゃいます…ぶびっ」

「あああ、ゴブ太」

「ぶばぁぁっ、かあああちゃあああん」


てな、感じで母ちゃんと別れて、オイラは遥々憧れの都、ティティポニンにやって来たのだ。

オイラの名前は、ジンバラン・ケルヒコックディベート・ラジャラムラテ・ササギビョールシンコデ・ラペロニーン・サブノイボ・ゴブゴブリオ・ゴブタリオンだ。


皆からはゴブ太って呼ばれてる。


名前が長いって?

これでも短いほうだと思うけど。

父ちゃんの名前も言おうか?

え?

いらないって?

あら、そうですか。


ちなみに、ノブオだ。


生まれ故郷のショキ村には、自警団しか無く、年功序列でイジメがひどいので、

ゴブリンなら誰でも一度は憧れる、緑の正規軍の入隊試験を受けるために来たのだが。

街が大きすぎて…


「ばかやろう! どこ見て歩いてやがんだ―――」うしろから大きく怒鳴られた。

どうやら、大男にぶつかったみたいだ。


よし、ここは一発、試しにこの男で…


「なんだぁ? あ? 誰に言ってんだ? おっさ―――」

振り返ると怒鳴っていた男は人混みの中へと吸い込まれて行った。


「……ありゃ?」


田舎と違い、人の流れの速さに目を見張るばかりだ。


「―――ふむ。ま、いいか。しっかし、広い街だな…」


見上げると、街の中央に、これから目指す大きな大聖堂が(そび)え、中心に向って道がまっすぐ伸びている。


道の脇には、焼き魚の煙を吐き出すパン屋や、カラフルな肉屋、果物を置いていない果物屋に、コーヒーの匂いがする紅茶屋、ニワトリが経営するたまごかけごはん屋……それっていいのかよ…。


と思ったら、豚が主人のトンカツ屋が隣にあった……いいのね。


色んな店先が軒を連ね、人通りは奥に進むと多くなっていった。



―――ゴブルッ ザッ、ザッ、ザッ… ゴブルルッ ザッ、ザッ、ザッ ―


「あれが、緑の正規軍か」

目の前を緑の甲冑で身を固めたゴブリンの足軽部隊が大聖堂に向って行進していた。


「くぅーっ、かっこいいなぁ~! この人達に付いて行けば、試験会場へ行けるだろか?」

オイラは、一番後ろの老ゴブリン兵の後ろを追って行った。


しばらく行進について行き、大聖堂横の噴水前まで来ると、大きな看板で 


【会場こっち】と書かれてあった。


「どっちだよ…」


そこで道は二手に分かれ、右に行くと大聖堂の正門に、左に行くと大聖堂の裏門に出る。


「試験会場は……どっちだろう…」

考えても判らないから左に進んだ。正規軍が居るから新人は裏だろうと。


大聖堂の横の林をぐるりと周ると裏門前に大勢の人やゴブリンやオーク、猫に犬、いのししに豚、エトセトラが、並んでいた。

「ラッキー! 当たってた。だはっ」長い列の一番後ろに並んだ。


どんな質問されるのかな~?


―――志望動機は? 

はい! 立派な侍になって我が国を助ける為でござります!

ふむ。どこの部隊に所属したいか? 

お国の為なら陸海空どこへでも赴く所存であります!

よし! 合格だ!


てな感じに行かないかな…。


2時間ほど並んで、やっと順番が廻って来た。

呼ばれて中に入っていくと数人まだドアの前で立って待っていた。

むさ苦しい長い髪のリュックを背負ったイノシシ男の後に並び、面接の反復練習を頭の中で始めると、

ドアの向こうから黄色い声が聞こえて来た。


「ありがとうございます~」「あ、応援してますっ! がんばってください!」

「はぁ~い。うふっ」「あ、ど、どうも」

「はい、じゃぁ下がって~出口はあちらです」

「はい、次のグループ入ってください」


あん? グループ面接か…?


