25話 そろそろ魔法が使えるみたいです
目が覚めると俺は自分のベッドの上で横になっていた。
いったいぜんたいどういうことだろう。ベッドの横ではプリルが力尽きたようにもたれかかってるし、スクルドも俺の枕もとで丸くなっている。俺はいつの間に寝たんだ?
「あ”!」
思い出した。魔法がどんなもんか試していたらいろいろあったんだ……
ここに寝てるってことはアリアかレナが見つけたってところか?時間がわかんないからアリアがいるかはわからないけど、プリルがいるってことはレナは帰ってきてるだろう。
「あ!やっと、起きたのね」
扉を開けて部屋に入ってきたのはアリアだった。やばい、アリアが帰ってきてるってことは柵のことは間違いなくばれてる。
「帰ってきたら家の前で倒れてるんだもの。驚いたわよまったく……」
柵がブチ壊れてたこともびっくりだったんじゃないでしょうか?
「まぁ、レナが命に別状はないって言ってたからそんなに心配はしなかったけど。なんであんなことになってたわけ?モンスターでも襲ってきたの?」
違うんです、魔法の練習してただけなんです。心配そうにしてくれるアリアには申し訳ないが、正直黙っていたい。
「……ごめんなさい、魔法の練習で柵を壊しちゃいました」
「へぇ~魔法の練習だったんだ」
あの、それだけですか?
「魔力使い果たして気絶したわけだったのね。どおりでレナが安心しろっていうわけだわ」
「……あの、怒らないの?」
「なんで?」
なんでってあの……
「だって……策を壊したし……」
「ここはあんたの買った家でしょ?あんたのものじゃない。壊そうがどうしようがあんたの勝手でしょ?さすがに私の部屋のものを壊したとか言われたらそりゃあ怒るけど」
…………完全に予想外だ!
柵を壊したなんて言ったらレナやプリルを連れてきたとき並みに怒られると思ってたのに。
確かに俺の家だっていえば俺の家だけど、みんなで暮らしてるんだからとか理由はあると思うのに……
「ま、倒れたあんたを心配したプリルには謝っておきなさいよ。またこんなことにならないようにしっかり魔法について勉強しなさい」
そう言ってアリアは部屋を出て行った。
雷が落ちると思っていただけに拍子抜けするほどあっさりとした別れに思うところはあるけども、まぁ気にしてもしょうがない。
アリアに怒られないなら心配は何もないだろ。外を見ればとっくに夜の帳が落ちている。明日も魔法の練習をしよう。そう思いながら俺は再び眠りについた。
翌日、アリアも言っていた通り心配したというプリルに謝ってから今日も魔法の練習のために庭に出た。昨日のことが心配なのか今日はプリルも縁側みたいなところに座ってこっちを見ている。
いろいろと俺の魔法は危ないみたいだからプリルに危険がいかないように気を付けないとまずいな。
そもそも、俺はどの系統が得意なんだろうか?
