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7話 とりあえずナイフを買いました


 (前略)


 大通りに出ていろんな店を冷やかした結果ようやく武器屋にたどり着いた。

 入ってみると剣だとか槍だとかいろんな武器が所狭しと並べてあって目移りしてしまう。


「へぇ~、この剣なんかかっこいいな」


 手近な壁にかかっていた剣に手を伸ばそうとするが値段を見て驚愕した。金貨5枚………まじで?

 三井さんいわく、貨幣は銅貨が100円ほど、銅塊(コインより大きな塊、大きめのビー玉くらいのサイズ)が1000円といった感じで各貨幣の差はちょうど桁が二つ分になる。つまりこの剣は俺の所持金、銀貨5枚の100倍……5百万円に相当するわけだ。

 ちょっと高くありません?


「兄ちゃん、その剣買うのかい?」

「いや、ちょっと高くて手が出ないわ」


 不意に後ろから声をかけてきたのは店主らしきおっさん。筋骨隆々としてていかにも昔は荒くれ者だったぜ!みたいな空気を全身から醸し出している。ぶっちゃけ顔怖すぎて話しかけづらいんだけど。


「へぇ、そうかい。予算は?」

「銀貨で5枚。防具とかもちょっとほしいから出せても3枚かな?」


 防具の相場はわかんないけど攻撃に重点を置きたい俺としてはまぁ武器に金をかけたい。攻撃は最大の防御。一撃で敵を殺せば反撃はないしね。


「銀貨で3枚?それじゃあ武器なんて買えねえよ」

「え、マジっすか?」

「そりゃあ、ナイフだってそれなりのもん買えば銀貨で1枚はする、いいもんならそれこそ銀貨5枚なんてあっという間だ」


 それはちょっと予想外だな。さすがに刃渡りが10センチ程度のナイフでボア(ってことは猪か?)やベアー(これは熊だろ)が出る森には入りたくない。


「なんかサービス品とかありません?」

「兄ちゃんがいっぱしの使い手だったら後払いでもいいから売ってやるとこだが、見たところ腕も大したことなさそうだからな」


 まぁたしかに俺は剣も振ったことのない素人だけど、見ただけでわかるもんなんだな。戦いが多い世界では相手の力量を見極める眼力ってのも重要なんだな。

 にしても、このままだと本気で危ないなぁ。自衛手段がないんじゃ仕事ができない。


「なんとかなりませんか?今日から冒険者になるんですけど、死にたくないんですよ」


 こっちは命がかかってる以上情けないとかダサいってのは二の次だ、なりふりなんて構ってられない。

 こっちの必至そうな形相に反して武器屋のおっさんもあくまで商売だ。俺のこともたんなる客の一人としか見ていない。


「だめだめ、いくら言ったところで金がないんじゃ剣は売れない。おとなしくそこら辺のナイフから選ぶんだな。そこなら高くても一本銀貨2枚だから」


 そう言っておっさんが指差したあたりにはナイフがずらりと並んでいる。驚きなのはミミズがのたうったような文字にもかかわらず俺にはその意味や内容が理解できるってところだ。たぶん召喚されたときになんか特別な処置がなされたんだろう。


「はぁ……」


 これ以上ごねたところでどうしようもないのだろう。さすがに昨日のギルドのときほど粘ったところで今回の場合事態は好転しないだろう。まぁ、昨日も事態が好転したわけじゃないんだけど。

 とにもかくにも何も持たないで危険なところに行くわけにはいかない。この中でもいくらかましなもんを選ばないことにはどうしようもない。


「ん?」


 何気なく見た何本もあるナイフの中で俺の目を引いたのは刃渡りが30センチほどあるナイフというよりはなたに近いそれだった。剣というにははるかに短く、ナイフというには少し長い。刃渡り10~20センチのナイフの中でそれは奇妙な存在感を醸し出していた。


「おっさん、これもナイフなのか?」

「ん?あぁ、そいつはちょいと長いが剣っていうには短いからな。緑色の宝石がついてたし、風属性の属性付加のもんかと思ったがそうでもないらしい」


 おっさんの言うとおり柄と刃の間に一つの緑色の宝石が埋め込まれている。装飾がほとんどなされていないナイフなのにそこだけは妙に飾り気があった。

 値段も銀貨1枚に銅塊8つとそこまで高くはない。属性付加ってのはたぶん相当便利になるんだろうが、それがなくても刃渡りが30センチあるのは短いナイフの中ではかなり魅力的だ。


「ふぅ~ん。まぁいいや、これをおくれ」

「あいよ、銀貨1枚に銅塊……えぇ~い特別だ、銅塊は5つでいい」

「マジで!?いいのおっさん」

「あぁ、さすがに銀貨1枚とか金貨1枚くらいの値引きはできねえが、銅塊3つくらいならお前さんの冒険者になった記念ってことでサービスしてやら」


 やばい、この世界に来てからめちゃめちゃいい人に出会いやすい。三井さんしかりアリアさんしかり。このおっさんもマジでいい人だ。金を稼げるようになっても武器はここで買うようにしよう。


「あんがとおっさん!ほんと助かるよ」

「おぅ、いい冒険者になんな兄ちゃん」


 ついでに胸の部分にだけ鉄製の板がある皮の胸当てと森の中でも歩きやすいようにとおっさんが太鼓判を押したブーツを一緒に買った。しめて銀貨3枚に銅塊7つ。ほんとは端数もあったんだがおっさんはそこもサービスしてくれた。おっさんマジ親切。

 こうして形だけでも冒険者っぽい格好になった俺は冒険者ギルドに向かうのだった。


 うん、これで死なないといいんだけど……




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