中に入ると、イマイチ普通のゴブリン娘達が、満面の笑みで立っていた。


「はい、先頭の方からどうぞ~」

羊の男が声を掛けると、先頭のねずみ男はゴブリン娘達と握手をして、なにやら話し始めた。


「なんじゃこりゃ?」

外に飛び出してみるとそこには


【GBL48 握手会 ここ】


「なんじゃこりゃあああ!?」2回目。


会場間違えてた…「まじかよっ!」


おかしいな~と、途中から薄々は感じていたんだけど…。てか、看板見落としていたし…

リュック背負って、ゴブリン娘のうちわ持って、軍の面接に来てる割には、ヒョロっちいのばっかだと思ってたんだよ。

あのうちわが、面接必需品かと思って、もう少しで買いに走りそうだったのは内緒だが。


「やべー、こうしている場合じゃない」


林を駆け戻り、正門の方へと全速力で走った。

生まれて初めて、全速力でこんなにも長い距離を走れるんだと判った。

息が切れるかと思ったけど、正規軍に入る為と思えば、走り続けられた。

オイラが馬鹿だった。もっと早くに気が付けば…。

これで面接に間に合わなかったら、母ちゃんに合わす顔がねぇ。

エルフの様に華麗に走った。けど、無理だった。やっぱりドタドタ走った。


やっと正門が見えてくると、緑の鎧に身を包み、黄金の兜を被った大きなオークが目に入ってきた。


「止まれ! 何者だ? 何をそんなに急ぐ?」オークは両刃の槍で道を塞ぐと、見下ろしながら訊いてきた。

「はぁはぁ、め、面接に…み、はぁはぁ、緑の正規軍の、面接に来ました。はぁはぁ」

「ぬははは、そうか。なら、出直して来るがいい!」と言うと、オークは槍を翻し正門の方へと去って行った。

「ちょっ、ちょっと待ってください、どういうことですか?」

「もう、面接は終わっておる。見てみろ」オークはそう云うと広場を指差した。


大聖堂の前の広場では、様々な種族の面接通過者が、刀や鎧などの装備品を受け取っていた。


「うぐぐっ、間に合わなかったか…」

オイラは、その場に力なく座り込んだ。

「来年、また来い。ぬははは」

オークは一言そういうと笑いながら正門に向っていった。


オイラはしばらく考える事も出来ずに、広場が見渡せる小さな丘にいた。

ただ、ぼーっと装備品を受け取っている人の群れを眺めて居た。

熊男が慣れない手つきで甲冑を着込んで、刀を抜いて楽しそうに振っている。


「くそっ、オイラが着るはずだったのに…はぁ~」虚しさだけが込み上げてくる。


「これからどうしよう…家には帰れない…よな。

この街で働くか~…仕事あるのかな。はぁ~とりあえず、ハラ減ったなぁ~」


新兵達は整列して、先ほどのオークから何やら注意を受けているみたいだ。


「教官だったのか……あん?」

ふと目をやると、一人の老兵が離れたところで、未だに甲冑を着れずにもたついているのが見えた。


「あいつの鎧ぶんどってやろうか…」

腹が減って、まともな思考も出来なくなっていた。

この際、もう一年待つ位なら…あんな老人、一人なら余裕だろ。

そう思い、丘をゆっくり下り、何も云わずに後ろから老人の両肩に手を置き、甲冑を剥ぎ取ろうとした。


「おわわわわ…」


体は大きく宙に浮き、頭から叩き落された。


「もう一度ワシの背後から体を触ってみぃ。次は、お前の首は繋がっちゃおらんぞ」

老人は斧をオイラの首元にあて、馬乗りで云った。


オーイ、なんだよこの爺さん。ヤベーじゃねぇか。


「は、はい。ごっごめんなさい! 着るのを手伝おうと、お、思っただけで…」

「いらん! 一人で着れるわい」

老人はそう云うと、アッチ行けと手を振った。


「おい! 何してる貴様! 部外者はここから出ろ」


騒ぎに気が付いたさっきのオークに怒られた。

オイラは渋々諦め、母ちゃんから貰った潰れた残飯を拾い集め、その場を立ち去ろうとしたら


「う~っ!ぐぐぐっ。うがっ!がはっ。ごほっごほっ」

さっきのスーパー老人が血を吐きながらオイラの前に倒れこんだ。


「はい?」さっきまでピンピンしてたのに…オイラのこと、ふっ飛ばしてたじゃん!

猛烈な勢いで教官オークが走ってきた。


「またお前かっ! 何したお前? おいっ! 大丈夫か! しっかりしろ!」

「いあ、オイラは何も…」なんか、やばくね…?

「お~い! どうした?」もう一人の厳ついオークも老人に駆け寄ってきた。

老人は仰向けに起され、口から血を流している。

「ダメだ。死んでいる」

老人は力なくオークに身を預け目を見開いていた。

教官らしきオークがそっと老人の目を閉じた。


すると、オイラの方を見て、

「お前、ちょっと運ぶの手伝え」と老人を指差した。

「え? あ、はい」オイラは老人の足を持って、教官と建物の中に老人を運んだ。


大聖堂の奥にある、大きな扉を開け、安置所に老人を運び入れると、


「ここで、よかろう」

オークはそう云うと振り返りながら槍をオイラの胸に突きつけてきた。


「隊長を殺してまで正規軍に入りたいのか?」

「へ?」なんですって? あの人隊長? ちょ、濡れ衣ですって…

「いあ、オイラは何も…鎧を…」

「黙れ!」オークは叫ぶと、槍を振り上げた。


あああ、もうダメだ。殺される~。母ちゃん。ごめんよ~。


頭を抱えうずくまっていると、オークは血まみれの兜をオイラに投げた。


「お前が着ろ。今日から正規軍だ」

「ふぇ?」

「隊長を殺すゴブリンだ。誰も文句は言わん。明日からお前が隊長だ」


兜の内側には血反吐とタンがべったりこびり付いていた。


「なんじゃこりゃ…?」3回目。


少し経ってやっと意味が判った。


「あ、そう言うことか。やったああああああああああああああ」


母ちゃん、死ぬかと思ったけど、オイラなんとか正規軍になれました。

しかも、隊長です!

でも、ちょっと兜がくさいです。



この作品は更新は不定期です。


下記の作品を書き上げるまではこちらは息抜き程度で書きます。

執筆中の作品 ↓   ↓ 

http://ncode.syosetu.com/n0447bz/ 弓に魔法と月は蒼く

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