Don’t look at me
あぁ、どうか。
彼女がこちらを見ないように。
「……だからね。それでもやっぱり、好き、何だけど…」
「……あぁ」
何度目かになる。
この胸の痛みと優越感とのせめぎ合い。
「でもやっぱり、浮気は嫌で」
「……あぁ」
膝を抱えて丸くなる彼女に、喉まで出かかった言葉を飲み込む。
何度も浮気を繰り返す、そんな最低な彼氏。
――別れてしまえばいい。
「私が浮気相手の方だったりして…」
「それはないと思うがな」
憎らしいことに。
奴の態度を見るに、本命はちゃんと、目の前の俺の幼馴染。
現に幼馴染以外とは全く長続きしない。
「…魅力ないのかな…」
「そういう問題か?」
「どういう問題よ」
「相手の性格とか…性癖とか」
「…性癖」
そう呟いて黙りこむ幼馴染。
一体何を妄想しているのやら。
うつむいたままの幼馴染に苦笑する。
「いや、でも、うん」
脳内会議が終わった幼馴染はまたぽつぽつと話し始める。
「どんな性格だろうと、性癖だろうと、やっぱり、好き」
「好きか」
聞きなれた答えに、応えることはもう慣れた。
「うん」
「どんなアブノーマルな性癖でも」
「そこ主張するね」
「オトコノコなんでね」
うつむいたまま、幼馴染は肩を震わせて笑って。
俺も少し、笑い声を漏らす。
「うん、ありがとう。元気出てきた」
「それは何より」
「流石、私の幼馴染」
「お褒めにあずかりってやつだな」
隠し事はしない、と小さな頃に誓った幼馴染に、一つ、黙っていることがある。
子どもじみた、嫌がらせだ。
幼馴染の彼氏は、実は俺に嫉妬をしている。
こうして何かある度に、一番に頼られる俺に。
何の躊躇もなく、互いの家を行き来する関係に。
どうしようもない感情を、他に目をやることでごまかしているにすぎない。
そう、幼馴染を一番に思うならば、俺が少し、距離を置けばいいだけの事。
至極簡単な解答だ。
けれどそれはしない。
できない。
それが負け犬になった俺の、最後の抵抗。
信頼されていることへの優越感と、対象になりえない敗北感。
純粋に心配して、けれど同時に別れてしまえばいいと不幸を願う。
あぁ、きっと今、酷く醜い表情をしている。
だから、どうか。
もう少しだけ。
「信頼する幼馴染」の仮面を被り直す、その時まで。
彼女がこちらを見ないように…――
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