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30話 捕まってた人は意外と多いみたいです

 傷口から血が流れ、口元も血で汚れて、いい加減出血多量でやばい感じがするけど、そんなことは今は置いておいていい。

 ジエンロにヴァンヘルトをつきつけながら俺は口を開いた。


「プリルはどこだ?」


 鎧の男が負けるなんて思ってもみなかったんだろう。ジエンロは無様に這いつくばり、失禁しながら俺から逃げようしている。

 入り口側に立っている俺から逃げられるはずもないのにジエンロは後ろに逃げていき、壁にぶつかって動きを止めた。


「ひ、ひぃぃ……命だけは、命だけはぁぁ」

「うるさい、プリルはどこだって聞いてるんだよ!」


 腰を抜かしているのか立とうとしないジエンロの眼前にヴァンヘルトの切っ先をつきつけ、俺は声を荒げた。


「と、隣の部屋でお、檻に入れてあります……」

「檻だと?」

「ひぃぃご、ごめんなさい。すぐに出しますから命だけはご勘弁を」


 俺は無理やりにジエンロを立たせると剣をつきつけたまま歩かせる。

 この屋敷に入ってから倒した相手は8人だ。まだ最低でも2人はいるはず。今の俺の状況で二人の相手をするのは若干きついものがあるし、こいつを人質にすればそうそう手は出されないだろう。


「……プリル」


 檻の中で両手足を鎖でつながれ眠っているのか動こうとしないプリルに俺は駆け寄った。

 衰弱しているのか怪我らしい怪我は見当たらないが目を覚ます気配はない。


「おい、さっさと開けろ」


 ヴァンヘルトをつきつけてジエンロをせかすと檻から出されたプリルを抱き上げる。


「あ、やば……」


 抱き上げた時にプリルの服を俺の血で汚してしまった。これは後で謝らないとまずいな。


「二度とプリルに手を出すなよ?次はお前も容赦しない……」

「は、はいぃぃぃ」


 ヴァンヘルトをつきつけながらドスを聞かせてジエンロに囁きかける。またこんな目にあったらプリルの心に消えない傷跡が残ってしまうだろう。絶対こんなことが再び起こるような事態は避けたい。


「屋敷にはあとどれだけの人間がいるんだ?」

「え?」

「え?じゃない。この屋敷にはプリル以外にもお前らがさらった亜人や人間がいるんだろ?それ以外にも屋敷の護衛だってまだ残ってるはずだ」


 少なくともプリル一人がさらわれた亜人ってことはないだろう。今までにさらわれて奴隷として売られてしまった人間まで救おうとは思わないが、今目の前にいる被害者ぐらいは助けたっていいはずだ。

 偽善って言われるだろうけど、偽善でも助けられた相手からすれば単なる善だ。それにプリルを傷つけたジエンロにはそれ相応の罰を与えないと気が済まない。


「ど、奴隷は下の階に10人ほど……護衛は1階に3人、2階に6人で全てです」


 1階で倒したのは広間にいた二人、2階では階段を上った直後の3人に扉の前の2人に鎧の男で6人。護衛は後1人か。

 聞いていた情報より少ないのはラッキーだろう。だけど、今の状態で相手をするのは厳しいな。


「よし、1階に行くぞ」

「へ!?」

「1階のお前がさらった連中も解放してもらう。それぐらいはしてもらわないとな」

「そ、それはご勘弁を……」

「別にお前の命で罰を与えたっていいんだぞ?」

「ひぃぃ、わ、わかりましたぁ」


 ジエンロは慌てて部屋を飛び出した。言われた通りにさらった亜人たちを解放しに行ったんだろう。

 俺はヴァンヘルトを片手にプリルももう片方の手で抱きかかえながら部屋を出た。







「ジエンロ様、どういうことですか!?」


 突然、亜人たちを解放しだしたジエンロを前にして亜人たちの管理部屋を警備していた男が抗議の声を上げる。


「うるさい!こっちは命がかかってるんだ!」


 ジエンロは血眼になって亜人たちの檻を開け、手枷や足枷を外していく。

 いや、うんジエンロさん顔が怖いです。いくら俺が脅したからってそんなぶよぶよの顔をさらにぐちゃぐちゃにしてげへげへは言ってないけどそんな感じでかわいらしい少女に近寄っていく姿は完全に変質者です。