どの系統の魔法を使っても威力が桁違いだったからどうにも判断が付きづらい。闇と光の魔法なんかは試してないし、こっちも試さんことには何とも言えないか。
今日重点的に試す魔法も決まったことだし、さっそく初級魔法を試してみることにした。
教科書(魔術の本)で所定のページを開く。
「……試せそうな魔法がないだと……」
ヴァンヘルトもあることだし闇の魔法から試そうとしたんだけど、初級に当たる魔法は、敵の視界を奪い闇の中に覆い隠すダークネスや敵の体力を奪い自分のものにするドレインといったものしかなかった。
試す相手が居れば大丈夫だろうけど、誰もいない。プリルで試すなんて論外だ。
仕方がないから光系の魔法にしよう。
「お、これなんかいいな『ライト』」
周囲を照らす魔法で、この間の迷宮みたいな暗い洞窟なんかでは非常に便利な魔法みたいだ。が、問題がある。
「……真昼間に試したって明るくなったかどうかわからん」
何かを光らせるのではなく周囲を明るくする魔法なのだ。周囲が明るい状況で試したところで明るくなっているかなんてまったくわからない。
「くそ、次だ」
闇の魔法と同じで、今の状況で試せる魔法が見当たらない。傷を癒すヒールや状態以上を回復するエイドなんかは傷ついた人間が居たりしないと試しようがない。
神は俺に闇と光の魔法を試させないようにしているようだ。
「しょうがない」
仕方がないので、昨日試した魔法の威力を自分の意志でしっかりと調整できるようにしよう。
最後に使った津波の魔法みたいに自分の意志で威力や魔法の大きさを調整できないなんて実用性に欠ける。
『ウィンドカッター』
手始めに使ったのは柵をぶち壊した風魔法。本日は詠唱を破棄したおかげで大きさはだいぶ抑えられているがやっぱり俺の想像していたものよりはるかにでかい。しかも、かまいたちの時のように不可視の風ではなく、わずかにではあるが空間が揺らめくのが視認できるほど圧縮された空気の塊だ。
風のナイフを使っていたときみたいな小さなかまいたちをイメージしたのにプリルの身長ぐらいの大きさがある。もっと小さく小さくだ。
一度魔法をキャンセルしてイメージをし直す。
『ウィンドカッター』
全然大きさが変わっていない。
『ウィンドカッター』
『ウィンドカッター』
『ウィンドカッター』
『ウィンドカッター』
『ウィンドカッター』
下手な鉄砲数うちゃ当たるってな具合に連発してみるが一向に大きさが変わらない。あれか?俺の魔法は俺のイメージが気に入らないのか?
「ったく、どうしろってんだよ……」
小さくするイメージが弱いのか?詠唱で小さくなるように詠唱することも出来なくはないだろうけど、俺の考える弱いウィンドカッターの詠唱なんて「そよ風よ、敵をなでよ」とかそんなもんだ。ぶっちゃけこんな詠唱で発動する魔法は使いたくない。
何の気もなく手を振って自分の頭に沸いたイメージを払しょくする。と、風の流れがおかしい。
「?」
特に風も吹いていなかったはずなのに俺の手を振った先から奇妙な風の流れを感じた。手を振ったのだから仰いだようにほんのちょっとの弱い風が起きるならまだわかるが、かまいたちが通り過ぎたような風の流れが俺の頬を撫でたんだ。
手を振ってみるが巻き起こる風は普段暑いときなんかに手で扇いでるようなそよそよとしたものだ。さっきの奇妙な流れとは全然違う。
「……もしかして」
俺は頭の中でイメージをしながらも詠唱どころか魔法の名前すら言わなかった。が、俺がイメージした通り拳大の火の玉が俺の目の前に出現する。
「おぉ!」
どうやら、魔法の名前を呼ぶだけでイメージはより強固になり、威力が上がっていたみたいだ。詠唱破棄じゃなくて無詠唱でやればよかったのか。そう言えばかまいたちを使ってた時も詠唱どころかかまいたちと口に出したことは一度もない。
ようやく魔法を使う糸口がつかめたぞ。
「……あれ?」
がっくりと体から力が抜ける。この状況は昨日と同じだ。
やばい、魔力が切れたみたいだ……
その後、プリルに大泣きされ帰ってきたアリアには思いっきり怒られた。
魔法の使用は計画的にやるようにしよう。
今回の話に際して以前の武器屋での会話が不自然なので訂正させていただきました。
詠唱破棄は『風よ我が敵を切り裂け、ウィンドカッター』の『風よ我が敵を切り裂け』の部分を破棄して魔法名だけを言うスタイルです。
無詠唱はそんな詠唱自体を行わず、無言のまま魔法を用いる方法です。
魔法の才能がないのになんで?って感じの会話は26話以降で出ますので、ご了承ください。
ついでですが、別作品を書き始めました。一応メインはこちらなので、更新頻度はこちらよりも劣ることになりますがよろしければ「勇者はじめました」もよろしくお願いします。