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27話 情報屋に気に入られたみたいです

「プリルがさらわれた!?あんた何やってんのよ!」


 息を切らせてギルドに駆け込んだ俺をアリアが怒鳴りつける。怒りたい気持ちはよくわかる、俺だってプリルに何かがあったらと考えるだけで自分を殴ってやりたいが、今はそんな後悔をしている時間すら惜しい。

 詳しい話をするとアリアは難しい顔をして頷く。


「あの店ね……私も早退してプリルを探すわ。いったん家に戻ってレナにも伝える。あんたはとにかく探し回りなさい」


 そう言いながら手早くメモ用紙になにかを書留め俺に手渡してくる。


「これは?」

「私にわかる情報屋の名前とかよ。奴隷なんかは情報屋が奴隷商なんかから情報を買って仕入れ情報なんかを顧客に流すの」

「なんでそんなこと……」

「冒険者にも奴隷を買ったり売ったりする人間はいるもの。10年も働いてればそれぐらいのことはわかるわ」


 俺はうなづいてメモ帳に書かれたことに目を通す。何人かの情報屋の名前、特徴とどこらを縄張りにしているかが書かれているそれを握りしめると俺は冒険者ギルドを飛び出した。

 まず最初にアリアを頼ってよかった。この情報があればプリルを見つけられるかもしれない。

 なんとしても一刻も早くプリルを見つけ出さなくちゃいけない。こうやって俺が走ってる間も彼女は恐怖に震えているかもしれないんだ。


「マスター!あたし今日早退するから!」

「ちょ、アリアくんどうしたの!?」


 背後からはアリアさんの怒鳴り声と焦った様子のギルドマスターの声が聞こえたが、今はそんなことどうでもよかった。






 俺はギルドの近くを縄張りとする情報屋を3人ほど会ってから、プリルがさらわれた料理屋から最も近い場所を縄張りにしている情報屋を探していた。

 今までの3人はどいつもこいつも情報屋と言うくせに大した情報は持っておらず、空振りが続いていたのだが、最後の一人がここらを縄張りにする中で最も多くの情報を有するという話をしてきた。

 最後の情報屋の話通りに言われた場所を探してみるが、どこを探しても情報屋らしい人物は見当たらない。道行く人や近くの露店の主人に話を聞いてみるが一向に見つかる気配はなかった。

 不意に目に入ったのは人通りの少ない怪しげな細い路地。案外こういったそれっぽい場所に情報屋はいるかもしれない。俺は早足で路地を通る。


「お兄さん、俺を探してるのかい?」

「!?」


 突然気配も何もない場所から声が聞こえた。走るような速さで動かされていた足を止め意識を集中するがどこにも声の主の気配は感じられない。


「どこだ、どこにいる!?」

「俺ならここにいるじゃないか……」


 俺の背後にある建物の陰からそいつは姿を現した。軽薄そうな顔、バンダナ、小さいメガネ。アリアに渡されたメモに書かれた情報そのままの男だ。こいつが情報屋のウィルで間違いない。


「そんな鬼気迫るような様子で俺を探すなんていったい何の用だ?」

「情報を買いたい。今日、鬼人の少女がどっかの奴隷商かなにかに誘拐された」

「あぁ、あの件ね。どうしたのお兄さん?あの子を買う気かい?」


 俺はウィルのゆっくりとした動きに焦り、ウィルの言葉と人を食った態度への怒りからヴァンヘルトを抜き放ちウィルの喉元につきつける。


「どうでもいい。知っている情報を教えろ!」

「ふぅ……お兄さん焦りすぎだよ。情報屋に武器を向けるなんてルール違反もいいところだ」


 後ほんの少し動かすだけで首を斬られるかもしれないというのにウィルの表情や声色には恐怖もなにも見られなかった。

 気配の殺し方と言いかなりの実力者なのかもしれない。


「まぁ、情報を買うのは初めて見たいだし今回は見逃すよ。次にこんなことをするならあんたに情報は一切売らないし、情報屋としてあんたに報復させてもらうからそのつもりでね」

「……わかった。とにかく急いでるんだ。頼む、知っている情報を教えてくれ」


 俺は一介の情報屋と言うにはすさまじいウィルの気迫に押されヴァンヘルトを引いた。ヴァンヘルトを鞘に納めながら一度深呼吸をしてポケットから財布を取りだしウィルに放った。