 突然檻から出された亜人たちはキョトンとしているけど次第に解放されたことが分かったのか表情に歓喜の色が浮かんでいく。うん、助けてよかったと思える。


「もうどこへでも行け!」


 すべての亜人、というか亜人は3人だけで他の捕まっていた人間は人族だったけど、を前にしてジエンロは言った。涙流してるけど自業自得だな。悪銭身につかずはちょっと違うけど似たようなもんか……

 あたふたとしている警備の男をしり目に俺は部屋に入ると捕まっていた人たちの前に立つ。


「一応、確認するけど行くあてはある?」


 突然自分たちの前に立った俺が誰なのかって顔をしてるけど、それはまぁ置いておこう。せっかく解放してあげたのにまた捕まったりしたら目も当てられない。

 少なくとも偽善であろうが尻拭いくらいはしないといけないだろう。


「あぁ、一応君らを解放するようにそこの豚に言ったのは俺なんだ。本当は俺の妹分のこの子を助けるだけのつもりだったんだけどそのついでにね」


 プリルを抱いている俺にようやく事態が呑み込めつつあるのか捕まっていた人たちはお互いを見合ってから俺の方を見る。


「あの……私たちはどうなるんですか?」


 人族の少女いや、女性かな?たぶん15か16歳ぐらいだろう。が一歩前に出て聞いてきた。そりゃ、ついでとは言ったけど警戒されて当然かな。


「別にどうもしないよ。この街に家があるなら帰ればいい。借金のかたに売られたとかだったら帰りづらいかもしれないけど帰る場所が近いなら帰るといい。少なくとも、こいつが君たちに手を出すことは2度とないはずだから。もしもこいつに何かされたんなら東のはずれに俺の家があるからそこを訪ねるといい。なんだったら冒険者のギルドに登録してるからそこで話をしてもらえれば俺が直接行くから」


 俺は人族の捕まっていた人たちにはそう言った。たぶん隣の国から売られてきたなんて話はないと思う。それだったらわざわざこの街で奴隷として売る理由が見当たらない。

 少なくとも近くの村だとかそんなレベルなんじゃないだろうか。


「あと、人族以外の君らはどうする?この街に住んでるわけじゃないでしょ?どっか別の国に行くとかってんならちょっと難しいけど自分の里に帰るくらいだったら送っていくよ。まぁさすがに村についたら食費なんかの旅費くらいは払ってもらうけど」


 捕まっていた亜人の人たちは俺の言葉を聞いて驚いたみたいだ。

 まぁ、売れば金になると言われている(実感ないけど)亜人をほぼ無償で里まで帰してやるなんて普通はないだろう。

 でも、これは偽善を働いた俺に対する尻拭いだ。そんなこともしないんなら助けるべきじゃない。


「まぁ、今日はもう遅いし帰る場所が遠い人はうちにくるといい。そこで詳しい話は聞けるから。帰る家がこの街にあるんなら早く家に帰って家族を安心させてあげるといい。なにか心配事があるなら、さっきも言った通り東のはずれに俺の家があるからそこに来るといい」


 俺は自分の言いたいことを言うと部屋を後にした。いい加減血も止まらないし早く帰らないとまずいかもしれない。

 幸い、警備していた男はジエンロを問い詰めるのに必死みたいだから俺の方には見向きもしない。



 呆然自失のジエンロを残して俺は寂れた屋敷を出た。

 空の左右には月が浮かび、空一面を星が輝いている。改めて思うけどこの世界の夜空はなかなかきれいだ。血だらけの俺の後をぞろぞろと10人くらいの男女がついてくる光景ははたから見たら異様な光景だろう。


「ガイ!」

「クレイ様!」


 外に出てすぐ、慌てた様子のアリアと血だらけの俺を無視してレナがスクルドに駆け寄ってきた。

 あぁ、これでもう安心だな。プリルをアリアに預けた直後、俺は意識を手放した。


 なんか最近、気を失ってばっかりだな




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