戦場とは
「くっ…どうしてこんな事に」
俺は辺りを見回して悪態をつく。
広い室内には、沢山の人間が転がっていた。
仰向けに倒れて、虚ろな目線を漂わせる者。うつ伏せになって、乾いた笑いを漏らす者。
横向きに寝そべり、ただ涙を零す者―――。
俺は、手に棒を持ち、壁を背に座っている。
額からは冷や汗が流れており、手は震えている。
「もう我慢出来ん!俺は行く!!」
Aが突然叫んで立ち上がる。俺はAの行動にぎょっとして慌てて止める。
「おい馬鹿やめろ!急に立ち上がったら―――」
「っ!!ぐああああっ!!」
Aはその場で叫んで、くずおれた。
「――――っ!Aぇえええええ!!」
Aは何も答えず、ただビクリと体を震わせている。
俺はそんな戦友の姿を見ていられなくて、視線を外す。
Aは馬鹿だ。無茶だった。Aの状態を良く知っている俺だから分かる。
先程のAの行動が如何に無謀であったかが…。
「フッ…A…逝ったか」
「B…」
俺の隣に来ていたBが暗い笑みを浮かべる。
Bは壁を支えに、ゆっくりと立ち上がる。
その顔は覚悟を決めており、彼が死を覚悟しているのがやすやすと分かった。
「B…!まさかお前!」
「すまんな。俺もいかせて貰う」
「おい馬鹿やめろっ!帰ってこれなくなるぞ!」
俺の言葉に、Bは以前見せていた優しい笑みを浮かべた。
暗い笑みではなく、本当に心からの、優しい微笑みだった。
「お前は、ここにいろ。犠牲は俺だけで十分だ」
「B…やめろ!B!」
「くっ…!うおおおおおっ!」
Bは敵に果敢にも向かって行った。しかし、敵の壁は厚く、
Bも帰ってこれなくなった。
俺はただひたすら涙を零す。
ここは戦場だ。
腰に重大な病状を抱える者が入院する腰痛病棟という名の戦場。
Aはトイレに行こうとして撃沈し、Bはジャムの蓋を開けられずに撃沈した。
俺は棒を支えにフラフラと戦友達の元へと向かう。
「ふっ…俺も、お前達だけに辛い思いはさせないぜ…。
俺ももうすぐ…お前らの元に…」
誰か助けて。