「金貨5枚は入ってる。それで足りないなら必ず後で払うから先に情報を売ってくれ」

「おいぉい、常連ならいざ知らず、初めての取引でそんな言葉を信用しろって言うのかよ」

「どうせ俺の情報も知ってるんだろ?これでも新米の冒険者とは思えないほどの成果は残してるつもりだ」


 賞金がかけられていたアースベアーの討伐に迷宮でワイバーンを倒したこと。数多くの宝を集めかなりの金を得たことはギルド内でもある程度までは広まっている。情報屋を名乗るなら、それぐらいは知っているはずだ。


「はっはっは、確かにあんたは新人っていうにはちょいと活躍しすぎだよな。そんなあんたを知らないなんて言ったら情報屋の名折れだ。なぁ?獅子王ガイ」

「わかってるならいいだろ。冒険者ギルドをはろうが、俺の家まで取り立てに来ようが好きにすればいい。金は必ず払う」

「くっくっく……安心しな。冗談だよ。ちょっとあんたをからかっただけさ。代金は金貨で1枚で十分だよ」


 言いながらウィルは俺の財布から金貨を1枚取り出しすと、財布を俺に放り返す。


「よければこれからも情報は俺から買いな。これでもこの街で一番の情報屋だって自負はある。俺はあんたが気に入ったぜ?」

「そんなことはどうでもいい。プリルはどこの誰に誘拐されてどこにいるんだ!?」

「まぁ、焦るなよ。売りに出されるのは間違いなく明日以降だ。今日中にどうにかって話にはならないからよ」


 ウィルが何と言おうがそんなことは関係ない。重要なのはプリルが怖い思いをしていること言うことだ。なんとしても早く救い出さないといけない。絶対に、絶対にだ。彼女が奴隷になることなんて俺は絶対に認めない。

 俺はゆっくりとした動作で煙草に火をつけるウィルに焦れながらも次の言葉を待った。


「お前さんのお姫様を誘拐したのはジエンロって奴隷商だ。こいつはなかなかあくどい手法で奴隷を集めてるって男でね。お前さんのお姫様とその両親が迷宮に逃げ込む原因を作ったのもこの男さ」

「おま……そんなことまで知ってるのか?」

「情報屋だからな。この街で俺の知らないことと言えば、お前さんがこの街に来る前にいた世界のことぐらいさ。それ以外なら、お前さんのところにいるエルフの生い立ちもお前さんの肩に乗ってるリウンドのことも知ってるさ。なんならバルデンフェルトのお姫様のスリーサイズでも教えようか?」


 どうやらこいつは俺が思っていた以上にすごい男のようだ。まさか、スクルドがリウンドだってことまで知っていうとは思ってもみなかった。


「おいおい、ちょっとは笑ったらどうだ?根を詰めすぎると後からつらくなるぜ?まぁいい。とりあえず話をもどすが、ジエンロの根城は街の西部にある色町の先だ。詳しい地図はこいつ」


 そう言って投げてよこされた地図はこの街のもので、一つだけ赤いしるしがつけられている。


「問題はジエンロが根城にしている家には10を超える護衛や冒険者がいる。どいつもこいつも結構な手練れだから今のお前じゃけっこう苦戦すると思うぞ?」

「……お前は情報を売るだけじゃなくて買いもするんだよな?」

「ん?まぁな。自力で手に入らなかった情報は持ってる相手に聞けばいいからな」

「じゃあ、俺がそのジエンロってやつの下に行ったことを買え、んでレナかアリアにそいつを売ってくれ」

「おいぉい。俺は伝言板じゃないんだぜ?そんな面倒なことなんでしなくちゃいけないんだよ」

「ここで俺が死ねばお前と取引することも出来なくなるぞ?もし俺が無事で住むなら、俺が情報を必要な時はお前から買ってやるよ」

「はぁ~。ったく、わがままな男だな。ま、いいだろ。買値はギルドの姉ちゃんかエルフの姉ちゃんに情報を流すってことでいいだろ?」


 情報を売る、アリアたちからも金をとろうと思えばそうすることも出来るだろうに情報を流す、と言ったのはこいつなりの優しさみたいだ。

 案外こいつもいいやつなのかもしれない。


「あぁ、そいつで頼む」

「毎度。ちなみに、怪我するまでは手ぇ出すなよ?正当防衛が成立すれば何人か殺したって罪にはなんねえからよ」


 地図を見て駆け出す俺の後ろからそんなことをウィルが叫んだ。

 できることなら人を殺すってのはやりたくないけど、プリルを助けるためにやむを得えないかもしれない。俺は震える手を固く握ってジエンロの根城に向かって走った。


 プリル、無事でいてくれよ。 






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