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夏生詩集2

ピエロ

作者: 夏生

詩ですが、長いです。ご容赦ください。

赤点の答案用紙と冷たい手を

コートのポケットに突っ込んで

白い息を吐きながら

クリスマス、クリスマスと

やかましい街を歩いていた


駅前広場にピエロが一人

ポツンと立っていた

誰も足を止めず、ピエロに

好奇の一瞥食わせて

通り過ぎていた


私は何故かピエロの前に立ち止まり

じっと見つめていた

青い目をしたピエロは人形のように

動かなかった


赤と白の縦じま模様、ヒラヒラなのか

ボロボロなのかわからない衣装を

纏って、濁流の中をひたすら耐える

石のように佇んでいた


通りすがりの誰かが

ピエロの前に開かれた鞄の中に

小銭を投げた

鞄の中には百円玉が数枚入っていた


私はピエロの隣に腰を下ろし

道行く人を眺めた

スキップしながらはしゃぐカップル

プレゼントを抱えたサラリーマン

ピエロに何やら悪態ついて、唾を吐いて

去ったおじさん

高そうなコートに高そうなバッグを

持って、不満そうな顔をしたおばさん


美人が通ると、声をかけて付きまとい

フラれてもまた、別の美人に声をかける

男の人たち


コンクリートと冷めた目と嘲りの声の中に

浸された毎日から、顔を上げた気分だった

世界は一つじゃなくて、人は様々だった


コートのポケットの中で握りしめた

赤点の答案用紙を思い出すと

私の知っている世界に引き戻されて

寒々しい気分に戻ってしまった


馬鹿、と直接言われなくても

馬鹿、と見られていることは

感じていた


馬鹿なりに必死なんだよ!

と、言ったところで誰も聞いていない

誰も見ていない


ため息は真っ白になって

眩しい街の中に消えていく


ピエロは私の隣に座っていた

俯いた私の顎をそっと触った


顔をあげると

涙がぽたりと落ちた

ピエロは真っ白な顔で微笑むと

私に缶コーヒーを差し出した


二人並んで座りながら

あたたかい缶コーヒーを飲んだ

甘く優しい味がした


国籍も立場も何もかも違う者同士が

微笑み合って、缶コーヒーを飲んでいる

傍から見たら、奇妙な二人だろう


非現実のような現実

私の世界にもこんなことが起きるのかと

不思議な気分はふんわりと

私を包み込んでくれた


お礼と挨拶程度の会話を交わすと

ピエロはどこかへ行ってしまった

どこかへ消えてしまったのだ


クリスマスになると思い出す

駅前広場へ行くと探していた


あなたの存在があの時の私にとって

最もやさしく不思議なものでした

と、英語で言えるようにしたが

未だに伝えられないでいる






















長いものをお読みくださいまして、ありがとうございます!

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