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3話 ものすごくいい人に出会いました

 俺の名前は獅子王ガイ、勇気ある(後略)。普通の高校生だった。ちなみに本名。

 ばるなんちゃらの勇者になり損ねた俺は、ただの元高校生だ。

 さて、ここで問題が一つ。俺はいったいなにをすればいいのだろうか。


「いや、どうしたもんか」


 城から放り出されてからとりあえず再び大通りに戻ってきた。いつの間にか店は開き、商人たちが活発に声を上げている様はまさに昭和の商店街。いや、江戸時代の城下町くらいにしておこう。

 当てもなくさまよったところでなにができるわけでもないが、当てがない以上は当てがなくさまようほかにやることがない。さっきばるなんちゃらの勇者になれていればこんな悩みはなかったんだろうけど今更悔やんだところでどうしようもない。


「お、やっと見つけた」

「ん?」


 どこかで聞いたような声に振り返ってみると先ほどの鎧をいくらか軽装備にした三井が立っていた。よくもまぁぬけぬけと俺の前に顔だせたなぁ!と、襟首ひっつかむほど恨みはないが、やっぱりちょっとばかりの恨みはある。


「時間はある?よければ同郷みたいだし話がしたいんだけど」


 えぇ、まぁおかげさまで時間は有り余ってますが。まぁいいだろ、こっちもいろいろ情報がほしいし突っぱねる必要はないな。


「えぇ、大丈夫です」

「そっか、じゃあそこの料理屋にでも入ろう。あ、金はこっちが出すから安心していいよ」


 さすがにこの世界に来た先輩?なだけあって俺の状況は分かっているのだろう。いい加減腹が減っていた俺は喜んで三井の後について行った。




 手早く注文を終えて俺たちは向かい合う形で座った。料理名から中身が想像できないから、食いたいものを三井に伝えてそれから三井が選ぶって形をとった。ありがとう三井。


「まずは自己紹介かな?俺は三井 純。W大学教育の2年、一浪したから年齢は21」

「獅子王ガイ、高3、17です」

「え!?獅子王ガイって、ライオンの獅子に王様の王で獅子王?」

「そうです」


 なんか妙に食いつくな……ヲタクだなこの人。高校でもこんな人何人かいたよ。


「ご想像の通り、あの勇者王の主人公と同姓同名です」

「すっげー!獅子王なんて名字あるんだね。まさに勇者になるべくして勇者になったって感じじゃん」

「はぁ……」


 たしかに、勇者になるべくしてって感は少しばかりはあるが、今の俺は勇者って言えるのか?


「いやぁ、うらやましいよそんな名前」


 こっちとしては厨二くさくて嫌な名前なんだがな。


「っと。話が脱線したね。獅子王君はいつこの世界へ?」

「ガイでいいですよ。獅子王って言いにくいでしょ?」

「そっか、わかった。で、ガイ君はいつ来たの?」

「昨日です」

「昨日!?そのわりにはずいぶん落ち着いてるね」


 ぶっちゃけ、落ち着いているっていうよりもあきらめてるって感の方が強いけど。


「俺の場合、なるようになる。ってのが座右の銘なんでこうなった以上はここで生活するんだなくらいにしか思ってませんよ。落ち着いてるっていうなら、三井さんも同じだったんじゃないですか?」

「あ、わかる?まぁ俺の場合は来たばっかりのころは興奮が収まらなかったけどね」


 わかりますとも。あんたは絶対ヲタクだからこの状況になったら狂喜乱舞するにきまってる。


「でも、昨日来たばっかりだったら、この世界のことはなにもわからないよね」

「まぁそれは」

「んじゃ、説明はそこからだね」


 三井さんの通うW大学、学力が高いうえに彼は教師を目指しているだけあって説明は非常にわかりやすかった。

 三井さんいわく、この世界は国家間の戦争が頻発しているため、人材が不足しがちなため召喚の魔法を用いて異世界から勇者を召喚するそうだ。また、この世界には魔物や魔王といわれる存在がいるので、勇者の中にはその魔王や魔物と戦うために召喚された人間もいる。

