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5話 不本意ながら冒険者になりました

 俺の名前は(後略)。勇者……らしい。ちなみに本名。

 求職のためにギルドの案内所を訪ねたところ閉鎖していたのでさぁ大変。

 宿屋とかの下働きの為には何ギルドに行けばいいんだろうか……


「考えても仕方ないし、適当に行くか」


 人生なるようになる。時に思い切った行動が思わぬ成果をもたらすのはよくある話だ。

 一人でうなづいていると周りの人の視線が痛いからさっさと行こう。

 俺はとりあえず最寄りのギルドがあるらしい建物に向かうのだった。




 さて、やってまいりましたギルドです。案の定人が居ません。ここも閉鎖してるのかと思ったらカウンターの向こうに人はいるらしい。下働きの斡旋をしてるギルドはどこか聞いてみるとしよう。


「あの、すいません」

「?あぁ、はいはい。パレードも見ないでギルドに来るなんて物好きね」


 なんでいきなり毒づかれなきゃいけないんだ?さもめんどくさそうに対応するのはやめてほしい。

 お姉さん美人なんだからそんな顔しないで……ぶっちゃけ怖いです。


「で?」

「はい?」


 いや、いきなり「で?」とか言われても何にも出来ないんですが。


「はい?じゃなくてギルドカード出しなさいよ」

「持ってないんですけど……」

「えぇ~登録なの?もうめんどくさいわねぇ」

「いや、そうじゃなくて……」


 お姉さんは人の話も聞かないでカウンターの下に潜り込んでがさごそと何かを探しているようだ。


「じゃあはい、このカードに血ぃ垂らして」

「いやだから……」


 お姉さんはそう言って何かの金属でできたような板とナイフをカウンターに置いた。ていうか、話を聞け。


「もぅ、ただでさえめんどくさいんだから早くしてよ」

「っちょ!?」


 お姉さんはじれったそうに俺の手を掴むとナイフで指先に小さく傷をつける。ちくりとした痛みを伴い俺の血が一滴だけ板に落ちる。


「はいかんりょー。明日には手続きも終わるから取りに来るように。わかったら帰んな」

「だから、俺はギルドに入りに来たんじゃないんだよ」

「は?」


 ようやく要件を切り出せそうになったところでお姉さんは美人だが呆けたようにあんぐりと口を開けた。美人の間抜けな面ってのは初めて見たが、美人はどんな顔しても美人だ。


「ここって宿屋とかの下働きの斡旋してますか?」

「いやしてないよ。だってここ冒険者ギルドだし」

「じゃあ、下働きの斡旋をしてるのはどこのギルドですか?」

「一般労働ギルドだけど……」

「どこにあるんですか?」


 先ほどまでと違い、どうにもお姉さんの歯切れが悪くなった。なんだか気まずそうな顔をしてるがどうしたんだろう。


「……あんたそこに行ってどうするつもり?」

「いや、とりあえずそういった仕事から始めてみようと思いまして」


 いきなり異世界に召喚された勇者が下働きを始めるとかって言いたくはない。詳しい説明は省きたいところだ。なにせ勇者だからな、情けないところはできるだけ隠しておきたい。


「………………………」

「どうしたんですか?」

「……いや、悪いけどあんた一般労働ギルドには入れないよ」

「は?な、なんでですか?」


 あれか?勇者はそんな情けない仕事をしてはいけないと法律で決まっているのか?

 いや、お姉さんには俺が勇者だと説明してないし……服を見ればそれっぽいとはわかるのか?

 もうなんでもいいけど、それは困る。


「だってあんた冒険者ギルドに登録されちゃったもん」

「へ?」


 なぜ?why?何故?

 そんな書類とかにサインした覚えは一切ないんですが。


「さっき血を垂らしたカードがギルドカードなんだけど、あれってどこのギルドとも情報の共有がされてるんだよね。だからどこかのギルドに登録したら、別のギルドでは登録できないの」

「なんでですか!?別にいいじゃないですか!」

「まぁ規則だからしょうがないってやつよ。一応半年たったらギルドは脱退できるようになるからそれまでの辛抱ってやつね」


 それまでに生活費が底ついて死にますって……働こうとしても冒険者の仕事でも死ねるっぽいし。

 餓死するかそれ以外の死に方か……ある意味究極の選択だな。


「そうだ!だったらそのギルドカードを提出しなければいいじゃないですか。お姉さんがそれを登録しなければ……」

「あぁ、それは無理。登録自体は血液登録した瞬間に魔法で自動的に実行されるからもう手遅れ。明日までかかるのは書類上の事務仕事があるからだし」


 ……どうしようもねえな。完全に退路断たれたか?いや、まだどっかに抜け道があるはずだ。


「だったら、お姉さんのミスなんだからその辺無効にしてくださいよ」

「無理無理、私にそんな権限ないから」

「せめて上に掛け合ってくださいよ。こっちには命かかってんですから」


 こっちはマジで、命がけだ。今後の人生すべてが今この瞬間にかかってると言っても過言じゃないだろう。


「無理だっつの。人間諦めが肝心なんだ、あきらめな」


 いや、俺はあきらめない。あきらめたらそこで試合終了だと偉大な先生が言っていたんだ。

 俺は絶対あきらめない。




・・・


・・・・・


・・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・



 結論から言おう、俺は冒険者になった。というか、ならざるをえなかった。

 午後一番に向かって、ギルドの事務受付の終業時間まで実に6時間以上の激論を乗り越え、ついにはギルドマスターが出張ってくる事態に発展。各方面にさんざん確認作業や、全ギルドの基本的なルールなんかを決めるギルド議会とかいうやつにまでご厄介をかけました。その結果がこれだ。

 もはや、神のいたずらと言う他にないんじゃないだろうか?普通ここまで来たら下働きぐらいならいいだろうってな感じで取り消しはなくても特例として一般労働ギルドが使えたりするんじゃないだろうか?

 でもダメなんだそうだ。クレーマーも真っ青なクレーム、激論を乗り越えたがやっぱりどうしようもなかったそうな……


 神様はいない、きっといない。

 だっていたら俺に意地悪しすぎだもん。



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