 召喚魔法自体は一方通行のため元の世界に戻る方法は今のところ確立していない、そのため召喚された勇者はこの世界で生きるために様々な職に就いている。軒並み地球にいたころよりも身体能力などが向上したり、この世界では上級といわれる魔法を簡単に扱えるようになる人間が居たりする。基本的には隠れた才能が開花するようなものなので戦闘向きでない人間もいるが、様々な分野で活躍しているそうだ。などなど要約するとそんなもんだ。


「まぁ、俺の場合は冒険者ギルドで1年くらい活動してたらバルデンフェルトにスカウトされたって感じかな」


 なんとなくこの世界はVRMMOのようなものだと理解できた。問題は俺がそのVRMMOをやったことがないという点にある。どうするればいいのか方針が立てづらい。


「三井さんのコネでそのばるなんちゃらの勇者にはなれませんかね?」

「いやぁ、俺もバルデンフェルトの勇者団の中じゃあそこまで優秀じゃないし入ってから1年も経ってないしね。さすがにそこまでできる権限はないな」


 ふむ、やはりばるなんちゃらの勇者になるのはむずかしいようだ。


「とりあえずは、三井さんみたいに冒険者ギルドで活動するっていうのが一番現実的ですか?」

「ん~、ガイ君の能力がどんなものになるのかわからないからいきなり冒険者ギルドってのは考え物だね。能力がわかったらそれに見合った職に就くのが一番現実的だよ。基本的に能力が開花したらこの世界では超一流って言われるくらいの実力になる人間も少なくないしね」


 確かに、自分の才能が戦闘向けじゃなくて料理人とかだったら簡単に死ねるな。


「その能力はどうやってわかるんですか?」

「ちょっとわかんないんだよね。俺の場合、こんな世界に入ったら冒険しかない。って思って冒険者ギルドに入ったからね。たまたま能力が身体能力アップみたいな感じだったからそれが幸いしたけど」


 わからないんだったら、当面はどうしようもないな。金を稼がなければどうしようもないが、そのために死ぬような思いもしたくない。


「とりあえずは、どっかの店で下働きでもしながら自分の能力がどんなものか調べるのが一番無難だと思うよ。料理屋でも宿屋でも少なくとも死ぬような心配もないし」

「……そうですか」


 異世界にきてアルバイトかよ。なんか泣けてくる。勇者なのに……

 でも死ぬのは勘弁してほしい。

 ここで少し沈黙が訪れ、俺たち二人は話の途中で運ばれてきた料理を無言のまま口にした。

 俺は三井さんに注文してもらったベルフィというリゾット風のものをぐちゃぐちゃとかき混ぜながら思考にふける。


「まぁ、考えていても埒はあかないし食べ終わったらギルドの相談所にでも行くんだね。場所はその辺の人に適当に聞けばすぐわかるだろうから」


 言いながら三井さんは立ち上がった。「それとこれは餞別だよ」と言って銀色のコインを5枚テーブルの上に置く。先ほど聞いた貨幣の銀貨だろう。三井さんいわく1枚で10000円に相当するらしい。


「こんなに!?いいんですか?」

「はは、何をはじめるにしても多少のお金はいるよ。下働きするにしても給金が入るのはしばらく後だしね。それまでの生活費にすればしばらく生活には困らないはずだから。これでも国家専属の勇者ってのは給料がいいから気にしなくていいよ」

「ありがとうございます」


 俺は三井さんに頭を下げて銀貨を受け取った。今日まで見ず知らずだった相手からこんな大金を受け取るのはさすがに迷うところだが、無一文では人間生きていけない。


「じゃあ、俺はそろそろ休憩時間も終わるし行くから。言った通り代金は払っておくから安心してね」


 三井さんはそう言い残すと手を振って料理屋を後にした。

 まじでこの世界でこんないい人に会えてよかった。何も知らないままだったらいきなり死亡フラグ経ってたしな。

 さっきまで勇者になれない原因になったなんて恨んでいたのは本当に申し訳なく思えるほどにいい人だ。金が稼げるようになったらぜひとも返しに行かなくてはいけない。

 俺は店を出て行った三井さんにもう一度頭を下げるとベルフィ風のリゾット……ではなくベルフィというリゾット風のものを口にした。


 案外うまいなこれ。





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